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 医学界も捨てたものではない(優れた研究者達に恵まれて私も家内も幸せです) ― その後の 「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化され 2009年11月12日

芦田先生侍史

大森さんとXさんの議論は、1年半くらい前の芦田先生と私ことP(mixiで“パパ”)の討論(
http://dl.dropbox.com/u/1047853/ver3.0%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B%E3%80%81%E8%A6%96%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E8%84%8A%E9%AB%84%E7%82%8E%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B.pdf)を思い出させます。芦田先生と討論を夜な夜な(というか早朝?)繰り返させて頂く中で、頭の中が整理され、研ぎ澄まされていくのを感じ、心地よいものでした。

そんなわけで、少し参戦?させてください。

大森さんとXさん共にプロの研究者と思われますが、論点の鋭さにとても勉強させて頂いています。

尚、両者の記述の中で、小生の翻訳が登場し(苦笑)、下手くそな訳に我ながら赤面してしまいますが、誤解の元になりますので、以下、疑問点2の核心部分では原文を転記して小生の解釈を述べます(論文の原文はhttp://www.neurology.org/cgi/content/full/64/4/621?cookietest=yesで公開されています)。


「X」さんへ

≪疑問点1について≫
概ね納得されたようですのでパスします。


≪疑問点2について≫
Xさんがご指摘のように、『さすがに、このくらいの例数(サンプルサイズ)になると、動物実験と異なり、遺伝的背景も経験もばらばらな被検者のデータで、有意差が付くような統計結果が得られることは希ですが、それは分かった上で、せっかく患者さんのご協力のもとに得られた貴重なデータなので、サブグループに分けた解析も行ってみた、ということだと思われます。』というのは同意できます。

臨床試験というのは患者の犠牲のみならず大変な労力(とお金)がかかっています。確か、そのような擁護をかつて私も(芦田先生との議論の中で)したことがありました(笑)。
※疑問点2の残る核心部分は後回しにします。


≪疑問点3について≫
大森さんの『著者たちが引用している北米の研究の定義ならすんなり分かるのですが、なぜわざわざ異なる計算方法をしたのか分からない(専門家の先生には分かるのだろうと思うので、これは理解できない私の問題なのですが)。』が論点かと思います。

これは、小生の昨日のコメントでも触れましたが、今回のデータ(表3:http://www.neurology.org/cgi/content/full/64/4/621/T312)を見るに、50ug投与群と250ug投与群の比較では、“Duration of relapses”が倍近くの差が出ていて、50ug投与群の方が250ug投与群より一回の再発期間が長いという結果でした(p=0.03)。

素直に解釈すると、250ug投与群の方が、再発時に“短く済んだ”と考えられます(しかし、「再発期間」の定義は?というのが昨日小生が提起した問題点です。今回はblindされていない単なるランダム化比較ですから、ON-OFFのようにはっきりするわけではない再発と非再発の境目を、観察者のバイアス無しで定義しようとすると、それなりに大変なはずですが、詳細が記載されていないので不明なのです)。

著者らは“再発期間中に再発は起きない”と指摘しており、再発とは非再発期間にのみ生じる、との前提があるようです。となれば、単純に年間再発率を欧米式に計算してしまうと、一回の再発期間が短い250ug投与群の方が年間の非再発期間(再発し得る期間)が長くなり、一回の再発期間が長く年間の非再発期間(再発し得る期間)が短い50ug投与群よりも、計算上の年間再発率が高く出やすいことになります。

よって、今回の“Duration of relapses”の差からは、著者らの計算方法の方が、従来の計算方法よりも年間再発率に差が出やすい(250ug投与群に有効性を見出しやすい)と言えるかと思います。しかしこの状態で計算した年間再発率でも、50ug投与群と250ug投与群との差は、片側検定という手段を選択してもp=0.047で、スレスレの有意差となっています。従来の計算方法での数値は記載されていないので想像に過ぎませんが、従来の計算方法では有意差が出ないのではないかなと邪推してしまいます。


≪疑問点4について≫
大森さんの『さらに、もし、OSMSの患者さんにはインターフェロンには効果がなく副作用しかないのなら、この13人の多くはOSMSの患者さんである可能性が高い。この13人の患者さんを解析からのぞくことは、OSMSの患者さんに対するインターフェロンの価値を過剰評価することになってしまう。』はデータ解釈上、あり得る指摘だと思います(論文の査読者からこういう指摘があってもおかしくないのですが、、、)。

一方で、Xさんが指摘するように、『脱落例について、その理由をすべて追及することは、患者さんのプライバシーの問題もありますから、ほぼ不可能であり、論文に記載しなければいけない事項とは思えません。』も正論です。臨床試験は理由の如何を問わず、患者が望めばいつでも脱落できる前提となっています。

しかし、患者をリクルートする段階で、その方がOSMSかCMSか分かっていたはずですから、患者のプライバシーに拘わらず脱落した患者の内訳(OSMSが何名か)を著者は当然把握しているはずです。

