クルマ購入法10箇条
1)一番に〈形〉だ。いくら高性能と言ってもカタチがよくなければ納得できないだろう。他人に洗車させるのがつらいくらいにカタチに惚れ込まなければ、買っても、走っても意味がない。特にリヤビューは大切かもしれない。リヤビューは一番長い時間、じっと見られる場所だから。先々代のシルビア(http://www.carview.co.jp/Vip/UsedSingleYear/NISSAN/SILVIA/1988.asp)なんて、リヤビューの美しさでだけで売れたようなものだ。後ろに付いているクルマのドライバーや助手席の彼女に、信号待ちで止まったとき「かっこいいね、このクルマ」と言わせたら、勝ちというところだろう。
たぶんクルマのデザインで一番難しいのはCピラー(クルマの天井をフロントで支えるのがAピラー、中間で支えるのがBピラー、後部で支えているのがCピラー)が降りているところだろう。ここは、サイドビューとリヤビューの整合を取らなければならない一番難しい造形だ。サイドから見れば美しいのに、後ろにまわったら陳腐、その逆でリヤから見ればきれいだのに、サイドビューが陳腐というのは、Cピラーの降ろし方(言い換えれば、リヤウインドウの三次元曲面の造形)を失敗しているのである。クルマというのは、全方位で見られるというのが、デザイナーの苦労のしどころだ。要するにデザイン的には、前も後ろもない。すべてが前方といってもよい。そういった緊張感が集約されているところ、そこがCピラーのラインだ。
たとえば、96年に発表されたBMWの5シリーズ(BMWの傑作の一つhttp://www.bmw.co.jp/Library/Automobile/5series/index.html)はサイドビューは優れているのに、リヤービューにまわると、小振りで場合によっては先代の3シーリーズと区別が付かなくなる(全幅が1800もあるのに、シルビヤや新カローラより小さく感じる)。これはCピラー、つまりはリヤウインドウの造形が通俗的だからだ。
Cピラーの天井から降りてくるラインが、サイド曲面を重視するか、リヤ曲面を重視するかでクルマの印象は決定的に異なってくる。両者の整合を取ろうとすれば、リヤウインドウを3次元的に立体化するのが一番楽な遣り方である(ガラス屋さんは技術的にいやがるが)。ポルシェ944のリヤウインドウやそれをまねたFC13BのRX−7(http://www.mazda.co.jp/history/rx7/Java/index.html)などは、リヤウインドウの3次元化(リヤガラス面をサイド面まで曲がり込ませて、Cピラーをリヤビューから隠すこと)を徹底的に押し進めて、リヤビューとサイドビューの造形に整合性を持たせていた。見事な造形だった。
最近では、先代ホンダオデッセイがCピラーをリヤビューから見えなくすることによって、ガラス屋さんの技術に頼らないで(経済的に)、サイド−リヤの整合性をとっていた。オデッセイを乗用車のように見せるホンダらしいうまいやり方だった。
もう一つは、タイヤハウスの美しさもポイントの一つだ。これには、日本のクルマはすべて落第。日本は官許的な規制で、冬場のチェーンを付けやすくするためにタイヤとフェンダーアーチとの間に不均整な隙間が空けてある。この間抜けた空間が美しいサイドビューを台無しにしてしまっている。そのこともあって、タイヤハウスのデザインは日本では進化が止まっている。もっとも美しいタイヤハウスのデザインはフェラーリだ。誰が見てもバカが乗っているとしか思えないフェラーリもあのタイヤハウスの美しさにはうっとりしてしまう。
2)次は、エンジンではなくて、足回り。クルマには、飛行機や船舶と同じように、ロールイング、ピッチング、ヨーイングという3方向の揺れがある。ローリングはクルマを正面から見たときの左右の揺れ(コーナーリングに影響がある)。ピッチングは、クルマを真横から見たときに前後の揺れ(発進、加速、減速、停止といった場合のクルマの挙動に影響がある)。ヨーイングはクルマを真上から見たときの左右の揺れ(主にハンドリングに影響がある)。
この中でもっとも不快なのが、ピッチング。(たとえば信号で)クルマが止まるときにクルマのノーズが沈む、ふたたび発進(あるいは加速)するときに今度はノーズが浮き上がる(リヤが沈む)。これが日常的なピッチング。ダメなクルマほど、浮いたり、沈んだりの度合いが大きい。車酔いの原因の一つだ。ホンダの“高級車”レジェンドが、高級車でもなんでもないのは、ピッチングがひどすぎるからだ。急ブレーキを踏んでフロントがおおきく沈むクルマを高級車とは言わない。250万円以上のクルマを買うとき(試乗したとき)は、まず、急ブレーキを踏む。ノーズがおおきく沈めば、買うのを止めましょう。
ローリングは、特に高速でコーナーに飛び込んだときに、ノーズの内側がふくれあがる現象。優れたクルマほど、このふくれ上がりを制御してくれる。左へ曲がろうとしたらノーズの左側が自然に沈んでくれる(浮かばずに)、右へ曲がろうとしたらノーズの右側が自然に沈んでくれる(浮かばずに)、これがローリングに強いクルマの快適さ。
ヨーイングは、クルマの向きを変えるときに、クルマの前方が重すぎたり、後ろが重すぎたりすると、左右に降られる動きの収束が悪くなり、自在なハンドリングが阻害される動きを言う。フロントが重いクルマはハンドリングが鈍重だし、リヤが重いクルマ(ポルシェ911)は加重移動の影響が大きくて下手なドライバーはすぐにスピンさせてしまう。