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何が実践的な教育なのか ― 多様性にまみれない教育こそ、学校教育の意味[これからの大学]
(2014-10-13 02:02:17) by 芦田 宏直


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1. 少し時間が経ったが、この間、辻調の自己点検評価委員会に参加して、久しぶりに興奮する議論があった。

2. 実務の現場では、たとえば、卵一つにしても、学内実習のように新鮮な卵ばかりが使えるわけではない、様々な理由で鮮度の落ちた卵を使わざるを得ない場合もある。

3. そうすると、ある意味理想的な環境で学んできた学生の料理の技術がたちまち頓挫する場面も多々出てくる。

4. いつも、?上級?の食材で学ぶのではなく、?中級??下級?の食材や環境で学ぶことが職業教育本来の実践的な教育ではないのか。

5. そうでないと、理想と現実とのギャップで、学生達はショックを受け、自分の学んだ技術を発揮する前に、リタイヤしてしまう。昨今の新卒学生離職者の多さも、そのあたりに原因があるのではないか。

6. 卵の鮮度を変えた実習授業、実務の現場の、食材を含めた環境を意識した実習こそが、専門学校の職業教育には必要なような気がする、という指摘だ。

7. これは、辻調の教員の意見ではなく、教育課程編成委員会の実務外部委員の指摘だった。

8. これに対して、辻調の教員の回答は、講義の中ではそういったことは教えているが、実習ではそういった実習をわざわざ行うということはできていない。今後考えてみたい、ということだった。

9. この間の自己点検評価委員会の議論は、このやりとりをどう考えるのか、という私の提案から始まった。

10. 「そこに、問題はない」という製菓のカリキュラムリーダーの発言から議論ははじまった。面白い。

11. 教員「学校で教えることは、『おいしい』という味が何かを教えることであって、まずいときにどうするかの前に、『おいしい』とは何か、ということを教えることが学校で学ぶもっとも重要なことだと思います。そのことなしに、鮮度や食材の質の問題をやっても、小技の話に留まります。そんな小技ほど実務の現場で学べばいいことです。小技しかない実務現場はいくらでもあるのですから」

12. 私「それは大切な指摘だね。なるほど美味しいという味の頂点を見定めることなしに、あらゆる食材の鮮度を見極めながら、その味を目指す調理をすることなどできないよね。味の頂点の高みの体験なしには鮮度の差など存在しないからね。その高みが低ければ、その分鮮度の感覚も鈍くなるに決まっているし」

13. 辻校長「『頂点』というか、『味のストライクゾーン』ね」

14. 私「そうか。なるほど『頂点』というような言い方はたしかにおこがましい。『ストライクゾーン』を外さない経験を学生時代にさせる。それがあらゆる食材評価や食材調理の基本なっていくということですね。たしかに、調理や製菓の事業所(就職先)なんて、小規模なところも多いから、ストライクゾーンと言っても、ゆるめのストライクゾーンの事業所も多いし、経験主義的な外れもある。

実務の現場は色んな意味での?多様性?にまみれている。食材のクセ以上に、味のクセ(外れ)にまみれることの方がはるかに危険。その意味で本来のストライクゾーンをきちんと学ぶには学校しかない。そもそも、離職者が多くなるのも、ストライクゾーンの経験がないからとも言えますね。それさえあれば、自分の務めた事業所がどんなところであっても、どんな食材で料理を作るにしても、ぶれずに仕事に集中できる。ストライクゾーンの経験があるからこそ、目先の多様性の一喜一憂にとらわれずに、道を究めることに邁進できる。

その意味で言えば、道を究めるというのは、多様性に埋没しないということですよね。学校教育が『基本』教育だというのは、基礎教育や入門教育のことを言うのではなくて、実務の多様性に惑わされない基本を身につけさせるということね。その手前の実践教育とか即戦力教育というのは、逆に、実務の多様性に埋もれてしまい新卒離職者を増やしてしまっているということね」

15. 教員「そうだと思います。若い学生のうちに、下手な食材処理テクニックを身につけさせるのではなくて、味覚が麻痺してしまっている若者たちに、まずは味のストライクゾーンを体得させることです。そのための料理、製菓の教育を行うのが第一優先です。技術教育はストライクゾーンの体得を目指すことなしには意味がありません。ストライクゾーンを目指すためにこそ技術は存在しているのですから」。

16. 私「そこ(ストライクゾーン)が分かっていれば、鮮度評価やその処理はあとから付いてくる、と。一方、それをわかっていない人材は、いつも小技で終わる職人に留まる、と。いや、勉強になります。だとすると世間の考える実践的教育とか即戦力人材育成というのと、今の議論とはかなり乖離があるよねぇ。この乖離をきちんと埋めていく努力なしには、実務家と学校現場が議論しても必ずすれ違いに終わる。

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