テレ朝からAmazonに引き抜かれて2年、その第一作目(『ゴールデンコンビ』)が10月31日配信開始されました。ver.3.0 2024年11月05日
息子の記述によれば「私が大学卒業後の2008年から2022年まで14年間務めたテレビ朝日を退職し、2023年からAmazon MGM Studiosに転職して、ようやくたどり着いた”Amazon1作目”の企画・演出作品」が、この『THEゴールデンコンビ』。
私も、映画並かそれ以上の制作費・製作時間をかけての、責任の重い第一作というので、今年5月18日の収録の現場(関係者席で)に参加していた。収録は朝9:00~夜22:00までの長丁場だった(収録スタジオはフジテレビ湾岸スタジオ)。
私は、昼から2,3時間見て帰ろうと思っていたが、思った以上に面白かったので、最後まで食事もせずに見終えてしまった。なにより会場200人の観客と演者・スタッフとの一体感が私をそこまで導いたのだと思う。それに吉岡里帆を生で間近で長時間見られるという邪悪な動機があったかも。
そして、それから5ヶ月の編集期間と広告宣伝期間を経て10月31日18:00からの配信解禁となった。そこまでは、5月18日に何が起こったのか、何を見たのか「一切誰にも言うな」と息子に言われていた。
ただし、収録が終わった5月18日の夜、息子に電話して話したことが三つあった。
一つは、三階建ての一億円もかけたせり上がりの舞台の強度が不足していて、揺れていたこと。これは編集ではあまり目立たなかったが、ゲストの研ナオコさんはなどは声を上げて怖がっていた。芸人さん達は何も言わずに飛び回っていたが、さすがだなぁと私は感心していた。息子自身の回答は「気付いたときには遅かった」というお粗末な返事だった。「編集でカバーするしかない」と。ホリケンさんや野田クリスタルさんのように何をやり出すかわからない芸人さんがケガをすることがないように祈るしかなかった。
もう一つは、「あのお題を読み上げていたアナウンサーは誰だ?」というもの。この作品の鍵となる、即興お題を読み上げる声が落ち着いていて、作品全体の緊張感を見事なまでに反映する〝声(とその読み上げ)〟の格調だった。
息子は、「元テレ朝の宇賀神なつみさんだよ」と答えたが、彼女の選定について、息子は以下のように解説している。「そして番組全体の世界観構築に重要な要素の一つであるナレーション。(…)とても大事な即興コントのお題読み上げ。コント前にハードルを上げないために、大げさに芸人たちを煽ることなく、声の色や主張が強すぎず、それでありながら聞き取りやすく、プレーン、かつ上質であるべきという難しすぎる条件を満たす人、誰かいるかな?と考えていて浮かんだのがテレビ朝日の1期下の後輩であり、現在はフリーアナとして活躍する宇賀なつみさん」だったそうだ。
最後に言及したのは、三階建ての大舞台装置、その舞台の色調、高そうな液晶パネルの効果的な演出についてだった。司会である千鳥のノブさんが、この舞台に立ったとき、「この一億円かけた巨大セット三階建て。これはYOASOBIが歌うとこや」と笑いを取っていたとおりの大舞台だった。
この舞台は今のテレビ局の予算ではできないだろう。息子に「誰のデザイン?」と聞いた。「フジアール(フジテレビ系列の美術会社)の敏腕デザイナー鈴木賢太さん。昔から注目していて、組んでみたくて。たぶん現在のキー局ではいちばんのデザイナー」というのがその回答だった。黄緑と濃いピンクの配色もとても印象に残るカラーで、ファミマの店頭ポスターも際立って目立っている。
一方、この企画を初めに私が聞いたとき、私が息子に注文を付けたのは、以下の3点。
一つは、配信コンテンツはゴミのように毎日誰の目にも止まらない仕方で〝選択〟以前に消えている。だから予算全体の中で広報予算の割合を高めないと、制作費の自己満足な使い方では全く通用しない。見てもらってやっと制作費も生きるのだから、ということ。
二つ目には、会場のお客さんの反応を小刻みにスピーディーに挟んで会場全体の一体感(臨場感)を出した方がいいと。そのためには会場カメラ(観客用のカメラ)をたくさん仕込んだ方がいい、と。
三つ目は、演者さんの芸を1000万円で動機づけるというのは〝不純〟ではないかというケチを私はつけた。息子は「考えてみるよ」とは言ったがそのまま賞金1000万円ゴールデンコンビの誕生となった。しかしこの点は、作品全体を見終えたとき、私の老婆心だったことがわかった。この8組の死闘を終えた勝者には〝ありがとう〟という、賞金ではなく、礼金のようなお金の意味合いが含まれていると思った(プロデューサーとしての息子にとっても結果的にそうだったのではないか)。一億円あげてもいいくらいに思えたのだった。この作品を見終えたみなさんがそう思ったのではないか。
結果として、一つ目は、まあまあうまくいったかな、と、二つ目は少し失敗していた。引きの画面が結構多くて、会場が逆に狭く感じてしまった。とってつけたような柵が映っていたのもよくなかった。もっと大写し(2,3人の反応)の画像を多様に挟んだ方が良かったと思う。三つ目の1000万円は演者さんたちへの感謝の気持ちの表れとして大成功だったっと思う。次は一億円〝賞金〟(か、一人1000万円)に取り組んでほしい(笑)。
