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 多発性硬化症 の治療は怪しい ― 「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」論文を誰がまともに読んでいるのか? 2009年11月11日

大変なコメントが、私の多発性硬化症PDFレポート(http://dl.dropbox.com/u/1047853/%E8%A6%81%E7%B4%84%E7%89%88%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87%20%E3%83%BB%E8%A6%96%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E8%84%8A%E9%AB%84%E7%82%8E.pdf)に(「大森」さんという方から)寄せられた。

それは、「インターフェロンベータ1b」はヨーロッパ型のMSのみならず日本型のMSにも効くと立証した「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」(2005年2月22日号 Neurology誌)がやはり怪しいというものだ。

私は上のPDFレポートでは、この論文の内容に直接触れてはいない。むしろこの論文の前後の研究(1995年以前から2007年にかけての)を睨みながら、この論文がなぜ存在したのかが「わからない」(わからないが故に「怪しい」)というのが、私の結論だった。

しかし治療の現場では、多発性硬化症には唯一効能があると「立証されたインターフェロンベータ1b」という認識がまかり通っている。

この「大森」さんのコメントは、その立証の根拠となっている「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」(2005年)という論文そのものに切り込んだものだ。

「大森」さんは、この論文は「結論ありき」の論文だったと書かれています。

以下が該当部分

--------------------------------------------------
おそらく「結論ありき」だったのではないでしょうか。

「インターフェロンには日本人のMSに効果がある。もちろんOSMS(視神経脊髄型MS)にも効果がある」という証明をしたい、その結論を証明するためにこの研究を行ったけれど、普通の解析では有意差がなかった。

だから、両側検定では有意差がでないから片側検定を行い、従来の研究と違う年間再発率の計算式を使い、従来の研究では第一の評価事項となっていた非再発率は重視せず、治療の初期で研究参加を取りやめた人たちを除外して解析した。要旨にも、行っていない解析を書いた。

それが私の結論です。

---------------------------------(以上がコメントの結論部分)

もしそうだとしたら、多発性硬化症の治療を「インターフェロン(ベータ1b)」で進めている現在の治療は一体何なのかということになる。医療関係者の誠意ある対応を期待したい。

一体、日本人の研究者でこの論文をまともに読んでいる研究者は何人いるのだろう。またこの論文のデタラメさについてよくわかっているにもかかわらず口をつぐんでいる研究者はどんな思いでいるのだろう。私の家内は既に充分にこの論文の犠牲者になっている。

以下はその「大森」さんの先の結論部分に至るコメント全文である。若干文言を変えているが、大意に変更はない。

***********************************

芦田さん

数日前にコメント欄に投稿したのですが、自分の投稿を読み返してみて、これでは、説明が十分ではないし、正しくない説明もあるし、ブログの読者のみなさんを混乱させてしまうような気がしたので、書き直しました。

もし、掲載してもらえるのなら、こっちのバージョンをのせてもらえるとうれしいです。

また、この投稿が芦田さんのブログにふさわしくないとお考えであれば、芦田さんだけに読んでもらうのでもけっこうです。長くなってしまったし。

以下本文。

芦田さんの奥様と芦田さん、多くの患者さんの体験されている様々な思いを想像しながらpdfを読みました。いろいろと考えたことがあるのですが、それは書くのをやめます。

その代わりに、2005 年2 月22 日号 Neurology 誌 621~630 ページ「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS 患者において有効である:ランダム化された多施設研究」の全文を今回初めて読んでみたので、この論文について考えたことだけを書きます。

芦田さんは「日本のMS治療は、この論文に良くも悪くも影響されています。しかもこの論文は極めて怪しい(と私は思います)」とお書きになりました。

私は多発性硬化症のことを芦田さんの100分の1も知りませんし、この論文の位置づけもよく分かっていません。

しかし多発性硬化症についてその程度の知識しかもたない私でも、この論文の怪しさを指摘することは出来ます。

芦田さんはこの研究の結果についてはpdfの中では触れられていません。

もちろん、以下に書くことは、芦田さんはもうすでにご存じのことだと思います。ですから、芦田さんのためにと言うよりも、このpdfを読む読者のみなさんに役にたてばいいなと思って書きました。

