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大学の「教育の質保証(Quality Assurance in Education)」について ― 全国の大学のどこにもない三つの取り組みについて
(2025-05-06 13:53:17) by 芦田 宏直


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【はじめに】

授業の質向上への取り組みについて ― 授業情報をいかに共有するか

大学における「教育の質保証」ということについて、私たちは、「授業の質」向上を中核の課題として取り組みました。毎日通う教室の授業が理解できて、それが楽しくなければ、どんなにキャンパスライフが?充実?していても意味がないと考えたからです。

日本の大学生は入学時の学力(受験勉強で培った学力)がピークで、高い学費を払って学ぶ入学後の4年間の成長が見えないとよく言われますが、私たちは、この四年間での学習成果が見える大学教育を目指しました。

大学の授業には、参考書も塾も、家庭教師も予備校も存在していません。最高学府の大学には、高校までのような教科書もない。もちろん文科省による指導要領も存在していない。「教員資格免許」を持っているわけでもない。それもあって、同じ科目名であっても、大学の授業は、先生によって全然異なる内容の授業になったりもします。

そのため、大学には、各科目担当の先生の一人ひとりがその?科目概要?を書き記しています。通常の大学では、その概要書を〈シラバス〉と呼んでいます。

が、現代の日本の大学では、15回(週に一回90分×15週=2単位)の授業の場合、15回全体の授業概要書(シラバス)は1,000字程度しかありません。90分一回分の授業概要は70字程度、一〜二行しかない※。一回90分の授業において先生の話す文字数は2万字以上になりますが、それを二行足らずの?概要?とするのは、あまりにまとめすぎ。何を学ぶべきなのか、さっぱりわからない。
※全国の大学のシラバス文字数を数えた研究(論文)は、それほど多くはないのですが、2014年『大学評価研究第13号』(大学基準協会)では、とある大学(「4学部7学科26コースからなる総合大学、学生数は学部と大学院を合わせて約1万人」の大規模有名大学)一科目(90分×15回)あたりのシラバス平均総文字数は711字と報告されています。これで言えば、一回の授業での?概要?は50字から多くても70字もないことになります。生成AI(ChatGPT)がWebの公開情報から拾ったシラバス文字数の最新の平均は、「1500〜3000字」となりますが(2025年4月現在)、これは、科目内容(「授業計画」)だけではなく、「成績評価方法」「参考文献」「事前・事後学習」「備考・その他」などを含めた総文字数であり、科目内容だけの文字数では、最新のデータでも「750〜1500字」(15回分全体)にとどまっています。

私たちの「授業の質」向上への取り組みは、

1.一回90分の授業毎に、教員が学生に「何を」教授するのかを明確化したこと
2.一回90分の授業毎に、「何を」教授するのかだけではなく、そのプロセスや方法を明確化したこと
3.一回90分の授業毎に、単位認定期末試験にかかわる関連を明確化したこと

この三つを明確にすることが、私たちの教育の質保証=授業の質保証でした。特に力を入れたのが、「一回90分の授業毎」ということです。

「一回90分の授業毎」に授業内容が明確にされ、何を・どのように・どこまで教えるのか、学べるのかを明確化すること、またその一回が期末試験とどう関係しているのかを明確化することが、私たちの出発点でした。

前期・後期制を採用する本学では、各15週間の前期、後期制となるのですが、週に一回の授業科目の場合には、15回に渡るシラバスが、それぞれの期首に発表されます。一般的に全国の大学のシラバスは一科目15回分全部で1,000字前後です。一回90分×15回の内容が1,000字だとすると、一回90分の内容は70字足らずとなります。あっても一、二行程度の授業概要です。

重要なことは、科目全体で1,000字ということではなく、一回90分の授業でどれだけの授業情報が開示されているかです。学生は、毎回の授業に準備するのであって、その毎回の授業の基盤となる情報がなくては予習も復習もできないからです。

これと言った教科書もない、参考書もない、家庭教師もいない、塾も予備校もない大学の授業において、二行程度のシラバスで何がわかるのでしょうか。学生がわからないだけではなく、教員も、一二行しか書いていないとすれば、計画的に授業を組み立てているわけではないということです。思いつきのパワポ(PowerPoint)などを用いて、授業をやっているだけです。パワポもまた教員が授業で話す内容のテーマ(それ「について」話される開始点)だけを個条書きにしたものにとどまっており、肝心な内容はそれについて教員が話すトークに流れ去ってしまいます。ノートをこまめに取らない限り、授業の中身はどこにも残らないことになります。

授業の90分の前後であっても授業内容の全体が見える、予習・復習が充分にできる体制を取らないかぎり、大学「教育の質保証」は一歩も進まないと私たちは考えたのです。


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