ここで言う「吉本レポート」とは、専門学校の「一条校」化を昨年来議論している文科省「専修学校の振興に関する検討会議 」第3回(2007年12月21日)で発表された九州大学・吉本圭一の「高等教育としての専門学校教育」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/015/siryo/08011812.htm)を指している。
このレポートは元々は2003年に発表された「専門学校の発展と高等教育の多様化」(九州大学「高等教育研究」第6集)に基づいている。
吉本レポートは専門学校の部外者のものとしては全体的に大変素直なレポートになっている。私の第一印象は、たぶん部外者が専門学校にアプローチすれば、こんなふうにしか見えないだろうということである。
彼は、専門学校は大学に比べて「就職に強い」「教育熱心」という二つの専門学校関係者の自己認識を俎上にあげる。
少しデータが古いが1999年の「学校基本調査」を元にして彼は「専門学校の就職状況」について、70%が関連分野、8%が関連分野外、21.6%が無業者という現状に言及している。その上、専門学校の中退率15%、卒業率85%、就職率83%(1985〜2000の5年置きの平均)、一方、短大の中退率は5%、卒業率95%、就職率72%、大学の中退率は7%、卒業率93%、就職率72%(同じく1985〜2000の5年置きの平均)という現状もセットで指摘する。
これらを見ると「就職率100%とはよく聞くが…8割の卒業率、2割の中退率、無業が少ないと言えるのか」と吉本は反問する。「就職の専門学校」とは言うが数字からはそれは読み取れない。
吉本は、専門学校の中退率が多い理由を以下のようにまとめている。
「8割強という卒業率、2割弱の中退率は、一方で入学者の資質や必修システムによる再履修・留年が困難であるという問題と、他方で出口での教育成果についての質のコントロールがきちんとなされているという両義的な側面がある。たとえば、『しつけ』を含めた学習指導を徹底させ、卒業時の企業社会に対する質を保証して就職に結びつけようとする場合、18才から20才くらいの若者の価値観やその背後の若者文化と葛藤を起こすこともあるのだろう。反面では、専門学校教育の質が適切に確保されていないことによる中退もあるのだろう」(「専門学校の発展と高等教育の多様化」2003年)。
この吉本見解については私もずいぶんと言及してきたので(補講1〜3)、ここでは触れない。
もう一つの問題は、専門学校は大学に比べて「教育熱心!?」というもの。吉本はそこでまた「学校基本調査」から、常勤教員1人あたりの学生数と週単位の教員持ち時間数(持ちコマ数)を算出する。
専門学校は教員1人あたり、18.3人。短大は、19.3人。大学は、18.7人。また、教員の週単位の授業時間数で言うと、専門学校は12.7時間、短大は8.4時間、大学は8.6時間。
この数値だけを見ると、専門学校が大学に比べて特に学生指導に熱心になれる環境にあるとは言えない、と吉本は見る。
ついでに言うと、論文の方では吉本は以下の指摘もしている。教養主義の大学に対する専門学校の「スペシャリスト」教育という一般論も実は根拠がないという指摘だ。
社団法人東京都専修学校各種学校協会の資料(「アンケートに見る専門学校卒業生のキャリア形成」1999年)を参照してみると、「望ましいと思う職業のコース」は、「『専門を活かして独立するコ−ス』(21.0%)、『ある分野に特化した専門職コース』(17.5%)を希望する者も一定数いるが、むしろ『他の分野も経験しながら専門分野も深めていくコース』がもっとも多く38.4%を占めており、『一般職コース』(11.2%)などを志向する者もいることがわかる」と吉本は言う。吉本は、ここでもまた「大学や短大との学生・卒業生の志向性と格段の違いはないようにみえる」と言い、専門学校の「スペシャリスト」教育について次のように結論する。
「今日、大学の『専門学校化』と呼ばれるように、大学側でも就職支援のための活動、資格取得のための活動や、カリキュラムが開発されつつあり、『職業専門性』だけで専門学校が勝ち残ったとはいえない」(同上)。
この問題は卒業生アンケートや吉本に指摘されるまでもなく、深刻な問題だ。現在の専門学校の教育展開も専門教育(「スペシャリスト」教育)に自らの特長を求めると言うよりは、選択主義的な教養主義やマナー教育(あるいは「人間性」「社会性」教育)を中心に進んでいるからだ。それを吉本のような大学関係者が見ると、「大学とどこが違うの?」ということになる。
大学教育改革の横綱とも言える金沢工業大学でも、その改革の眼目は「人間性」教育だという(藤本元啓学生部長の発言)。工業系の大学(要するに職業教育的な大学)であれだけの改革を行っても「人間性」教育だとしか言えないのだから、専門学校が「専門」教育を外すということになると何が専門学校のコアコンピタンスなのかは(外部からは)全くみえない。