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366 12/4(土)
19:12:39
 人間が死ぬということ ― 病人を差別してはいけない  メール転送 芦田宏直  4740 

 
人間が死ぬということは、不思議なことだ。不治の病で10才くらいのときに死を宣告された少女でも50才、60才まで生きていることもある(あるいは「不治の病」を宣告されたからこそ、カラダに気遣うノウハウを知り(別の)病気にかからず長生きできたのかもしれない)。その10才の時同級生であった友達が30才でガンにかかって死ぬこともあれば、交通事故で突然20才で死ぬこともある。死に不馴れな友達の死の方がはるかに残酷な場合はいくらでもある。

このとき、誰が「かわいそうな人」なのだろうか。若くして死を覚悟せざるを得ない10才の少女なのだろうか。しかしそもそも「不治の病」とは何か。「不治の病」とは治らない病気のことだろうが、そもそも「治る」病気などというものが“存在”するのか。人間は(必ず)死ぬ。したがって「不治の病」とは人間の死のことだ。だから元から人間は「不治の病」にかかっている。病気が治る、というのは、もっと大きな病気(=死)にかかるためであって、「健康になるため」のことではない。

「死を覚悟する」というのなら、すべての人間は死を覚悟しなければならない。不治の病が、死を宣告された人間だけの苦しみである、と思う人がいるとすれば、それは一つの“思い上がり”であって、何のことはない、すべての人間は十二分に「不治の病」にかかっており、生まれたときから「死の宣告」を受けている。

(不治の病で)徐々に身体が衰えていく様を受け入れることが残酷だと言ったりするときもあるが、「徐々に身体が衰えていく」、なんて、私の身体もまたそうだ。人間ならば、どんな健康・不健康であっても徐々に身体は衰えている。毎日鏡に向かって入念に化粧をしている女性ならば、あちこちにいるガン患者以上に身体(肌)が衰えていく様を過敏に感じているはずだ。そのことと、感性や感覚が病にかかっている分衰えているガン患者の衰退(の受容)とどちらが残酷なのかは、誰にも“判断”出来ないだろう。どちらも残酷だと言えば言えるし、誰であっても「徐々に身体は衰えている」。

「不治の病」や「ガン」の場合は、“健康な人たち”と違って、死が間近に迫っていて、それを「知っている」ということが残酷だと言ったりもするが、死が迫っているということを「知らない」人というのはどんな人のことを言うのだろう。人間(自分)が死ぬ(いつかは死ぬ、いつでも死ぬ)なんてことは、鎌倉幕府が1192年に成立したことを知らない人でも「知っている」ことだ。ガン患者が来たるべき死に備えているときでも、死は別の死でありうる(入院中のベッドから落ちて転落死するときのように)のだから、健康な人の死の“知識”と「不治の病」の人の死の“知識”とを区別する理由(その深浅について)はどこにもない。

だから健康な人と病人とを差別してはいけない。ハイデガーは、そのように差別することなく、人間の存在そのものを「死への存在」(Sein zum Tode、英訳ではBeing towards-death)と考えていた。それに衝撃を受けた私の20代、30代は、この言葉の意味をめぐってほとんど明け暮れていた。

病人に優しくするなんて、とんでもないことだ。私は重篤の家内(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=124)の前では、特にいつも(私自身が)「疲れた、疲れた」「苦しい、苦しい」と言うことにしている(周りから見るとたぶんどちらが病人かわからないだろう)。病人は、「苦しい」のは自分だけだ、と時として思い上がったりするからだ(私は、徹夜で仕事をしていても朝6:00台には起きてねむい目をこすりつつも何事もなかったように通勤するサラリーマンに比べれば、食事も作らないでずーっと寝ていられる病人がどんなにしあわせであることか、と毎日、毎朝、家内を“説得”し続けている)。病人は、自分だけが「苦しい」というその思い上がりが病人の病人たるゆえんだということに気づこうともしない。そして“健康”な人間も、自分が「不治の病」にかかっているということを忘れて、“病気”の人に優しくしようと思い上がったりする(毎日毎日顔をつきあわせている仕事の同僚や顧客やマーケットにはまともな対応を何一つしないくせに身内の“不幸”や友人の“不幸”にはくそまじめになる)。こういった相互の思い上がりが、人間が死ぬということがどんなことであるのかをわからなくしている。


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