【補論】iPadはなぜ売れないのか ― iPad評価は重さを含めた形状評価なしにはありえない。 2010年05月09日
※この記事は「iPadはなぜ売れないのか ― 発売前のiPadを手に入れました」(
http://www.ashida.info/blog/2010/05/ipad_ipad.html#more)の補論です。併せてお読み下さい。
iPadは、モバイルPCではない。そんなものと比較してもしようがない。たしかにそうだ。そもそも持って歩く気など全く起こらない大きさと重さ。
どんな感じで使うかと言えば、室内の適当な場所にさりげなく置かれていて、それを手にとって使うという感じ。立ったままか、座ったままかは別にして手に取るという感じを想定して作られてる。
なぜか。普通にテーブルや机の上に置いて使うには視野角が広くない。目の前においてもベタ置きでは暗くなる。そもそもテーブルや机の上に置いて使うのなら、通常のPCでもいいのだからそんなことに不満を言ってはならない(苦笑)。
そこで、両手で持って使うことを前提にするなら、閲覧中心のiPadとなる。そもそも両手で持つならタッチタイピングは不可能。大概の場合、両親指を使った入力になる。ところが両親指だと私のような大きな手でもiPadは少し大きすぎる。
底辺が長い面(242.8mm)を下にした場合はもちろんだが、短い面(189.7mm)を下にした場合でも少し大きい。親指の移動距離が大きすぎるサイズなのだ。少なくとも日本人には。女子はもっとツライだろう。iPhone でさえその横幅を大きすぎると言って嫌う女性は多い。
たとえば、ロック解除のパスワードロック画面(iPhoneサイズで中央に現れる)の四桁数値をiPadを両手で持ちながらさりげなく入力することは、男性の私でもほとんど不可能。
しかし、これもまたiPadに対する大きな不満にしてはいけない(苦笑)。iPadは通常のPCのようなオフィス・ビジネス・ワープロ+表計算用途的な入力操作を想定していない、と。
となると、iPadは何を想定しているのか。たぶん、膨大なインターネット情報や電子情報を、これまでのPC利用の環境(モニタ装置+PC本体+キーボード+マウス+机+椅子+1個人対面)の制限を超えて提供したいというのが、iPadの本望。
この本望の一部はすでにiPhone が実現している。iPhoneはカーソル移動とスタイラスペンからMobileツールを解放した。ザウルス、WindowsCE(WindowsMobile)、Palmの伝統からのエポックだった。そしてそれは何よりも携帯電話の多機能ボタンと階層化メニューからの解放でもあった。
iPhone の携帯電話クラウド化の意義はたしかに大きいが、携帯ツールは操作性の意義の方がはるかに大きい。
カーソル移動とスタイラスペンからMobileツールを解放した一番の意義は、小型化の中でのモニタの解像度問題を一応は解決した点だ。iPhone の解像度は当時のMobileツールの中でも高解像度ではなかったが(480×320)、それがどうした? というほどに指によるマルチ操作は快適だった。携帯電話のサイズで初めて本気でフルサイトブラウジングする気を起こさせたのである。
iPadもまた、カーソル移動とスタイラスペン(PCではマウス)から「パソコン操作」を解放したという点で大きな意義を持っているが、それはiPhoneが切り開いた地平。
しかし解像度と大きさが拡大されたために、PC用途そのものを拡大する期待を背負わされることになった。
iPadの解像度は、1024×768ピクセル、サイズは9.7インチ。レッツノートと解像度は同じ、サイズはRシリーズの一回り小さいくらいだが、iPadのスペックの意味はそこにはない。
縦でも横でも自由に使えるため(しかもiPhone と違って縦横変換ロックができる)、縦使用すると(短い辺を上下にする)、1024の垂直解像度を確保したことになり、大きなモニタ解像度を得ることになる。フルサイトブラウジングはそもそも縦長の方が適している。これはコロンブスの卵のような話だが、使ってみて「そうだよなぁ」と実感できる。
iPhoneでも他の携帯端末でも縦横フリーのモニタ利用はあったが、1024×768解像度の縦横フリーのモニタ利用は、iPhoneなどの縦横フリーとは比較にならない快適さがある。もちろん机上型でもその種のものは以前からあるが、ヒンジのないiPadの比ではない(し、そもそも薄さと軽さという点でも比ではない)。
つまりネットブラウジングの快適さはネットパソコンの比ではないだけではなく、他のハイパワーモバイルPCの比でもないと思われる。電池も格段に持つことから言えば、ネット利用とメールの送信程度に入力が限られる従来のユーザーから見れば、モバイルPCと比較したくなるのは当然の傾向。
