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「ざうまがWEB」事件(「芦田の毎日」163番http://www.ashida.info/trees/trees.cgi?log=&v=167&e=msg&lp=167&st=0〜176番http://www.ashida.info/trees/trees.cgi?tw=&log=&search=&mode=&v=174&e=res&lp=167&st=0を参照のこと)で、私が一番強く感じたのは、「他者」とは何かということです。
この「ざうまがWEB」で(リーダーシップをもって)発言している人たちは、マニュアルなしでもザウルスが操作でき、マニュアルに書かれていない機能も知っている人たちです。もっと言えば、アプリケーションも自分で作ってしまう人たちです。そういう“反応”が、私の意見に一挙に殺到しました。
たとえば、今回の件で言えば、「ユーザー辞書が今回の新ザウルスにはない」という私の指摘に対して「年明けにはインターネット上でサポートされます」などと答えてくる。あるいは、「フロントライトの常時ON設定が初期設定の中にない」という私の指摘に対して、「ありますよ」などと答える。「(嘘をついて)すみませんでした。教えて下さい」と言うと教えてれるが、それは、“裏技”。「解説書のどこに書いてありましたか」と聞くと、「私は解説書なんて一回も見たことがありません」と誇らしげに答えてくれる。そして、こうして「ものを買うときにはきちんと調べて買うべきです」と説教されて、私は“スミマセンでした”というより他なくなる。
この人たちは12月15日の新ザウルスの発売日前から、今回の新ザウルスの裏情報をかき集めて、“賢い”消費者となっている人たちなのだ。
もっと別の言い方をすれば、商品としてのザウルスの欠陥を自らで補うことができる「消費者」なのである。
こういったインターネット上の「(賢い)消費者」は、〈商品〉をダメにするというのが今回の最大の経験だ。
私が商品コンセプトに不整合があると指摘すると、「そんなのは、こういう使い方をすれば不整合(欠陥)ではない」とか、「商品に欠陥があることは認めるけれど、それは知らずに買った消費者が悪いんだ」というのは、いったいどういう発言なのだろうか。
はっきりしていることは、こういった立場に立てば、〈商品批判〉という観点は出てこないということだ。
〈商品批判〉というのは、メーカーの(主観的)意図とか、あれこれのユーザーの使途とは関係なく、まして裏情報とは関わりなく、商品それ自体に内在している思想を取り出すことにある。それ以外に商品を批判することはありえない。
商品それ自体に内在している思想、というのは、誰でもが公開的にアプローチできる内容ということである。アメリカの良質な消費者運動の一部では、商品が出る前の批評を行わないという原則、つまりそのものを“普通に”買って批評するという原則を守っているところもある(日本で言えば、『暮らしの手帳』の商品テストがそうだった)。
商品についてそれが市場に出る前に「知る」というのは ― 私はその努力をしないから「ざうまがWEB」から怒られたわけですが ― 、自動車批評がそうであるように、かならずメーカーの情報に媚びざるを得ないところが出てくる。またそういった情報の正否は誰も判断できない。なぜならそれはまだ人々が手にする商品そのものではないからだ。
よくAV(オーディオ・ビジュアル)誌の商品批評で、商品完成版になったときには「もっといい色調がでるだろう」(ビデオの場合)などとわけのわからない前情報“批評”を加えている批評家がいるが、これを読者はどう“理解”すればいいのだろうか。
こういった“批評”は誰も(第一にメーカーが、第二に批評家も)責任をとることができない。なぜなら、まだ〈商品〉ではないもの(特定の人間しか知らない特定の商品、つまり私的なオブジェ)を批評しているからだ。
それはアングラ情報で“政治批評”したり、“分析”したりする評論家に似ている。人が知らない、共有できない(容易に近づけない)情報でもって、批評する。それは、私的なことを私的に語っている単なるモノローグにすぎない。だから、少しでも〈他者〉が入り込んでくると感情的になったり、(インターネットの場合には)IPアドレスまで追跡して排除してしまう。
たとえば、昨年ベストセラーになった三好万季の『四人はなぜ死んだのか』(副題:インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」)http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3a0754420f7d80104bbf?aid=&bibid=01689638&volno=0000が圧倒的に優れていたのは、新聞や公的研究所の公開情報を当てにして推論を重ねていく、というスタイルを取っていたからだ。
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