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100 2/9(日)
21:06:25
 その後の「戸建て住宅を建てる思想」(ついに現地説明会)  メール転送 芦田宏直  3969 

 
 昨日は、住宅建設計画(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=95)の現地説明会の日だった。結果的に参加各社が8社になったので、14:00開始組、15:00開始組に別れて、2回行った。8社と言っても、各社少ないところで2名、多いところで6名の参加者があり、1回の参加者は12名から15名と予想をはるかに超える多人数を前にしての説明会になった。結果的に30人近くの人を前にしての説明会になってしまった。今回の物件は、母屋から離れた(同一敷地内での)別宅。約30坪の敷地面積。敷地全体は300坪近くある。14:00前や15:00前は、現地玄関にたくさんの業者の方があふれ、近所の人たちまでもが、外に出てきている。何が起こったのだろう、という感じだった。

 この説明会の趣旨は、「説明会」というよりも、「現地調査」と呼んだ方がいい。あまり細々としたことをこちらから話すことはない。居住者が目の前にいるのだから、その人物をみればそれで充分(プロであればそれで90%くらいは何をすればよいのかわかるはず)。細かい趣味や好みの傾向、あるいは間取りに関することなどしゃべってもしようがない。

  以下の条件だけをプリントして配布(参加者全員に)。

●居住の諸条件
1)居住者の年齢と人数:60才を超えたばかりの女性 1名
2)持病は特になし
3)外出頻度は、週3、4回 充分活動的。
4)平均的な起床時間:8時半(朝は弱い)
5)平均的な就寝時間(眠りにつく時間):夜12時
6)就寝はベッド利用
7)炊事や洗濯は居住者自身が自分でします
8)外来客頻度:週1回あるかないか(主には母屋で対応します)。
9)外来客の人数の平均:多くて4人程度(一度に来られる来客者の数)
10)外来客の宿泊の頻度:宿泊外来者はほとんど来ない

●設計の諸要求
1)母屋の敷地を有効に活用してほしい
2)外構からのアプローチと建物との整合性のあるデザインを心がけてほしい
3)南面の日当たりを充分に活用してほしい。特に北側の居室まで南面の日差しが差し込むようなダイナミックな間取りを心がけてほしい。
4)母屋との調和のあるデザインを心がけてほしい
5)住宅デザインの外形は、(外から見た場合の)玄関のデザイン形成が課題(とってつけたような玄関の切り取り方を避けること)

以上。

  これで充分。最初に居住者の、今回の住宅建設についての動機などをお話しし、「今日はこちらから何かを話すと言うよりは、みなさんのイメージが充分に形成できるほどに現地を調査してほしい」と私からお願いした。

 何度も言っているように、家とかクルマといったものは、ものを作るという人間の営みの中で、かなり複雑なものだ。その最大のものはスペースシャトルのようなものに代表されるのだろう。金融工学なんてふざけた学問があるが、〈工学〉をつければ、何でも合理的、科学的になるなんて思ったら大間違い。〈工学〉が対象とする〈もの〉ほど不可思議なものはない。もともと〈工学〉というのは経験的な学問であって、科学的なわけではない。経験的なシミュレーションがもとに形成されているだけだ。つまり1+1=2ではなく、どういったときに、1+1が3になるのか、4になるのか、それとも1になるのか、それを繰り返し実験しているだけだ。これほど原始的な領域はない。

 そういったことに加えて、家やクルマはさらに多くの人たちの手が加わる。単に多くの人たちだけではなくて、種類の違う人たちが加わる。デザイナーと職人とは全く人種が異なる。顔つきまで違う。同じ職人といっても(家の場合であれば)外構をやる人間と立て付けをやる人間とではまた顔つきまで違う。そういった経験的な学問と多種の人間が関わりながら住宅ができあがる。