しかしながら、問題は形状にある。何度強調しても強調しすぎることはないが、このiPad、手で持つことを想定している。iPad評価の鍵は、形状論。形状論のないiPad評価は全て無意味だ。
iPadは机の上やテーブルの上で使うという感じではない。ドックやハードキーボードを追加して無理矢理にでも使おうとするユーザーがいるだろうが、それはわざわざiPadを従来のPC評価の延長に押し込めているだけのこと。
ネットブラウジングが「快適」と言っても、手で持ちながらのブラウジングが最適であるようなコンテンツに限られる。そこがこのiPad評価の生命線。
iPadはコンピュータで仕事をばりばりしたい人が使うものではない。机好きの人が買うツールでもない。
「手」利用のコンテンツ・メディアとしては、書籍(電子書籍)などがその一つだろうが、しかしiPadは書籍よりははるかに重い。文庫や新書と較べると、700グラム前後のiPadは3倍、4倍の重さ。
たくさんの書籍をiPad一つで持ち出せる、なんていう人がいるが、まず電車の中ではこんなもの読めない。画面が大きすぎて隣の人に丸見え。見えすぎる大きさなのだ。満員電車ではもっと無理。歩きながらはもっと無理。
電子書籍の意味は何冊も持ち歩けることにあるのではなく(そもそも一日に何冊も完読する人が何人いるというのか)、本来は書籍のテキストデータベース化。読まないとデータ化できなかった書籍のフルテキスト内容(書籍の丸善カード化)を、検索一つで探し当てること、これが電子書籍化の最大のメリット(コンテンツ提供側のメリットも多いがここではこの程度にとどめておく)。
書籍は人が手で持ちながら(も)使うコンテンツの一つだが、それでも500グラムも超えると机の上で開いて読むのが普通。両手で持ちながら使うiPadは重すぎるし、平置きした場合には視野角の問題が残る。しかも世界大のテキストデータベースなどまだまだ存在しそうにない。
書籍の他に何があるのか。私には、この先のコンテンツが見えない。リビングに座りながら、立派に設置してあるPCを無視して、iPadを膝に置きながら使う。この場合、どんな用途があるというのか。最初は楽しいかもしれないがそれ以上のものではない。
PCが自宅にない、あってもネットパソコン止まり。このユーザーはiPadユーザーになりうるが、しかしこの人達はもともとパソコン(+モバイル)志向。電子書籍的な「手」のユーザーではない。
また学生の一部や20代、30代のOLの一部には、自宅内にPCがあっても携帯電話でネット利用する層が存在しているが、この層は主には机拒否派。ベッド(=ふとん)の中でも寝る寸前までネット(+メール)利用する層。iPadはこの層に机拒否という点では合致するが、ベッドの中では形状と重さが中途半端。携帯(主にはiPhone )のような軽快感がない。
パソコン志向でないユーザー。たとえば、小学校に就学する前の子供たち、老人層、身体障害者の一部はどうだろう。この層には、iPadはユーザーインターフェイスという点で及第点だが大きさと重さという点で辛い。ベッド(=ふとん)の中に持ち込めないものは、この層にも不適なのだ。
後は、商用、たとえばショールームなどでの利用がある。たぶんいくつかの用途は考えられるだろうが、いまiPad待望論で騒いでいる連中が法人利用を想定してるとは考えられない。
iPhoneがAndroidを待つまでもなく、GOOGLEカレンダーやGmailと親和性を持ち、PCライクな存在として普及した今、「手」PC利用(反カーソルキー、反マウス・反スタイラスペン)の手軽さはこれ以上のものはないくらいに認知されている。iPadは、むしろ「手」志向としてはその形状と重さからして逸脱した存在なのだ。
6月すぎにはその新しいiPhoneが発表される。秋には新しいiPad(今月発売されるiPadの半分の大きさと重さ?)が発売されると聞く。iPadの本命はこの「秋iPad」に決まってる。
新しいiPhone を買うか、「秋iPad」を買うか、選択はそれしかない。ふるさとのお父さんやお母さんに買って上げるにも「秋iPad」が最適ですよ。
調子者だけが新しいとか言って5月iPadに手を出す。携帯電話の4000円を超える定額通信料にさらに3000円の追加投資。半年も経たないうちにもっと素敵な「秋iPad」が出たときにはもはや手を出せない。そんなバカな事をする必要はない。→「にほんブログ村」
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半分の重さにするには有機ELを採用する必要があるでしょう。
年内出荷とすると、部品価格的に10inchは無理で7inchがせいぜいです。
それも多分年内はなくて、来年初頭ではないでしょうか?