まずPさんが訳してくれた要旨の一部より。

<結果>年間再発率は250microG 投与群で0.763、50micorG 投与群で1.069 であり、再発の相対減少率は28.6%であった(p=0.047←註:統計上よく出現する項目ですが、簡単にはこの結果が間違っている可能性が4.7%あるということですが、5%以下の場合は通常「統計学的に有意」と判断します)。

すべての第二評価事項に関して、250μG のIFNB-1bを投与された群が勝っていた。サンプル数が少ないために統計学的有意ではなかったものの、サブグループ解析ではOSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された。(要旨の一部ここまで)
※以下病名略称の註(芦田による)
●CMS(=Classical MS 従来型MS):大脳・小脳に主病巣を有し、欧米に多いMS(とされている)
●OSMS(=optical-spinal MS 視神経脊髄型MS):視神経、脊髄に主病巣を有し、日本、アジアに多い(とされている)
●NMO(=neuromyelitis optica,Devic's disease 視神経脊髄炎):症状はOSMSと似ているが、抗aquaporin 4抗体が陽性の場合は、OSMSではなくNMOの可能性が高い(と思われている)

まず、「サンプル数が少ないため」は「サンプルサイズが小さいため」の誤訳だと思います。細かいことですが重要なことでもあります。それはさておき、この要旨は非常にひっかかります。

「サンプル数が少ないために統計学的有意ではなかったものの、サブグループ解析ではOSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された」の部分です。

(説明をシンプルにするために乱暴な説明をしますが)こういった研究の場合、普通は、2群(この研究では250μG 投与群と、50μG 投与群)の間で認められた効果の“違い”が、統計学的に有意であるかどうかを解析(検定)します。

ですから上記の記述が、「サンプル数が少ないために統計学的有意ではなかったものの、サブグループ解析ではOSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が“異なる”ことが示唆された」ならまだいいのです。

つまり、「OSMS とCMSとでは、治療効果がちがっていた。この違いが統計学的に有意かどうかを調べるために検定したが、残念ながら有意差はなかった。これはサンプルサイズが小さいためと考えることが出来る」という理屈です(これでも、かなりひっかかるのですが、まだましです)。

しかし、上記要旨ではそうなっていない。治療効果が同等であることを検定したように読める。これはおかしい。

誤訳ではないかと原文を読んでみました。Subgroup analyses suggested that the magnitude and direction of treatment effect in patients with OS-MS and C-MS was similar, albeit not significant due to small sample size.となっていますので、訳に間違いはありません(Pさん、疑ってスミマセン)。

ひっかかる、ひっかかる。いったいどういう解析をしたのか想像も出来ない。

もしかしたら私の知らないような特別な統計学的な解析方法(検定方法)を使ったのかもしれないけれど、要旨を読む限りは、そうは思えない。あやしい。

で、本文を読んでみるとツッコミどころが満載です。

ツッコむ前に、この論文の内容を簡単にまとめると、MSの患者さん200人くらいを半数ずつに分けて、一方には250μGを、もう一方には50μG を注射して、2年間の再発を調べた。MSの患者さん全体で比較したあと、OSMSの人と、CMSの人とを別々にして比較もしてみたという研究です。


-------------------------------------------------------
【疑問点1】
この論文では、治療効果のMS全部ひっくるめた解析では、50μg群と250μg群とで年間再発率に有意差があった、と報告しています。(注:Pさんが訳してくれたところで言うと、「年間再発率は250μG 投与群で0.763、50μG 投与群で1.069 であり、再発の相対減少率は28.6%であった(p=0.047)」の部分です。p=0.047ですから、有意差と言って良いように思えます。