 つまり住宅は多くの無意識の集合体なのである。機能や性能や測定値だけで語ってはいけない。クルマのスペック(馬力やトルクやサスペンションの諸型式など)だけでは、走行性能を語ることができないように、住宅も実際に住まなければわからないことがいくらでもある。オーディオビジュアル機器などは、もっと神経質なもので、スペックと出てくる音や映像は全く別物であると思った方がよい。それほどに〈工学〉や〈もの〉の世界は、不可思議な世界なのである。

 この間も、電気コンロとガスコンロのどちらがいいのか、という問題が弟夫婦の間で持ち上がった。清潔で手入れがしやすい、危険も少ない、火事にもなりにくい、火力も今ではガスコロンと同じ。だから電気コンロにしたいけれど、お兄さんどう思いますか」と(弟の嫁から)電話がかかってきた。彼女は、完全にパンフレットで(あるいは電気コンロメーカの説明で)判断していた。私のアドバイスはただ一つ、即刻、ガスコンロのメーカーに(大阪ガスを訪ねて)電気コンロを批判させなさい、と言っておいた。1週間くらい経って、「やっぱりガスコンロにします」と答えが返ってきた。

@電気コンロは熱量はガスと同じように高いが、煮込みのような場合にしかガス並みの性能は得られず、一気に加熱する(一気に熱変化させる)場合には、ダメ。
A危険性についても、火が見えることに対する注意力の方が結果的には危険に結びつかず、(火力が)見えない方が、無意識な危険性を呼び寄せやすい。
B電気回路の複雑性(が起こす“空炊き”)が、単純なガス漏れといったアナログ的な危険性と同じくらいに危険。
Cガスコンロでも一枚仕上げの汚れが付かないトッププレート仕様のものが多く出ており、清潔感もそれほどの差異はない。

などなど電気コンロの欠陥はまだなお大きい。特にAの問題点は、仕様やスペックだけでは全く判断できない経験上の欠陥になる。事故や事件が起こってから初めて気づく欠陥なのである。こういったことの数々の経験の上に、製品としての〈もの〉が存在している。

 だから、住宅を建てるということに、〈スペック〉や〈顧客ニーズ〉を先行させてはいけない。この世界の専門家とは、科学的な専門家(知識や技術の専門家)と言うよりは、数々の失敗を重ねてきた専門家と言った方がいい。この世界の素人と専門家との違いは、知識や技術のあるなしではなくて、失敗の数の経験数の差なのである。“住宅は三回は建てないと思ったものにならない”とよく言うが、その通りであって、三回建てても思ったものにはならないくらいにこの世界は経験性が高い。そして何回も建てて(何回も失敗して)いるのが ― スペースシャトルのように失敗しているのが ― 、住宅メーカーだ。まず、この人たちが、何を考えてどんな提案をするのかが、顧客が判断する第一の点であって、最初に顧客要求する必要など何もない。

 顧客の細かい趣味や傾向は、業者を選んでから詰めればよいことであって、最初の提案を、経験のない顧客要求で縛ってはいけない。その会社の能力が丸裸になるような設計をさせるのが一番。要するに“顧客の要望”を聞くというのは、住宅設計の成否を顧客の所為(せい)にするという卑怯なやり方にすぎないのだ。“顧客重視”というのは、設計に自信のないメーカーの合い言葉だ。

 昨日の業者たちの調査の様子は、それぞれに個性があって、面白かった。或る会社は(あまり関係のない)母屋の方の調査を敷地調査以上に熱心に行っていた。多分、居住者の住まい方の傾向や趣味をすでに長年暮らした母屋の仕様や傾向から伺いとろうとしていたのだろう。これも一つの見識だ。専門のデザイナーも個性があって面白かった。まず、着ているブレザーの趣味が営業や外構の担当者と違う。一目でわかる。普通のサラリーマンが着るようなスーツを着ている「設計」担当者もいたが、たぶんこれは社内設計者だ。設計者たちは、居住者(施主)がしゃべるときの聞き耳の立て方が明らかに違った(私がしゃべるときよりもはるかに集中して聞いている)。一言も漏らすまいという集中感がすごい。イメージをかき立てようとしているのだ。なかなかのものだ。15畳は優にある応接室の緊張感はなかなかのものだった。