さらに、7inchでは軽くても表示文字がかなり小さくなるので、老眼はいっている50代以上のお父さんお母さんには向きません。
10+inchの有機ELパネルが十分安くなる2年後以降を待ちましょう。
私は今回iPadを購入する予定です。
しかし、こちらに書かれている内容には全面的に同意できます。
理解した上で手を出すのと、そうでないのとでは大違いだと思いました。ありがとうございます。
秋iPadなど不確定要素の大きい端末を持ち出されても・・・
売れる・売れないの基準が分からないが、iPhoneなみに売れないって意味でしょうか?それなら難しいかも知れないが、普通にネットブック並に売れるかも知れないですね(最近ネットブックの売上自体は落ち込んでいるようですが)
それよりも、今のiPhoneと用途が重ならずに、新しい用途で使える端末が増える意味の方が大きいと思う。
別に秋に新しいiPadが出て、それに魅力があるなら、今iPadを購入する人は後悔しないでしょう(ほとんどの人が買い増すだけ?)大画面iPadは、それなりの使い勝手がありますからね。
あと専用アプリが出てきて、新しい用途で使えるようになる可能性は高いと思います。
DSが最初に出た時も、2画面&タッチディスプレイの使用用途がいまいちわからないって人は多かったが、面白いアプリが出てくれば人々は購入することになるのでiPadも同じように時間をかけて普及してくるんじゃないでしょうか。
さすが芦田先生はITの分野に詳しいご様子でとても参考になりました。
外出先でも家でも使う用途がなければ、当然ガジェット好きのマニア以外は売れないでしょうね。今盛り上がっているのはほとんどギークの人たちだけでしょうね。
一般の消費者は賢いですからね。実際に発売されてどの程度しか売れないかとても楽しみです。
私もモバイル派でiPadに興味はあるんですが、あの大きさ重さはやはり屋外では使いづらいと思います。
インドア用ならまさに昔マイクロソフトが提唱したスマートディスプレイと同じな訳で、今更な感がします。
ただ昔と違うのはネット上のコンテンツが豊富になり、通信インフラも充実しだし、更にハード的にも高性能な省電力CPUやSSDなど、実用的なモバイルPCが実現できる状況です。
現在なら使い勝手の良いピュアタブレットなモバイルPCが発売されれば、結構ヒットするのではないかと思います。
IPAD購入をどうするか、迷いに迷っていましたが、こちらの意見を見て、やっと結論が見いだせました。
「今は買わない」そもそも、3G回線が必要かなどの議論よりも、重さ、形状の議論が一番必要ですよね。
片手で使えないというのは痛いです。毎日もって歩ける重さでないというのもショック。現在IPHONEを使っていますが、もう少し容量の多い、いつでもどこでも見られるマルチプレーヤーがほしいと思っていました。
それなら、IPOD TOUCHを買うほうがいいようです。大変参考になる記事、ありがとうございました。
一般的な意見としては同意です。ただし、これは偏った見解に思います。というのはこのレビューから見てまだ使い道が決まってない人が書いてるように見えたからです。
iPadは簡易ワープロ、PDF閲覧や読書、動画閲覧や人に見せたりする用途にも最適の大きさになっています。それは使っていて気づいたことです。iPhoneとPCの間のポジションなので、従来の考え方ではiPhone程度にしか使い道は見出せないでしょう。
家にある資料をを全て持ち出すというのは全ての資料から検索がかけれ、参照することができるという利便性があります、これは仕事や、学習などで生きてきます。またiPhoneでは使いにくかったアプリの多くが生まれ変わったように使いやすくなっています。これは大画面だから出来たことです。使う場所は室内でしょうが、外で立って使うのはiPhoneなどの役目でしょう。