しかし本文をよくよく読むと、この論文では片側検定を使っています。

50μG 群よりも250 μG群のほうが効くという前提で解析したと書いてある。これは問題。たとえプラセボ効果以上の効果がない偽薬を使った研究でも、両側検定をするのが普通で、片側検定をやっている研究はあまりありません(全くないとは言いません。探せばあるのでしょう。でも、あったとしてもそれが正しいとは思いません)。

ましてや、この研究ではプラセボではなく、50μG 群と比較しているのです。片側検定を採用するのは、なにか意図があってのことではないかと疑ってしまいます。

片側検定をするとなにが問題か? 片側検定は有意差が出やすくなります。

もし上記の検定で普通に両側検定を採用すれば、p値はおそらく 0.05を超えるでしょうから、結果は「年間再発率は、250μG 投与群で0.763、50μG 投与群で有意差がなかった」となります。

両側検定では有意とならなかったので、片側検定を行って有意差があったという結果にしたのではないか、と疑うということです。


【疑問点2】
さて、著者たちはOSMSの患者さん、CMSの患者さんごとに、250μG 投与群と、50μG 投与群との年間再発率の比較をしています。

要旨にあったサブグループ解析というのはこの比較検討のことを意味しています。

この論文で報告されている結果は、OSMSの患者さんでは250μg群のほうが再発率が小さかった。

しかし、サンプルサイズが小さくなるので、この効果は統計学的に有意ではなかったCMSの患者さんでも250μg群のほうが再発率が小さかった。

しかし、サンプルサイズが小さくなるので、この効果は統計学的に有意ではなかった。

つまり、MSの患者さん全体の解析では、普通は使わない片側検定を使って有意差を示したけれど、サブグループ解析をすると、OSMSの患者さんでもCMSの患者さんでも、有意差はなかったのです。

有意差がなかった理由としては、250μgの治療に効果がないのかもしれないし、あるいは、本当は効果があるのにサンプルサイズが小さいため、それを示せなかったのかもしれない。

これは考察です。どういう考察をしても自由ですが、結果は「有意差がなかった」です。

また、この論文では、患者群ごとにそれぞれ別個に、インターフェロンの効果を比較したのであって、「OSMS患者に対する効果」と「CMS患者に対する効果」とを比較しているわけではないのです。

要旨には「OSMS とCMS における本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された」なんて書いてありますが、そんな比較検討なんてはじめからしていないのです。


【疑問点3】
さて、論文を読んでも、この研究の第一の評価事項である年間再発率の定義が理解できないのです。

著者たちが引用している北米の研究の定義ならすんなり分かるのですが、なぜわざわざ異なる計算方法をしたのか分からない(専門家の先生には分かるのだろうと思うので、これは理解できない私の問題なのですが)。

で、もっと単純に、再発した人、再発しなかった人を数えてみました。

こっちのほうが直感的で分かりやすいし、著者たちが引用している北米の研究では、年間再発率とならんで、この非再発率も第一の評価事項となっています。

しかし、この日本の研究では、非再発率は、第二の評価事項の最後になっていて、しかも要旨では非再発率の結果については触れられていません。

で、結果はどうなっていたかというと、

A total of 42/95 (44.2%) in the 250 μg group and 32/93 (34.4%) in the 50 μg group were relapse-free at the end of the study(623ページ)


The proportion of relapse-free patients was 28% (5/18) in the 50 μg group and 27% (6/22) in the 250 μg group in patients with OS-MS, compared to 36% (27/75) in the 50 μg group and 49% (36/73) in the 250 μg group in patients with C-MS. (624ページ)


わかりにくいので書き直すと

まず、MS患者全体では、再発しなかった人は、
50μg群では、93人中32人(34%)
250μg群では、95人中42人(44%)でした。

250μg群のほうが再発しなかった人が多い(再発した人が少ない)のですが、統計学的には有意ではありません。(たとえ有意水準を0.10にしても有意にはなりません)。

