専修学校の「一条校化」議論が騒がしい。特に専修学校「専門課程」=「専門学校」の「一条校化」における「高等教育」化議論が騒がしい。
「専門学校」教育は「実業教育」「職業教育」と言われつつも、専修学校の枠内に留まっていた。いわゆる「学校教育法」第一章「総則」「第1条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする」という「学校」概念の外に置かれていた。専門学校は「一条校」ではなかったのである。
「専門学校」は厳密に言えば「学校」ではない。
文部科学省の言う「学校」あるいは「学校教育制度」とは、その中核においては「初等教育=小学校、「中等教育」=中学校+高等学校、「高等教育」=大学、短大、高等専門学校の三分類からなる「学校」体系のことである。
この「学校」体系の中に、専修学校制度自体が存在していない。管轄部局も高等教育局のような「学校」部局ではなく、生涯学習局になっている。
全国専修学校各種学校総連合会が平成18年にまとめた「『新しい専門学校制度の在り方(専門学校の将来像)』について」の中にこんな記述がある(この全専各連のレポートは大変良くまとまった良いレポートだが、ただ一つ、「新専門学校の教員資格のうち実務又は業務実績については、職業教育の中核的な役割を担う専門学校での実務又は業務経験を含める必要がある」という認識は議論が出るだろう)。
「(ここ数年、実質的には大学とほぼ同じ扱いを受けるようになってはきたが:芦田註)しかしながら、専門学校は、その教育制度の成り立ちや定義、また、他の学校種に比してより柔軟かつ多様な教育機関のため、高等教育機関としての位置づけが必ずしも明確ではない」。
「高等教育機関としての位置づけが必ずしも明確ではない」。この認識が決定的に重要。
専修学校には、「一般課程」、「高等課程」、「専門課程」と入学資格の異なる「教育」機関が存在しており、生涯学習から疑似学校教育までの幅広い領域にまで広がった「学校」群の集合体になっている。
中卒者を主とした対象とする「高等課程」学校と高卒者を主とした対象とする「専門課程」学校(=専門学校)との間の設置基準で言えば、高校(後期中等教育)と大学(高等教育)との間にあるほどの大きな差異はない。校舎要件、設備も教員資格もほとんど変わらない。
差異がないどころか、議員立法で出来上がったという出自のためか「学校」らしい設置基準が存在していない。高等教育に比される専門学校ではあるが、中等教育(中学、高校)の設置基準に比べてもはるかに貧弱な「学校」でしかない。
入学資格の異なる「学校」群が存在しているものを一括して「専修学校」と呼んでいるために、政策的な振興策が加速しない。「学校教育」的な体裁を取りながらも「生涯学習局」が管轄部局であるために、「高等教育機関としての位置づけが必ずしも明確ではない」。
専修学校の施策に関わる法律ではほとんどの場合、その教育対象は「生徒」と呼ばれている。専門課程の施策に関わる場合でも「生徒」と呼ばれている。そして実際専門学校関係者(経営者+教員+職員)でも、自らの「学生」達を「生徒」と呼ぶ人が多い。これもまた「専門学校」が専修学校の枠内に留まっていること、中等課程と一緒の学校群に入っていることの体質なのである。
つまり専門学校の「学生」は高校以下の「生徒」にすぎないというものだ。
その意味でも、「実務教育」職業教育」を長い間標榜してきた「専修学校」群ではあったが、「学校教育」の王道から外れた地位を余儀なくされてきたと言える。その分、「実務教育」職業教育」「キャリア教育」は、「学校教育」からはじかれてきたと言ってもよい。
つまり「実務教育」「職業教育」は、大学へ進学しない(できない)者のための疑似「学校」教育の位置づけしか与えられてこなかった。「学校教育」的には「実務教育」「職業教育」は地位の低い教育と見なされてきたのである。
これは何も外部からの見解なのではない。専門学校の経営者のほとんどは、専門学校を「社会福祉教育」だと思い込んでいる。「社会福祉」という意味は、単に『頭が悪い』だけではなくマナーや社会常識のない「生徒」を、(とりあえず)一人前の社会人にするというものだ。私はつい最近この言葉を東京の専門学校経営者から聞いたばかりだ。
しかしこの認識は専門学校経営の普遍現象に近い。この考えで行けば、「大学全入時代」とは大学自体も「社会福祉」学校になるということである。
こういった経営者の学校は大概の場合、ディシプリン(discipline)のない実習(=技能実習)をだらだらと続けて2年間の学費(年度単位であれば大学と変わらない)を取り続けてきたわけだ。資格教育も言わば、過去問、例題主義のトレーニング授業に過ぎない。その意味では資格教育もディシプリン(discipline)のない実習主義の亜種である。