大森さんのような指摘を受けないようにする為にも、OSMSとCMSを比較した部分が結局のところ本論文の要所になっている以上、最低限この情報は論文に記載するべきだろうと思います(それで、OSMS患者の脱落が有意に多いのであれば、それはそれできちんと議論して、今回の研究のlimitationとして提示するべきだと思います)。


≪疑問点2の核心部分について≫
Xさんが御指摘の、『したがって、「要旨には「OSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された」なんて書いてありますが、そんな比較検討なんてはじめからしていないのです。」という大森さんの主張は間違っています』についてです。下記に原文を段落毎に引用(翻訳)して小生の解釈を記載します(一部、一般読者を想定した記載にしました。まわりくどくてすみません)。


Patients with OS-MS and C-MS were also analyzed as separate subgroups. The number of OS-MS cases was 18 (19.4%) in the 50 µg group and 22 (23.2%) in the 250 µg group. Relapses in patients with OS-MS involved the spinal cord or optic nerves only, with two exceptions: one involving the cerebrum and cerebellum in one patient in the 50 µg group, and another involving the brainstem in one patient in the 250 µg group.


OSMS患者とCMS患者を別のサブグループに分けての解析も行った。OSMS患者は50ug投与群のうち18名(19.4%)であり、250ug投与群のうち22名(23.2%)であった。OSMS患者の再発は2例の例外を除いて脊髄又は視神経に生じたものであった。2例の例外では、1名は50ug投与群の患者で大脳と小脳に生じ、もう1名は250ug投与群の患者で脳幹に生じたものであった。

=====
解釈:ここの部分はサブグループ解析の序章です。特に解釈を加えません。
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The ratio of the annual relapse rate in the 250 µg group to that in the 50 µg group was 0.608 (–39.2%) in the OS-MS patients and 0.746 (–25.4%) in the C-MS patients, i.e., showing comparable treatment effects of IFNB-1b in patients with OS-MS and C-MS (p = 0.093 in OS-MS and p = 0.106 in C-MS, see figure 2).

250ug投与群における50ug投与群と比較した年間再発率の割合は、OSMS患者で0.608(39.2%の減少)、CMS患者で0.746(25.4%の減少)であり、即ち、OSMS患者とCMS患者に対するIFNbeta-1b治療効果が同等であることを示している(OSMSでのp値=0.093、CMSでのp値=0.106:図2)。

※図2はここにあります。
http://www.neurology.org/cgi/content/full/64/4/621/F212

=====
解釈:データを抽出すると以下の通りです。

(1)OSMS患者
50ug投与群の年間再発率 vs 250ug投与群の年間再発率
=1:0.608(39.2%減少:p値=0.093)

(2)CMS患者
50ug投与群の年間再発率 vs 250ug投与群の年間再発率
=1:0.746(25.4%減少:p値=0.106)

年間再発率の“平均値”を比べると、OSMS患者でもCMS患者でも50ug投与よりも250ug投与の方が低くなっています。しかし個々の群のデータにはばらつきが(即ち、年間再発率が高い人も、低い人も)あるわけで、通常は図2のグラフにそのばらつき(標準偏差の2倍値(2SD)の幅や、95%信頼区間)を示すのが科学論文では一般的です。

例えば、IFNbetaの有効性を示した海外での治験(同じNeurology誌のPDF:http://www.neurology.org/cgi/reprint/43/4/655?ijkey=3bae2fec7a8ddaad64290adfed6cd1fd3192f045)の658ページにはそのようなグラフが載っています。

今回はグラフにその記載はなく、小生が読んだ限りは、上記で比較されているOSMS患者とCMS患者の50ug投与群と250ug投与群のそれぞれにおける年間再発率のばらつきがそれぞれどの程度であったのかの記載はありません。

そのばらつきを考慮するのが、統計処理をするということになります。“本当は50ug投与でも250ug投与でも年間再発率は変わらない”か、“本当は250ug投与の方が50ug投与よりも年間再発率が増える”のに、“得られたデータの平均値を比べると250ug投与の方が、たまたま低くなって見えているだけ”という可能性を検討するために、このばらつきを統計処理します。

その結果、片側検定(小生の理解が正しければ、“年間再発率は変わらない”か“年間再発率が増える”、という2つの事象のうち片方だけについての検定)でも危険値(p値)が9.3%あるということです。

つまり大雑把に言えば“本当は50ug投与でも250ug投与でも年間再発率は変わらない”(又は、“本当は250ug投与の方が50ug投与よりも年間再発率が増える”(尚、両方の可能性を考える場合には、両側検定を行うのが通常だと思います:統計に不勉強なのでこの見解に誤りがあったら御指摘お願いします))集団からデータを抽出して同様な研究を行った際に、約10回に1回はこういうデータになる、という意味です。