OS-MS患者だけを見ると、再発しなかった人は
50μg群では、18人中5人(28%)
250μg群では、22人中6人(27%)
検定をするまでもありません。

再発率は差がありません。

C-MS患者だけを見ると、再発しなかった人は
50μg群では、75人中27人(36%)
250μg群では、73人中36人(49%)
250μg群のほうが再発しなかった人が多いのですが、統計学的には有意ではありません。(有意水準を0.10にするとぎりぎり有意にはなります)。

さらにまとめると、非再発率は、MSの患者さん全体でも、OS-MS患者だけを見ても、C-MS患者だけを見ても、2群間に有意差はなかった(インターフェロンに効果はない、少し正確に言うとインターフェロンを上乗せする効果はない)ということになります。


【疑問点4】
実はこの研究に参加した人は全部で205人いたのです。

しかし、解析されているのは188人。マイナス17人はどこに行ったのか。

本文を読むと説明してあります。

この研究では、50Μgなり250μgなり、目標とする量を注射するのに、はじめからその量を注射するのではなくて、少しずつ増やしていきます。

この増やしていく過程の途中で研究参加をやめた人が13人います。この13人は、50μg群だったのか、250μg群だったのか書いてありません。

もちろん、OSMSの患者さんだったのか、CMSの患者さんだったのかも書いてありません。

なぜ薬を増やしていく途中に研究参加をやめたのか、その理由も書いてありません。

これは非常に問題です。なぜか。

インターフェロンには副作用があるからです。

薬を十分に増やした後でも、50μg群で96人中5人、250μg群で96人中15人もいます。

薬を増やしていく途中に研究参加をやめた13人の中にも、副作用のせいで薬を続けられなかった人がいる可能性があります。

さらに、もし、OSMSの患者さんにはインターフェロンには効果がなく副作用しかないのなら、この13人の多くはOSMSの患者さんである可能性が高い。

この13人の患者さんを解析からのぞくことは、OSMSの患者さんに対するインターフェロンの価値を過剰評価することになってしまう。

-----------------------------------------------------------

大きな疑問点は以上の4つだと思います。

これをふまえて、改めてこの論文の結果と考察を私なりにまとめると、

【結果】
(他の多くの研究と同じように、両側検定を行うのであれば)、年間再発率も、非再発率も、50μg群と250μg群とで有意差はない。

ましてや、OSMS群、CMS群それぞれを見たサブグループ解析でも有意差はない。

【考察】
有意差がなかったのは、インターフェロンには効果がないからかもしれないし、サインプルサイズが小さかったからかもしれない、となります。

なぜ、この論文の著者は、多発性硬化症についてはシロウトの私でも分かる怪しい解析をしたのか?

以下は、疑り深い私の妄想です。そんなことはない!と怒られれば素直に取り消します。

おそらく「結論ありき」だったのではないでしょうか。

「インターフェロンには日本人のMSに効果がある。もちろんOSMSにも効果がある」という証明をしたい、その結論を証明するためにこの研究を行ったけれど、普通の解析では有意差がなかった。

だから、両側検定では有意差がでないから片側検定を行い、従来の研究と違う年間再発率の計算式を使い、従来の研究では第一の評価事項となっていた非再発率は重視せず、治療の初期で研究参加を取りやめた人たちを除外して解析した。要旨にも、行っていない解析を書いた。

それが私の結論です。

スミマセン。とても意地悪な妄想です。

しかし、Pさんがおっしゃっているように、この論文が、「事実上OSMSはCMSに治療反応性が類似するとのお墨付きを与えた」のであれば、やはりこの論文の怪しさは批判されるべき問題だろうと思います。

繰り返しになりますが、「OSMSはCMSに治療反応性が類似する」なんて、この研究では、そんな解析・検定はやっていないのですから! 

