昨日は松山(愛媛)の出張帰りに、情報教育協会の常任理事会があり、羽田から市ヶ谷の私学会館(アルカディア市ヶ谷)に直行。開始時間から1時間以上遅れていたが、途中、品川から「まだ私が行く意味がありますか」と事務局の赤羽さんにこっそり連絡したら「充分にあります」とひそひそ声で言われ、「わかりました」(苦笑)。
久しぶりに理事の皆さんとお会いしたが、古賀校長(日本電子)と福岡校長(神戸電子)と会議が終わって懇談。古賀校長がおもむろにカバンからIDEの機関誌『現代の高等教育』(http://ide-web.net/publication/index.html)の最新刊特集「就職危機再来への戦略」を取り出し、その中の広島大学の松永征夫(前広島大学キャリア支援センター長)の論文「社会が求める人材育成を目指して」を、私と神戸電子の福岡校長に紹介。「社会が求められている」能力は広島大学では「コミュニケーション能力、課題発見・問題解決能力、分析力、IT力」ということらしい。そこで「課題発見・問題解決能力」育成に注力する神戸電子の福岡校長に意見を欲しいというもの。
私は「まだそんなこと言ってんのか」と言いたかったが、そこは我慢してその場をしのいだ。今日の朝、福岡校長と私とに、その論文のページをスキャニングしたファイルを古賀校長が送ってきた。親切だぁ。
感想を欲しい、ということでしょう。では感想を述べます。
この論文(レポート)はくだらない。レポートでさえない。自分たちのやっていることを脈略もなく紹介しているだけです。
大学で全学で共通する教育目標を掲げるとなにが起こるか。必ず「コミュニケーション能力、課題発見・問題解決能力、分析力、IT力」などということになります。抽象的な目標になる。特に「力(りょく)」を付けるのは、当世のはやりです。何も考えていない証拠です。「特色GP」「現代GP」「教育GP」の取り組みのほとんどが、この「力(りょく)」教育のオンパレード。下手な広告代理店か、下手な広告代理店のような無責任な教員が作文しているだけです。
なぜか。こういった(抽象的な)教育目標は各学部の講座(諸科目やゼミ)の内容を全くいじらないで済むからです。学部の教授達は、こういった教育目標を「学長+副学長」や「学部長」や「カリキュラム委員会」や「FD委員会」から提案されても反対はしない。自分のシラバスを変える必要がないからです。
それらは非常勤の外注教員がやってきてオプショナル科目のなかで消化されるだけのこと。だから教授達はそういった「教育目標」に反対もしない。会議ではすんなりと通過します。
何科目かのオプショナルな科目のオプショナルな教育をやっておいて、「就職難」に対抗しようとしているのだから、「就職難」をなめているとしか言えない。「キャリア支援」「キャリア教育」そのものが今の大学ではオプショナルなのである。
しかし一方で「全学部で導入された教育プログラムの到達目標には社会から求められているコミュニケーション能力、課題発見・問題解決能力、分析力、IT力」と言われ、「本学の教育目標」は『21世紀の課題の解決に対し挑戦し、行動する人材育成』をキャリア教育の視点から目指す」ともある。キャリア教育は中核を担うかのような言い方もされている。
だとすると、「キャリア教育」は何と対照された概念なのか? 「学部教育」か? 「専門教育」か? 「教養教育」か?
それらと「コミュニケーション能力、課題発見・問題解決能力、分析力、IT力」「21世紀の課題の解決に対し挑戦し、行動する人材育成」とはどんな関係にあるのか?
一体、大学にはいくつの種類の「教育」があるのか? それらと「教育目標」や「人材目標」(文部科学省)との関係はどうなっているのか? そしてそれらと「就職」との関係はどんな関係にあるのか?
もちろん、松永のこの論文は、何も答えてはいない。たぶん100年かかっても松永は何も書けないだろう。
「人材教育」と言うのなら、学部のカリキュラムで学生達がいちばん時間と労力を費やしている勉強(コア科目=必修コア科目)が、その中核を担わなくてはならない。そうでないと「人材」を作ることはできない。
中核科目が「進路・職業選択支援」「就職活動支援」であるはずがない。前者は低年次用、後者は3年次生・博士課程前期用のキャリアセンターカリキュラムらしいが、これらは中核科目との関連、つまり教務指導と関係なく行われている。たぶん、学部の教授達には何の関心もないものであるに違いない。
したがって、このキャリアセンターカリキュラムの「自己点検・評価」もくだらないものに留まっている。
「1998年5月1日に、全国の国立大学の中で最初に学生就職センターを設立した」(松永)が「就職率の改善は見られなかった」(2000年前後の学部就職率は70%中盤:芦田註)。その後、「就職指導が強化され」「2002年にはその就職率が80%台に回復した」と松永は言う。
しかし松永は、「就職率が回復したのは景気回復と団塊世代の大量解雇により、企業等の採用意識が強いことを反映しているものと思われる」とも言っている(全く正しい分析だ)。要するにキャリアセンターの成果指標を見出せないでいる。成果などほとんどないのである。