iPadは室内ですが家だけでなく仕事場や、カフェ、図書館、私はそういったところで使います。家ではMacの補助やベッドでのネット閲覧、動画閲覧、読書にも使っています(これが中間としての使い方だと認識しています)。
重さなどはほとんど気になりません。持って使う?ゲームならそうですが、基本違うと思います。純正ケースに傾きがつけられているのはそういうことだと思います。手で持ち上げて使うケースが実はそこまで想定されていません。
というか使っていくと自分が機器に適応していきます。iPadはとりわけ不便に感じることは少ない機器です。ややシンプルすぎるぐらいですね。
Kindleのように小型版は出すでしょうが、それは単に電車の中用、あまり人に見られたくないものを読む用となるでしょうね。ビューワとしてはより読書向きにはなりますが、資料読みには現行サイズのほうが適するのは言うまでもないでしょう。そこが機器選択上の分かれ目になると私は思います。
調子者やギークが騒いでるだけではありませんよ。私にとっては待ち望んでいたサイズ。話題性だけで売れてると思ったら間違いでしょう。
私の知人にもやはりビジネスや学習などで使いたいという人が多い。これらの潜在需要も爆発させた製品になったのだと私は思っています。衰退したPDAにしても失敗した電子ペーパーにしても要望を満足にかなえるものはありませんでしたから。
なので必要な人には待てば得するものではなく、待った分使う機会を損失してしまうので、待つ必要もないでしょう。
特にiPhoneでは不便だったけどiPadで使いたいアプリがある人や、仕事/学習用の資料閲覧や入力作業、大画面で動画閲覧、ゲームをしたいなど色々あるなら買っても良いと思います。
反対に用途が決まってなくお金に余裕がなければそもそも買う必要はないとは思います。そういう意味で買うなというのは賛成ですね。もう少しお金をだしてLaptopを買うほうがまだ良いでしょう。
小型版を勧めるのもおかしいです。どんな用途で使うのか分からず買うのは、新しいから買う調子者と大差ないのではないでしょうかね。ちなみに私は64GBのiPad with Wifiを使ってます。
もうそろそろ削除された方が良いかと。ちょっと恥ずかしくないですか?
ご意見は尤もだと思います。
ですがサイズがフィットしないという意見は当然であり、
それが売れるか売れないかに論理が繋がるのはiPadの
製品特長を正確につかめていないのでは、と思えてしまいます。
そもそもiPadは顧客によってキラーコンテンツが
多様ですから、サイズがどの使い方にも完全に
フィットしないのは仕方のない事でしょう。
例えば本を読む時に膝に置いて読むか、机に置いて読むか、
手に持って読むか、寝転がって読むかなんて人にも
よりますし、気分にもよるでしょう。
ですが、かといって本が完全に机に置いて読むサイズに
変更される必要はあるのでしょうか。
iPadはセグメント分けして明確な顧客を想定して
作られたものではありませんから、サイズに文句を言うのは
お門違いでしょう。
iPadは顧客に使い方を委ねています。誰がどう使うかは
自分で考えてください、と売り出している製品です。
事実今購入している人はギークかアーリーアダプターですが、
彼らは新しいアプリに期待を抱いて購入し、
各顧客毎に自分にあったアプリを発見し、iPadをそれぞれの
用途で使います。
その用途は未だ特定できませんし、十人十色なのですから、
あなたが想定する用途にサイズがフィットしていないから
売れないという考えは汎用的ではありませんし、
当然の事ですから、どのサイズのiPadが売れようと
売れなかろうと、それがあなたの論理があっている証拠には
なり得ません。ただそのサイズがフィットするという使い方が
登場し、それをiPadのキラーコンテンツと定義する顧客が
多いか少ないかが分かるだけです。
最終的に顧客がiPadの使い方を決めます。目的が現在ない
から買うのはおかしいという論理は、将来的に彼らが
目的を見出す可能性を完全否定しなければ成り立たないでしょう。