さらに、繰り返しになりますが、MSの患者さん全体についても、普通の解析・検定なら、有意差はなかったのですから。

本文を読めば分かることです。要旨を読んだだけでも、怪しい(普通ではない)ことが分かるはずです。

この論文に影響を受けた人の中には、要旨しか読んでいない、要旨を読んでもその問題点を評価できない、本文を読んでもその問題点を評価できない人がいた可能性は否定できないと思います。

この論文発表後の治療の変化が本当にあったのだとしたら、「インターフェロンはMSにも、OSMSにも効くはずだ」という医師の経験や勘による治療についての信念が、臨床研究の結果の解釈をねじ曲げた、一つの悲しい例であるような気がします。
2009-11-10 09:56:02

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感想欄

大森です。

サンプル数、サンプルサイズ、についてです。

これらの用語については、投稿全体の中では、一番大事なところではなかったので、説明を省略したので、芦田さんを混乱させてしまったかもしれません。

サンプル数、サンプルサイズという言葉については、以下のサイトがわかりやすく説明してくれています。

サンプル数とは何か?
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum005.html

大学教養で統計学を履修した学生なら、指導教官に口を酸っぱくして、サンプル数と言うな!と言われた思い出があると思います。

もちろん、統計学にもいろんな流派があるでしょうから、同じように考えない人もいるかもしれませんね。

投稿者 大森 : 2009年11月11日 18:42

興味深く拝読しました。以下雑感

1:2005年のNeurology該当論文については、大森さん御指摘の通りと思います。ですから、論文については、逐一「批判的に吟味すること」が必要なわけです。

2:論文著者は、論文がacceptされ、publishされることを第一義に考えて論文を著します。すなわち、impactのある結論が(出ていなくても)出たように書きます。ですから、著者の結論=論文から読み取るべきこと とは限りません。但し、このことで医師としての職業倫理を云々するのは酷です。あの先生もこの先生も多少は思い当たることです。

3:Neurologyはアメリカ神経学会の雑誌で、それなりのインパクトファクターですが、この論文1本が現在の本邦のMS診療のメインストリームを決めているとは考えられません。その程度の雑誌と思われます。

4:今日的には、主要なJounalはNegative dataであっても出版しやすいように(publication viasを避ける目的で)、臨床試験開始前にClinicaltrials.govへ登録することを義務付けています。

5:NMO-IgGは新しい疾患マーカーで、現在はenthusiasticな検討が続けられていますが、そのうち定位置が決まるでしょう。感度・特異度100%は嘘だと思われます。「時間の洗礼」を受けて生き残る疾患マーカーというのはそれほど多くはありません。

6:MSは、OSMSもCMSも希少疾患です。高血圧や糖尿病のような良質な前向き試験を計画することは容易ではありません。それだけに既存臨床試験の注意深い吟味と、(神経)免疫学の知識を頼りに治療方針を組み立てていくべき疾患で、「クックブックマニュアル」のような治療は不可能です。

6-1:理想的にはその事を踏まえた臨床経験豊かな神経内科医が専門的に治療に当たるべきですが、現実(本邦の医療体制)が良くも悪くもそれを許さないということもあります。

6-2:非-専門家(すなわち、例えば上掲論文を批判的に読めない医師)がそのような希少難病の診療にあたることについては、クオリティ・コスト・アクセスのうち後2者を選択した本邦の現行医療体制ゆえ、とも言えます。ちなみにこれら3者をすべて選択することは不可能です。

7:ということで、芦田さんのPDFファイルpp 11-12の「原則」には賛成です、が、画餅、とも言えます。

8:蛇足ですが、液性免疫=B-cell, 細胞性免疫=T-cellとは限りません。「T-cellからB-cellにシグナルが送られて、B-cellは指示されるままに抗体を産生する」というストーリーは二昔以上前のものです。

ですから、PDFファイル pp13-14のような「リツキシマブが奏功したから液性免疫の疾患」という議論は、少なくとも今日的ではありません。少なくとも全身性エリテマトーデスや関節リウマチの専門家は同意しないでしょう。

わたくしたちが「知っていること」はわずかで、しかしその「わずかなこと」をもとにさまざまなことを決めていかなければならない(知っていることだけでは決められない)、ということをappreciateしなければならないと思う昨今です(新型インフルエンザについても同様の感想です)。

投稿者 Anonymous Twitter : 2009年11月11日 19:00
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