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283 3/24(水)
13:42:46
 東京工科専門学校卒業式式辞 ― 泣いてしまった。  メール転送 芦田宏直  9698 

 
 昨日の卒業式、うかつにも証書授与のときに、泣いてしまった。インテリア科の学生が一人、入学してまもなく夏休みを迎える前に急性白血病で亡くなり、その学年の卒業式だったのを緊張で忘れていた。科長がその学生の名前を「今はいないけれども読み上げます」と言ったときに急に思い出して、代表学生が壇上に上がり私の前に近づいてきたときにはもうダメ。すでに大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 だから、卒業証書の文面が息詰まって読めない。500人近くいる大ホールの中、来賓、保護者、学生、教職員の前で泣いてしまった。まさに「鬼の目にも涙」か。この卒業式で我が学園は4校(中野校、世田谷校、国立校、品川校)すべての卒業式が終わるが、私は、そのすべてに参加した。

 そのとき、いちばん気になっていたのは、学生たちのスーツだった。自分の息子の卒業式に、スーツを買ってやったことが(一緒に買いに行って私が選んだ)、頭の中に残っていて、私の息子もスーツを着る年頃になったのか、と一人感慨にふけっていたものだ。だから我が卒業生たちが新しいスーツを身にまとって壇上に立つとき、そのお父さんやお母さんの気持ちはどんなものだろう、と思っていた。それだけでも、心の中で泣いていた。

 それが今度は、亡くなってしまった学生の卒業式。泣かないはずがない。大ホールのマイクの前で、私の泣き声と息詰まって読み上げるたどたどしい言葉が拡声され響く。突然、事務長が異常を察して、緊張が走る演台に、小走りにハンカチを持ってきたが(ハンカチくらい持ってますよ)、拭いたら様にならない(それにそのハンカチ、汚そうだった)。涙も拭かずにそのまま証書授与。「卒業証書 本校インテリア科所定の課程を修め卒業したことを証し、専門士(工業専門課程)と称することを認めます。平成16年3月23日 学校法人 小山学園 東京工科専門学校 校長 芦田宏直」。こんな短い文面を読み上げるのにどれだけかかったことか。総代のA君には、「(亡くなった)K君の分も」と小声で泣きながら言って証書を渡した。思い出深い卒業式になった。

 以下は、当日原稿なしで話した式辞のすべてです。
 謹んでK君、K君のお父様、お母様に捧げます。私は、彼のスーツ姿こそが見たかった。


 みなさん、卒業おめでとうございます。

 また来賓の皆様、保護者の方々、小雨まじりのお忙しい中、お越しいただき、有り難うございます。

 今日が卒業式であるということは、みなさんが2年間で4000枚近くにもなる「授業シート」に毎日メモをしながら、1200回もの「授業カルテ(小テスト)」をこなし、10回(毎期毎8科目で80回)の期末試験に合格したことを意味しています。

 先生たちが自分たちの技術や知識、実務経験を目一杯に詰め込んだそういった、あなたたちのためにこそ作ったオリジナルの授業シートと期末試験を消化した結果、その成果としてみなさんは今日の卒業式を迎えることができました。私もまた教職員を代表して、みなさんがそうやって卒業式をここに迎えたことを誇りに思います。

 校長の式辞は、みなさんへの、学校の最後のメッセージになると思います。教職員を代表して1200回もの授業の最後の授業として、2、3のメッセージをお伝えしたいと思います。

 皆さんは、これから職場に入っていきますが、ほとんどの人は、自分のやりたい仕事はできません。東京工科専門学校で学んだ専門知識、技術をすぐには発揮できません。最初は誰にでもできる単純な仕事をすることになります。

 でも単純な仕事は誰にでもできるかというとそうでもありません。若い内は、専門的なこと(自分が得意なこと)をやりたい、企画をやりたい、商品開発をやりたい、場合によっては社長をやりたい、というように考えがちです。だから誰にでもできる単純な仕事はやりたくないと。

 しかし世の中に何一つ単純な仕事はないと思って下さい。

 たとえば、コピー一つ取る場合も、そうです。

 私はコピーを他人にとってもらうとき、コピー初級、中級、上級というように3段階の評価基準をもっています。
 
 「コピー初級」は、機械の操作をただ単に知っているだけ。他人に聞かなくてもとりあえず、コピーを取れる段階。

 「コピー中級」は、たとえば、10枚のコピーをするとき、一枚目をすって、紙の傾き、文字や写真の濃度を確かめてそれから残りの九枚をすれる人。

 「コピー上級」は、ちょっとした上司の依頼の紙にも目を通し、「この人はこんな文章を書くんだ」とか「こんなことが今会社で話題になっているんだ」というように、内容についての関心を持ちながら印刷できる人。場合によっては、書類の不備(誤字や脱字も含めて)を指摘することもできる人。

 私は、コピー能力をこのように三段階にわけて評価しています。

 これは、私が頭の中で勝手に考えた三段階ではありません。

 世の中には、実際にコピーを頼んだら、同じ「単純な」仕事をしても、このようにはっきりと違う仕事の仕方でこなす人がいます。この三段階は、実際に私が出会った人たちの三段階です。

