宇多野病院の田中正美たちが新しい論文を発表している。"Interferon beta1b treatment in neuromyelitis optica."というものだ(European Neurology誌 online版7月7日掲載)。
この論文の結論は、日本人NMOでIFNb(ベータフェロン)は無効ということ。
NMOにIFNbは無効だということはこれまでにも散発的に指摘されてきたが、今回の論文は母集団を大きくして日本人CMS患者69名とNMO患者35名でIFNb投与による再発減少率、EDSS(障害度)変化率などを検討したもの。この人数でも、この分野ではそこそこの規模のサンプル数だ。
結果、CMS(従来型のMS)では再発率減少に想定通り有効だったが、NMOでは無効との結論を出している。ただし公表されているデータを見る限りでは、IFNbによってNMOの再発率が増えるという結果は得られていない(この問題は後でまた触れます)。
しかし、この論文の意義はそこにはない。
この論文における「NMO」患者とは、かの2006年の改訂NMO診断基準によって診断されている「NMO」患者。
2006年の改訂NMO基準とは、
1)視神経炎があること
2)急性脊髄炎があること
3)次の3つの支持項目のうち最低2つを満たすもの
?MRI上、3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変がある
?MRI上、MSの診断基準に合致しない脳病変がある
?血清中NMO-IgGが陽性
この3つ【全て】を満たすものがNMOと診断されるのが2006年改定基準。
この基準は、2006年5月のNeurology誌上で(Lennonも入ったグループにより)改定されたもの。
従って、今回得られた結論に関する母集団には抗AQP4抗体は陽性例も陰性例もあり、抗AQP4陰性でも他の基準を満たせば「NMO」と診断されている。
サブグループの解析では、NMO患者において、抗AQP4抗体が陽性でも陰性でもIFNb反応性に差が無かった(いずれも無効)と今回の論文では結論されている。
要するに、たとえ抗AQP4抗体が「陰性」でも、改訂NMO診断基準に沿って「NMO」と認められる場合には、IFNbを投与するべきではないということだ。
言い代えれば、視神経炎と急性脊髄炎があること、MRI上3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変があり、MRI上MSの診断基準に合致しない脳病変があれば、血清中NMO-IgGが「陰性」であっても、IFNbを投与するべきではないということだ。
患者の立場から言えば、
1)「MSです」と診断する場合に、抗AQP4抗体検査をまずは受けさせない病院+医師にはかからない方がいいこと(これは私がずっと前から言いつづけてきたこと→http://www.ashida.info/blog/2008/03/post_277.html)。
2)抗AQP4抗体検査が「陰性だから」という理由だけで、IFNbを投与するのは間違いだということ(これはこの田中たちの論文がはじめてデータをもって検証したこと)。抗AQP4抗体検査だけをあてにして、IFNbの投与の可否を決める病院+医師にはかからないほうがいいこと。
この2点である。この2点は「MSキャビン」が真っ先に啓蒙すべき内容だが、いつもこのことにはふれない(苦笑)。
※→http://www.ashida.info/blog/2008/10/ms.html