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連載:高等教育・職業教育・生涯教育(6)[論文]
(2001-02-03 00:57:49) by 芦田 宏直


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2-9)実習評価の問題

 授業評価会での収穫は数々あったが、特に取り出して触れておかなければならない問題がある。それは、実習評価の問題である。

 実習授業は具体的な技術や知識を身につける、専門学校教育の生命線である。これまで、実習授業の履修評価は課題物(オブジェクト)の提出という形で行われてきた。現にわれわれが見学した実習授業はいつでもオブジェクトに関わって行われていた。

 たとえば、学生が建築図面を作成するという授業では、その図面の完成物が履修評価の対象となる。授業中は、学生が図面を書いているところを先生が周りながら、ときには立ち寄り、指示を与える。「こう書きなさい」、「そんなことをしては駄目です」というように。そんな指導を繰り返しながら、授業を重ねる毎に〈作品〉は完成に近づいていく。そうして出来上がった〈作品〉を評価することが、履修評価(=試験)になっている。

 これはおかしい。この〈作品〉は、厳密に言えば、先生と学生との共同作品であって、学生の能力評価とは言えない。実習授業は、課題物さえ提出すれば全員合格になっている。なぜか。それは指導した先生の自己評価だからである。落第生を出すということは、先生の自己否定を意味することだからだ。たぶん落とされた学生も、「だって先生の言うとうりしたのに」と言うに違いない。

 能力の育成の基本は、自立的な能力の育成にある。われわれは、学生と一体になって付き添いながら卒業させるのではなくて、学生を単独で社会に送り出すのである。その課題に対して、このような実習評価は、評価ではない。実際に先生自身が“手を入れる”という形でオブジェクトに介入するため、学生の方も、先生が手を入れる〈意味〉がわからないままに終わってしまうことが多い。オブジェクトに〈意味〉が紛れ込んでしまうのである。〈作品〉は出来上がるが、〈作品〉の意味は理解できないままに終わっているのである。もう一度一人で作れと言っても作れないだろう。場合によっては教えるのが(意味を理解させるのが)面倒くさくて、自分で8割方作ってしまう先生もいるくらいである。それが現状の実習教育の限界なのである。

 実習教育の多い専門学校の学生の能力評価が社会的に低い原因は、案外こういった実習評価のあり方に根があるのかもしれない。結果重視のオブジェクト主義を変換する必要がある。

2-10)授業評価ポイント

さて、当初は戸惑った「授業評価会」ではあったが、何度も授業評価会を重ねる中で、授業評価のポイントとも言えるものが、自然に浮かび上がってきた。つまり、どの観点から授業評価すべきか、この授業はどこに改善課題があるのかが徐々に見えてきたのである。評価ポイントは、全体で11のポイントに収斂していった。

1)授業全体目標(シラバス)、授業目標(当該コマシラバス)、授業評価(当該コマのどのような内容理解が60点以上になるのかならないのか)の提示がなされているかどうか?

2)その授業で話されることになる肝心な内容(つまり毎年おなじことをしゃべっている箇所)をまとめた資料が存在しているか? 
?トークに依存しすぎていないか
?板書に依存しすぎていないか
?既成教材や実習対象に依存しすぎていないか
?学生の「自主性」に依存しすぎていないか

3)資料(既成教科書、サブテキスト、実習対象など)と授業内容との整合性はとれているか(教材活用に散漫さや恣意性はないか)?
 ?既成教科書活用度
 ?サブ教材活用度  
 ?実習対象活用度

4)授業資料の参照指示性(資料の指示性や集中性)に散漫さはないか?

5)授業理解・授業プレゼンに関して、理解のポイントや間違いやすい実例などを資料とともに指摘し、前年度までの授業運営を活かした授業展開ができているか?

6)抽象的な能力(概念理解能力)を開発するツール(教材)を有しているかどうか?

7)授業の、〈教育的な〉時間配分は適切かどうか?(教育目標とは別の作業などで時間がとられすぎていないか。できない学生の個別指導で時間がとられすぎていないかなど)

8)ノート活用はどうなっているか? a)ノート持参度(筆記具持参度) b)ノート記入度

9)授業を復習する場合の教材資料の集中性は妥当か(記憶や学生の「自主性」に頼らない授業になっているか)? 
 ?サブテキストなどの書式の統一性(サイズの統一、ページの記載、ヘッダやフッタの記載、教科書やノーツへの参照指示性はどうか)
 ?ファイリングの有無(前回の内容が記されているものを学生が持参しているかどうかなど)

10)授業内容の、外部要素(社会的な要素)からの風通しはどうか?
 ?当該授業内容と資格試験との関連性は言及・教材化されているか
 ?当該授業内容と実務現場との関連性は言及・教材化されているか

11)教場環境はどうか?
 ?机が乱れていないか、ゴミなどは落ちていないか

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