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「個別最適化」学習を学校教育に持ち込むと教育格差はますます拡大する。[これからの大学]
(2025-08-31 11:36:52) by 芦田 宏直


8月27日のFacebook投稿で、元文科大臣の下村博文さんが、以下のようなことを言っていた。

なぜ全員が同じ教科書、同じスピードで学ばなければならないのでしょうか?現在の義務教育は、全国一律のカリキュラムに基づき、子どもたちが同じ内容を同じペースで学ぶ仕組みです。しかし、理解が早い子もいれば、じっくり考えることで力を伸ばす子もいます。画一的な教育は、子どもの多様な才能を活かしきれず、結果的に学ぶ意欲を奪うリスクがあります。

そこで私は「AIドリブン学習革命」を提案します。AIの活用によって、子ども一人ひとりに合わせた個別最適化された学びを実現するのです。学びが早い子はさらに挑戦的な課題へ、つまずいた子には理解を深めるサポートを。教師は「一斉に教える人」から「伴走する人」へと役割を転換し、子どもが自分のペースで確実に学びを積み重ねられる環境を整えます。義務教育を一律から個別へ。これこそ次世代の学び方だと考えます。皆さんはどう思いますか?ぜひコメントで意見を聞かせてください。

ーーーーーーーーーー(引用終わり)


こういうことを文部行政にかかわってきた人が言うのは、実に寂しいことだ。

下村さんがダメなのは、こういう個人主義的な教育観に囚われているから。基本思想は中曽根臨教審と同じ。学校は生涯学習の一部、学校民営化(=教育の自由化)という思想だ。これはすでに1960年代にテッドネルソンがハイパーリンク論で語っていたことだ。100人いれば100人の学びのプロセスがあるというもの。学びは多様だというもの。

こうなると学校教育体系は、生涯学習的な学びの主体の自主性や主体性を阻害する邪魔なだけのものとなる。

しかしAIによる個別最適な学習(文科省が使う「個別最適」という言葉は半分間違っていて、工学的には、これは「全体最適」と対になっている言葉)によって、10÷2=5という答えを、18歳になってもわからない子供を認めることになる。なぜか。一人一人の理解のスピードと時間割の多様を?画一的に?強制してはいけないからだ。一生かけてそれがわかった人にも「よく頑張ったね」と声をかけてあげるという美しい教育論ができあがる。自由は学ばない自由にもなる。いい気なもんだ。教育右派と教育左派とがそこで一致する。

そうなるとこの考え方の危険性は明らか。相対的に文化的・経済的に有利な家庭の子供(主体性が家庭によって保護されている子供)はどんどん飛び級で伸びていくし、そのような保護のない子供は中等教育を終えても、自らの?弱い?主体性によって、二桁の割り算さえできない?自由?の中で育つことになる。

中曽根臨教審は、学校教育は生涯学習の一部(つまり、学びの主体論)、学校民営化論(つまり、教育の自由化)と並んで、家庭教育の重視ということも提唱していた。教育を自由化すれば、家庭重視になるのは明らかで、最終的には保護者が責任を取るという立場でしかない。教員や学校の凸凹の以前に、家庭の凸凹が前面化する思想なのだが、どんどん〈家庭〉が崩壊しつつある現状の中では、子どもたちはむき出しで社会に向かうことになってしまう。

この下村さんの記事に、バカな教員たちが一杯ぶら下がって「大賛成です!」と反応しているが、この人たちは、できない子供に無理矢理勉強させたりしないで、?自由に??伸び伸びと??明るく楽しく?(試験点数など気にせず)学校生活を送らせればいいんだよ、と群れているだけ。子どもたちの学力を最初から見限っているのです。そんな権利は(少なくとも教員であれば)誰にもないはず。「教育の自由」を謳う連中は、実は反動なのです。左翼崩れの保守反動の香山健一が盛んに叫んだのが教育の自由化だったのですから。

教育格差拡大の元凶は、こういった下村さんの一見よさげな個人主義が、?強い?個人(裕福な家庭)に定位しているからです。中曽根臨教審や教育の自由化論は、三浦朱門+曾野綾子的な安手のエリート主義と言ってもよい。

学校教育の目的は、出来上がった学びの主体を前提にして始まるのではなく、学校教育の完成時点で初めて到来する学びの主体を目的にしている。まだ〈個人〉として自立できるかどうかずーっと不安定な軌道を描いているのが子どもたちの実態。その軌道を安定させるために指導要領が存在したり、カリキュラムが存在している。これらは学びの主体を前提しているのではなく、学びの主体を形成するために存在している。それが学校教育の目的。学びたいことを学ばせるのは〈学校教育〉の目的ではない。

下村さんは、香山健一(臨教審第一部会)と有田一寿(第三部会)とが対立した議論から何も学んでいない。


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