科学論文では通常、両側検定で5%以下(p=<0.05)であるのを、統計学的に有意(=結論を誤っている可能性が低い)と見なします。

データを素直に解釈すると、今回の(1)と(2)のデータはいずれも、片側検定でもp値が9%~10%台ということで、つまり、統計学的に有意とは言えません。従って、CMSにおいても、OSMSにおいても、50ug投与群と250ug投与群の間の年間再発率の“差”は統計上は「はっきりしない」ということです。

故に、CMSにおいても、OSMSにおいても、この「統計上はっきりしない」という点においては、“同等の結果”であったと言えます。

しかし、著者らは“showing comparable treatment effects”と記述しています。本当はこれを示すには、“OSMS患者群における(50ug投与群又は250ug投与群の)年間再発率”と、“CMS患者群における(50ug投与群又は250ug投与群の)年間再発率”に“差がないこと”を統計解析によって明示しなければなりません。

解析されているのは、OSMS患者群内部、又はCMS患者群内部、それぞれ別に行われており、OSMSとCMSの年間再発率を直接比較したデータは示されていません。

上記が、大森さんが指摘した、『要旨には「OSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された」なんて書いてありますが、そんな比較検討なんてはじめからしていないのです。』の意味だと思います(大森さん、違ったらすみません)。

プロの研究者(論文の査読者ですら、或いは時には書いている本人ですら)も引っかかる統計のマジックみたいなものでしょうか。

今回の議論は上記の部分が中心で、時間の関係で解釈は加えませんが、論文のOSMSに関するサブグループ解析の続きの段落として、下記もありますので、ご紹介します。
=====

The proportion of relapse-free patients was 28% (5/18) in the 50 µg group and 27% (6/22) in the 250 µg group in patients with OS-MS (p = 0.653), compared to 36% (27/75) in the 50 µg group and 49% (36/73) in the 250 µg group in patients with C-MS (p = 0.067).

OSMS患者における無再発患者数は、50ug投与群で28%(18名中5名)、250ug投与群で27%(22名中6名)であった(p値=0.653)。一方、CMS患者における無再発患者数は、50ug投与群で36%(75名中27名)、250ug投与群で49%(73名中36名)であった(p値=0.067)。

There were 50 patients in the 50 µg group and 43 patients in the 250 µg group with a diagnosis of C-MS, and lesions involving the spinal cord prior to the start of the study. Of these, 29 (58%) in the 50 µg group and 18 (42%) in the 250 µg group had relapses involving the spinal cord during the study, compared with 13/18 (72%) in the 50 µg group and 12/22 (55%) in the 250 µg group for patients diagnosed with OS-MS. Of the remaining C-MS patients, i.e., those with no lesions involving the spinal cord prior to study entry, 3/25 (12%) in the 50 µg group and 3/30 (10%) in the 250 µg group experienced relapses involving the spinal cord. The ratio of the annual relapse rate between the 250 µg and 50 µg treatment groups in patients with spinal cord lesions was 0.542 in patients with OS-MS and 0.571 in patients with C-MS, demonstrating a comparable reduction in relapses involving the spinal cord in both patient groups (figure 3).

研究開始時点で脊髄に病変を有していたCMS患者は、50ug投与群で50名、250ug投与群で43名含まれていた。

このうち、50ug投与群の29名(58%)と、250ug投与群の18名(42%)は、研究期間中に脊髄に病変と伴う再発が認められた。

一方OSMS患者では、50ug投与群で18名中13名(72%)、250ug投与群で22名中12名(55%)であった。研究開始時点では脊髄に病変を有していなかったCMS患者においては、50ug投与群で25名中3名(12%)、250ug投与群で30名中3名(10%)で脊髄に病変を伴う再発を生じた。脊髄に病変を有する患者における250ug投与群の50ug投与群に対する年間再発率の割合は、OSMS患者で0.542、CMS患者で0.571であり、いずれの患者群においても脊髄に病変を伴う再発に同等の減少が認められた(図3)。

※図3はここにあります。
http://www.neurology.org/cgi/content/full/64/4/621/F312


以上の通りですが、大森さんの指摘を再考するに、小生としては、やはり、『しかし、今回の大森様の解釈を拝読するに、小生自身が「本文を読んでもその問題点を評価できない人」に該当しており、お恥ずかしい限りです。』と感じる次第です(大森さんは何者ですか?(笑))

あと、余談ですが言い訳を。Editorialについて、Xさんの訳と小生の訳の差は“should be reluctant”の訳し方の差にあると思います。ここを訳す時、実はうーん、と唸ってました。

というのは、前段で“could be due to inadequate power”と“may mean that interferon beta is effective”とあり、これを“However”で受けて、“should be reluctant”と来ているので、その後の段落(OSMSに限った研究をきちんとするべきだという提言)を考えてもXさんの訳の意かなぁと思ってました。

ただまぁ、MSを真剣に診察している医師においては、どうもOSMSはCMSと違う、なんかステロイドが効いている感じがあるし、果たしてIFNbetaを使って良いのだろうか?と懐疑的に感じていた時代背景(詳細は芦田先生のおつくりになったPDFを御参照ください)を考慮して、こっちの訳にしておくか、と思った次第です。
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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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