編集も終わって配信された作品をみて思ったことは、会場でもわからなかった裏方さんと演者さんの緊迫感迫る、ボケグッズの取捨選択のシーン、即興に耐える打ち合わせのシーンだ。あれはもっと挟み込んでも良かったと思う。8組ある演者さんたち一組ごとに三人以上のスタッフが付いて秒刻みの対応をしていたと後で聞いて、あの圧倒的な表舞台の芸を支える裏方さん達の仕事も、この作品の見せ場の一つだと思った。「秒刻み」と書いたがこれは文字通り秒刻みのヘルプであって、演者さんの順番も先に登場した演者のお題のこなし方をみて、後攻組みの演者が突然ネタを変える場合もあって、そのあたりはまさに修羅場だったのだろう。表でも裏でも秒刻みの闘いがあったのだ。即興は舞台の上だけではなく、すでに裏の準備段階でも始まり続けていたのだった。
各組の演者さんの評価は、Xの「#ゴールデンコンビ」に委ねるとして、私がこの作品で思ったのは、せいやさんのYouTubeコメントにもあるように(前出)、参加した演者さんみんなにスポットライトがあたり、演者さん達自身が満足感の高い作品になったことだと思う。ステージが進行するに付けて、二人のコンビの息が習熟し、ほんとの〝戦友〟のような感じになっていくのが、手に取るようにわかった。この過程がゴールデンコンビの意味だったのだろう。
豪華なゲスト陣については、片岡鶴太郎さんがなんといっても圧巻。大悟さんも最後の最後まで片岡さんの〝即興〟に敬意を表していた。私が片岡さんをさすがと思ったのは、最初「夜11;00に起きる」と言っていたのを後では「23:00に起きる」と言い直したところだった。目立たない言い換えだったが、小さなことでもわかりやすいことを心がける、芸人さんたちの先輩中の先輩にふさわしい配慮だった。
以下はその演者さんたちの当日の写真の数々。
そして鶴太郎さんは木になって植樹された。「校則30条 TT兄弟禁止」
僕にはこの病名が「わかんないです」「僕たちは軟式野球部見学部」「各自メガネは手作りでなければいけない」
「これだけ、小田に確認取りたいんで」
「楽、言うなぁ」「客席の奥にクワバタオハラがいる」
「ほんと、澤部が優しくて、ずっと真栄田さんの好きにしていい、と」
「これは楽しんごさんの負の感情です」「アメリカは負けない」
「伝説のTTブラザーズ、なんだ?」
「座ったら、座高が一緒」
「(道枝君に向かって)さっき、教えたよな」
「分け目、かぶってんだよー」
「マネでーす。冠、出ません」
「死んだぁ」
「どしゃぶりバーベキュー部」
「今日で最強の突っ込みになるぞ」「朝まで生卵」
「ここまで来て、俺のせいで負けるかもしれない」-「言うなよ、それ」
「びしょ濡れバーベキュークラブ」
「ありネタみたいなこと、言わないで下さいよ」
「ホリケンさん、(屋敷のために)もう一発言って上げて」「頑張れ、屋敷」「後攻の屋敷」
これらの演者さん〝たち〟の表情を見るだけでも、この作品は成功だったのでは。200人の観客の呼吸と演者の呼吸が同調したという、演者さんの自身の満足(プロデューサーの満足ではなくて)だったと思う。単なる演者の自己満足ではない充足感のようなもの。それはせいやさんのこのYouTubeに見られるように、負けても「ほっとした」という感想が物語っている。「審査員・松本人志」以後の〈笑い〉が少しは見えたかも、と私は思った。
会場審査とこの作品を配信で見る人たちとの相違はほとんどないという点でもこの演者さん達の〝才能〟を充分引き出した作品になったのである。敗者のいない闘いにまとめあげた演出のよさがでていた。M-1のような喪失感のない闘いがここにはあった。勝っても負けてもみんながみんなで楽しい「ゴールデン」コンビ8組が誕生したのである。せいやさんがこのYouTubeの冒頭と最後で、この8組に選ばれたことこそが名誉だったという通りのことだった。
最後に。川谷絵音が参加したこの作品のテーマソング『礼賛「GOLDEN BUDDY feat. くるま」』も素晴らしい仕上がりになっている(あまり言及されていないが)。お笑い芸人以外の多種多様な演者が出てくるのも、『関ジャニの仕分け∞』(2011年)、『あいつ今何してる?』(2015年)、『あざとくて何が悪いの?』(2019年)などで作り上げた息子の幅広い人脈が、この作品全編にわたって効いていると思う。川谷絵音もそうだが、なんといっても二世代上のホリケンさんをこの作品に引っ張り出したことは大きかったと思う。
プロデューサーと言っても、作品中心のプロデューサーも多いが、Amazonが息子を評価したのは、予算が組める、マーケティングができる、その上で作品を作ることができるという点だった。最後まで苦労したのは、日本の笑いをアメリカ本社の重役たちに英語(英語の企画書)でわからせることだったらしいが、息子はいい歳していまだに英語の勉強をし続けている(笑)
息子は、テレ朝に入社するときの面接官に、テレビ局は「文化を作る」ことができるのが魅力、と言われて入社したのだった。今回の『ゴールデンコンビ』は、テレビの終焉や配信の時代を語る前に、演者(お笑い芸人)さんたちへの敬意と芸への留保なき集中を引き出したところで、新しい文化の始まりとなったのでは。(了)
※息子自身のこの作品のできあがる経緯やスタッフ論については以下をどうぞ。
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