 一見、単純に見えるコピー作業の中にも、考え始めるときりがない仕事の諸段階が潜んでいます。

 単純な仕事を単純にしかこなせない人は、いつまで経っても単純な仕事しか与えられません。

 だから、「コピー上級」の人になれば、会社は、こんな人にコピーを取らせ続けるのは失礼だし、もったいないと逆に思い始めます。

 そのようにして、コピー上級の人は“出世”をしていくわけです。

 自動車系の職場で言えば、最初のうちは朝から夜まで洗車ばかりで、「これじゃガソリンスタンドのアルバイトの方がまだましだ」と思うかもしれません。

 建築インテ系の職場で言えば、朝から夜まで現場の後かたづけばかりかもしれません。

 WEBデザインやインターネットプラグミング科の人たちは、最初のうちは、データベースのデータ入力の仕事だけを朝から夜までさせられるかもしれません。

 でも、それらは、重要な昇進試験なのです。

 洗車一つ取っても、一回目の洗車と二回目の洗車とでは、どうですか。最初は30分かかった洗車が二回目には5分短縮できましたか。あるいは短縮できないまでも一回目ではきれいに出来なかったところまで二回目にはきれいに出来ましたか。これも「洗車は単純だ」と思っている限りは何回やってもスピードは速くならないし、洗車の質もあがりません。同僚たちや上司は、そこを無関心なように見えていつも見ています。

 洗車の仕事はその意味では無限です。決して単純なことではない。1000人の人間が洗車をするとしたら、1000の水準の洗車が存在しているのです。履修判定試験は満点が100点でしたが、実際の仕事はもっとこまかいチェックの分節が存在しています。

 だから単純な仕事は決して単純ではありません。

 そう思える人だけが、次の水準の仕事を「与えられる」ことになります。

 仕事は、自分から進んでするものだ、という人がいますが、それは間違っています。会社は、「顧客」を相手に仕事をします。だからいつでも真剣勝負です。だから、会社は、いつでも真剣勝負のできる人を会社内であっても探し続けています。その結果、仕事は「与えられる」のです。だから「与えられる」というのは、それ自体〈評価〉なのです。評価の結果なのです。

 仕事が与えられる、ということが最大の栄誉であって、その与えられた仕事を期待以上の成果を出して答える。それが仕事をするということの意味です。一見受動的に見える、この「与えられる」という言葉の中に、ポジティブな意味を見出せるかどうかが、皆さんの、ここ数年の仕事の最大の課題です。

 期待されない人間は、いつでも自分の好きな仕事だけを自分の勝手な仕方でしかこなしていません。そんな人の仕事は、いつまで経ってもスピードは上がらないし、質もあがりません。こんな人間は、いつまでたっても“大事な”仕事を与えられることはありません。

 若い内は、格好のよい仕事、見栄えの良い仕事をしたくなりがちですが、単純なことの中にも数え切れない仕事の諸段階、深さがあります。

 まず皆さんが会社に入ったら試されることは、一見単純に見える、誰でもができる仕事の中に、どれだけの注意をしなければならない情報を読み取ることができるかが試されます。

 職業人として「社会人」になるということは、最初に〈選択〉や〈好き嫌い〉があるのではなくて、人に仕事を頼まれた、任されたという〈信用〉です。

 この〈信用〉というのは、その仕事を頼んだ人が期待したように仕事をするだけではなかなか得られるものではありません。そんな仕事の仕方があったのか、と少し頼んだ人が驚くような仕事をすることこそが〈信用〉というものに繋がっていきます。仕事を頼んだ人が、「悪かったね、こんな仕事をさせちゃって」というくらいの仕事をすることが、〈信用〉を生んでいきます。期待とは、いつでも期待以上のことなのです。

 だから、こういった〈信用〉や〈期待(期待以上)〉を得るのに、単純も複雑もありません。高級な仕事も低級な仕事もありません。コピー取りであっても、その〈信用〉に答えることこそが仕事というものです。

 そういった些細ではあるけれど、一つ一つの信用に答えていくことが、皆さんが大きな仕事をするようになるきっかけになっていくのです。

 単純な仕事をさりげなく、かつ高級にやり遂げて、自分に単純な仕事を与えた会社の上司を見返すような仕事をやって頂きたいと思います。

 他人と違うことを言ったり、違う行動を取って、評価を得ることはある意味で簡単なことです。本当に難しいことは、一見何の変哲もない単純な行動や日常の中に、深い意味を読み取ること。人が日常的に行っている何の変哲もない行動の中に、変化や違いを読み取ること、そのことの方が遙かに難しい。

 4月から始まる仕事の、皆さんの課題がそこにあるわけです。

 単調な仕事が課せられるからこそ、新人であるみなさんの仕事の仕方の違いは、大きなものとなってあらわれます。それに比べれば、会社の社長さんたちの仕事の仕方は、どれをとってもそれほど大きな違いはありません。洗練されてきているからです。単調な仕事をこなさなければならない新人の時にこそ、違いと競争が存在しています。それをよく心得て、4月からの仕事に臨んで下さい。

 みなさんの学んできた授業シートはいつもは10の項目に分かれていますが、今日は一項目だけです。

 今日の授業テーマは「『与えられる』仕事を大切にしよう」。そしてキーワードは、「単純なものは難しい」ということです。

 小テストである授業カルテは(こんな卒業式の場である)今日は行いませんが、みなさんの4月以降の職場の実際の体験が授業カルテそのものです。

 そして「模範解答」は、もはや先生が作るのではありません。今度は、皆さん自身がそとつど解答を出し、その解答に自分で責任をもつ順番です。

 今日は、本当にご卒業おめでとう。これをもって今日の式辞に代えたいと思います。


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