 ある会社のデザイナーは出された和菓子に興味を示して、わざわざ「どこのものですか」と訊ねていた。各社参加者は話を聞くのに精一杯で、出されたお菓子を食べている暇などはない。すでに集まった部屋から調査のために立ち去ろうとしていたのに、ひとり立ち止まり、そう聞いていたデザイナーがいた。こんなこともデザイナーでないと普通はしない。お菓子は名古屋の「両口屋是清」(http://www.ryoguchiya-korekiyo.co.jp/)の「志なの路」。私の家は京都の「俵屋」(http://www.kyogashi.co.jp/)だが、このおうちは「両口屋是清」だ。こういったことにも家の風情が出るのかもしれない。このデザイナーは「両口屋是清」ふう住宅を建てるのかもしれない。居住者(施主)はわざわざ参加者全員の懐紙を用意して「両口屋是清」の和菓子を持ち帰ってもらおうとしていた。その行為にも趣があった。

 もっと面白かったのは、前回住宅展示場で話を伺った2回目の出会いになる人たちが、調査の風景を庭で見守っている私に安易に近づこうとしない。これもコンペの流儀。すぐそばに立っていても、話しかけてこない。やっぱり百戦錬磨の企業戦士たちだ。こういったコンペは競合各社を同席させない場合も多く、同席コンペはやはりお互い気を遣うことも多い。300坪の広い空間に10人、20人の設計関係者が巻き尺やスケールを持ちながら打ち合わせをする光景は、「いい家を建てたい」という関係者の志の風景のように見えて、心強かった。

 さて、2月18日火曜日が一次コンペになる(ここは私ひとりの審査でフィルターにかける)。私は、立面図や間取り図をここで公開評価しようと思う(それがこのコンペに対する最大のマナーだ)。この18日のコンペで2〜3社に絞り、二次コンペは、2月21日。二次コンペで居住者と一緒に最終決定を行う予定。ますます楽しくなってきた。


 昨日のこの現地説明+調査会での各社反応は以下の通り。

●ミサワホーム(2月8日 23:03着)
「本日はありがとうございました。 … (お客様の)雰囲気や暮らしぶりが少しだけわかったような気がします。お時間の関係で、なかなか充分なヒアリング等ができませんでしたが、その分、各メーカーの、独自の発想が出てくると思います。我々も、お住まいになる方が、心地よく暮らせる住まいをデザインしてご提案させていただきたいと思っております。どうか今後ともよろしくお願いします。お伺いした際、気づかずに失礼な行動がありましたらどうかお許し下さい」(榎本毅)。

●パナホーム(2月9日 14:17着)
「お世話になっております。昨日は,○○様宅設計コンペに参加させていただき、誠に有り難うございまいした。私どもパナホームと致しましては、今回各部署のメンバー6名でお伺いさせていただきました。大人数で失礼致しました。これより、各人意見を持ち寄って、1次プレゼンテーションへ向けてお建物、お敷地の利用を最大限考えてまいります。

遅ればせながら、本日、芦田様のホームページを拝見させていただきました。来店に対してのお礼の件、ちょうだい致しましたお名刺の関心度の件など、大変失礼な対応となってしまい、申し訳ありませんでした。私自身、率直に反省させていただくと共に、今後のプレゼンテーションに向けて、パナホーム一丸で挽回させていただく所存です。○○様の皆様にもよろしくお伝え下さい。今後とも何卒よろしくお願いします」(星 友晃)。

●三井ホーム(2月9日 19:19着)
「昨日はありがとうございました。昨日のようにお施主様の前で各社と席を同じにしたのは長い営業経験でも初めてのことでした。正直、少し戸惑いもありましたが、逆にファイトもいっそう沸きました。

 また(施主の)○○様のお人柄にも接し、デザイナーの盛岡共々良いお住まいをご提案すべく昨夜は語り合いました。

2月17日(火)19:30 一次プレゼンよろしくお願いします」(篠原徳行)

 以上。他の各社の反応は、9日20:30現在なし。


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