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カシオペアファイバ+6ギガハードディスク換装騒動顛末記
(その2)
ここから先は、芦沢兄先生のカシオペアファイバ顛末回想記に譲ろう。
- 芦田部長は、購入したばかりのカシオペアをハードディスク換装のために秋葉原の某業者に預けていた。電話はその業者からのものだった。私が直接その電話にでたわけではなかったが、芦田部長と業者のNさんとのやりとりをそばで聞いていると、どうやらハードディスクの換装に失敗したらしい。失敗どころか、元に戻すことさえできないという最悪の状況のようだ。そのわりに業者側は芦田部長に謝罪している様子もない。
- 私は、このとき不審に思った。ハードディスクの換装に失敗するのはともかく、元に戻せないというのはどういうわけだろう。元に戻せないとしたら2つの場合しかない。ひとつは、ハードディスクの換装の作業をしているときに、カシオペア本体のハードディスク取り付け部分かもともと搭載されていたハードディスクを破損してしまった等の物理的な事故。もうひとつは、元のハードディスクにインストールされていたOSが動かなくなってしまい、何らかの理由でOSをインストールすることもできないというOSに関する事故。しかし、もともとWindows98がインストールされていたメーカー製のマシンにOSがインストールできないとは考えにくい。まして、パソコンの改造を請け負うぐらいの業者である。OSのインストールなど朝飯前だろう。ということは、物理的な破損だろうか。それなら、業者が、顧客から預かった大切な品物を壊したことになる。では、なぜ芦田部長に謝罪している様子がないのか。
- その後、せっかく購入したばかりのカシオペアが、もうただのガラクタになろうとしている状況と、本人自身がパソコンの仕組みにあまり詳しくないという事情も手伝って、芦田部長は、たまたまその日夜間の講座がなかった私を、状況把握のために秋葉原の業者へと送り出すことになった。
- 秋葉原に着いたのは、6:30ごろだった。ICAを出る前に、業者のN氏は7:00に退社すると聞かされていたので足早にその店へと向かった。
- 店に入って店員に聞くとN氏は2階にいるということなので、小さなエレベーターで2階へと上った。2階にN氏はいた。いかにも秋葉原風の人物だった。
- 「カシオペアを預けた芦田の使いで参った者ですが、詳しく状況を教えていただけますか」
- N氏は思いつく案件がないといったような顔をして返事をした。
- 実に意外だ。私は、業者が何らかのミスを犯してマシン本体かか元のハードディスクのいずれかを物理的に破損したのではないかと思っていた。あるいは、百歩譲って業者は何のミスも犯さなかったとしても、もともときちんと動作していた客のパソコンを預かってそれを動かせなくしてしまったのだからどんな理由があろうと、業者は悪いのだ。そのことをどう考えているのだろう。
- 「芦田本人はあまりパソコンの仕組みに詳しくないので、コンピュータのメンテナンスなどの仕事をしている私が参りました。元のハードディスクにも戻せないというのはどういうわけでしょうか。」
- さっそく、核心について聞いてみた。
- 「まず、換装しようとした新しいハードディスクには、元のハードディスクからデータが転送できませんでした。元に戻そうとしたら、元のハードディスクからブート(芦澤注:システムの起動のこと)できなくなっていました。マスターブートレコード*が壊れているようなので、FDISKでMBRを作り直さないと元には戻せません*。それで、カシオペア用のポートリプリケーターとフロッピーディスクドライブが必要ですのでご用意してくださいと言ったのです。(芦澤注:芦田部長との電話のやりとりで言っていた)」
<用語解説>
「マスターブートレコード」「MBR」
ハードディスクからOSが起動するために必要なハードディスク上にある特殊なデータのこと。「MBR」と略すこともある。ちなみに、この領域を侵すコンピュータウィルスに感染するとパソコンは起動できなくなる。
「FDISK」
「FDISK」とはDOSのコマンドのことで、ある特別な方法でこれを使用するとハードディスクのマスターブートレコードを作成し直すことができる。
- 「そうですか。マスターブートレコードが壊れたのですか。それではブートしませんね。それで、芦田がカシオペア用のポートリプリケーターとフロッピーディスクドライブを用意することになっているのですか。それにしても、どうしてMBRが壊れたのでしょう。最初から壊れていたのでしょうか。」
- 私は、相手の責任問題に触れる部分なので、かえって居丈高にならないように気を使いながら質問した。
- 「原因は分かりませんね。最初から壊れていたということはありません。」
- N氏は悪びれた様子もなく余りにもあっさり答えたので、私は拍子抜けしてしまった。けれど、ひとまずマスターブートレコードが壊れているために元に戻せないということが分かり、またその後の処置については芦田部長と電話で決めているようだったので、それで引き下がることにした。ただ、私だったらこんな業者に大事なパソコンの改造など絶対に依頼しないぞ、この店では2度と買い物をしないようにしよう、仲間にもこんな態度の悪い店では品物を買わないほうがいいと教えてあげようと心の中で思っていた。店を出た後、電話で芦田部長にカシオペアを元に戻せない原因を報告すると、「ハードディスクの換装はともかく、元に戻すことはできるのか、最悪もし戻せなかった場合には、保証してくれるのか確認してくれ。」という指示を受け、その足でもう一度店へと向かった。そのときすでに7:00をいくらか過ぎていた。
- 店の中へはいるとN氏の部署はすでに業務を終えていたところだった。N氏の顔を見ると私はすぐに質問をした。
- 「先ほどの者ですが、確実に元に戻すことはできるのでしょうか。」
- 「ですから、そのためにはポートリプリケーターとフロッピーディスクドライブがいるのです。ただ、それだけではハイバネーション*領域は作成できません。それには、カシオペア用のCD-ROMドライブも用意していただく必要があります。」
<用語解説>
「ハイバネーション」
ノートパソコン等によく搭載されている機能。使用時のパソコンの状態を記録し、次に電源を投入したときに素早く前回の使用状態に戻す機能。
- 私はノートパソコンのハイバネーション機能の修復を担当したことがなかったので(たまたまICAで授業に用いているパソコンの中にはそのようなノートパソコンがなかったため)、「カシオペア用のCD-ROMドライブ」まで必要という理由が分からなかった。それに、業者のミスで元の状態に戻せなくなったパソコンを修復するのに、新たに部品を用意しろと平気で言ってのける厚かましさと、それぐらいの部品の用意もなくこの業者がノートパソコンの改造を請け負っているということに驚いたこともあって、「ハイバネーションの機能を復旧させるのに、どうしてCD-ROMが必要なのですか。」と質問をした。
- 「最初は、簡単にハイバネーション領域を作成できると思ってやってみたのですが、カシオペアの説明書を見てみると付属CD-ROMの中に特殊なプログラムがあって、CD-ROMからOSをインストールするときに同時にハイバネーション領域を作成するようになっているのです。だから、フロッピーディスクドライブを取り付けて、そこからブートして付属CD-ROMを使ってOSのインストールとハイバネーション領域の作成を同時に行う必要があります。こういうことがあるから、うちはフロッピーディスクドライブなしではパソコンをお預かりしないようにしているんですよ。」
- 私は、N氏の答えと態度にますます驚いた。また、いくつもの技術的な疑問もわいてきた。私が全くのパソコンの初心者だったら、N氏の繰り出す専門用語に途方に暮れていたかもしれない。
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