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全文掲載「東京工科専門学校の教育改革」[論文]
(2002-08-05 11:19:28) by 芦田 宏直


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●東京工科専門学校の教育改革(1) ― シラバス改革の幻想

 20世紀から21世紀の変わり目の中で、教育組織の最大の問題は、少子化問題だった。「教育の危機」「教育改革」自体は年中行事のように叫ばれていたが、少子化問題は教育内容以前に学校の存在意義そのものが問われるという意味で、それらの問題意識をさらに(現実的に)先鋭化させる契機だった。

 私の勤務する東京工科専門学校(以後「東京工科」と略す)でも事情に変わりはなかった。遅きにすぎたとは言え、98年末にAプロジェクト(学園の中期戦略ためのAdvanced Project の略称)を、東京工科グループ4校の若い世代の諸科長を中心メンバーにすえ、発足させたが、そこで最初に問題になったのが、いったい何から手をつけるべきか(何を改革するのか)であった。

 「教育改革」といえば、「カリキュラム改革」ばかりが従来から(学内外で)目立っていた。生き残りをかけたマーケティング戦略という意味では、わかりやすい“差別化”や“変化”がどうしても前面化する。そうなるとほとんどの学校のリーダーたちが意識しがちになるのは、カリキュラム改革(あるいはそれに基づく「新科」の設立)という局面なのである。そうやって、専門学校をはじめ多くの大学、短大は中身のない新科、新学部を設立し続けてきた。

 しかしその結果が、経済学部を出ても経済のことがわからない、建築科を出ても2級建築士さえ受からないという“高等教育”だったのである。

 いったい何が欠けていたのか。

 カリキュラム改革や新科プログラムは、実は単なる“脚本”にすぎない。脚本がよくてもそれを演じる俳優や舞台の検証がなくては、単なる絵に描いた餅に終わる、というのが私たちの予感だった。俳優や舞台の検証とは、一言で言えば、授業評価のことだ。どんなに優れたカリキュラムや新科構想も、それが実行される場所としての授業評価の体制が整うことなしには、ほとんど意味をなさない。それは、ちょうど「シラバス」(「講義概要」)が存在すれば、その通りの教育がなされていると思い見なす錯誤に似ている。

 90年前後からアメリカの大学の影響を受けて、日本の大学でも「シラバス」という言葉が広がりはじめ、ここ10年、各大学のシラバス(あるいは講義概要)は、どんどん分厚くなってきた。それは試験で学生を「選ぶ」大学から、少子化によって「選ばれる」大学の“情報公開”運動の一環であった。

 このシラバス主義が一番見落としているものは、そのシラバスが実際に展開される〈授業〉というものだ。シラバスは予告編にすぎない。予告編は裏切ることもある。シラバスをいくら詳細化しても、それは〈授業〉それ自体ではない。〈シラバス〉が意味を持つのは、授業評価と一体になってこそのことである。

 そして私たちに欠けていたのは、その授業評価のノウハウだったのである。

 むしろ授業評価のない、評価のできない教育をすべてカリキュラムの所為にして、あるいはシラバスの不在の所為にしてそれを隠すための処方箋が“カリキュラム改革(あるいは新科の設立)”“シラバス改革”という戦略だったとも言える。脚本(=カリキュラムやシラバス)は何本も用意された。しかし舞台は穴だらけで誰もまともに演じようとしない、というのが少子化問題以来の教育改革の空虚な中身だったのである。(次号につづく)

●東京工科専門学校の教育改革(2) ― 授業評価という課題

 ところで、「授業評価」とは、一体何か? 評価のためには、目標がなければならない。その授業が“いい”授業か、“悪い”授業かを評価するためには、いったいその授業が何を目標にしてなされているのかがはっきりしていなければならない。「シラバス」は、その意味で、一つの目標提示にはなっていたが、それが「授業評価」に何の役にも立たないのは、実際の授業は、一つ一つの時間割の中で展開していくものであり、そして授業評価は実際の授業に向けられなければ意味がないからである。シラバスをいくら詳細に検討しても授業評価にはならない。そんなことは文献学者に任せておけばいい(「文献」にすらならないかもしれないが)。

 われわれの教育改革が始まったのは98年だったが、机上の論議は止めて実際の授業の中に入り込むことにした。他の科長や教員、総務のスタッフなど“異分野”のスタッフも含めて、50クラス以上の授業で、一授業に10人くらいが授業見学し、その日の内に担当教員を交えた授業評価会を実施した。この授業評価会をやってはじめて(今更のようにでもあるが)わかったことは、評価がばらばらだったということだ。「この授業はダメだ」という人もいれば、「そんなに悪くないじゃないか」という人もいる。

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