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 読売新聞「大学の実力」調査が今年も発表された― ただいま検証中ですが、その前に一言言っておきたい。 2009年07月11日

今年も読売新聞「大学の実力」が特集された。最初に特集されたとき、私はコメントを書いた(http://www.ashida.info/blog/2008/07/720.html)。

読売新聞によれば、「この調査は偏差値やブランドによらない大学選びの情報提供が目的です」(東日本編12版28頁)とのこと。

しかし実体はそうではない。それはこの調査結果そのものが示している。

たとえばこの調査のレベルなら、「退学率①」(4年間・6年間)がもっとも重要な指標だが、偏差値と退学率とは最も高い相関を示している(相関0.61)。偏差値は私が昨年手作業で集めたものだが、「定員充足率」(相関0.48)よりも偏差値相関の方がはるかに高い。他の教育指標(「学生支援」「生活支援」)の自己評価は、退学率とはほとんど関係がない(苦笑)。

これは常識と一致している。受験勉強で苦労して入学した大学をわざわざ退学することはないだろう、という程度の常識だ。偏差値が高いというのは、もちろん入学後の教育の質の高さをただちには意味しなしないだろうが、入学前の努力(受験)が、入学後の学校評価を決めているという意味では、偏差値の低い大学の「教育改革」はまだなお貧弱なものにとどまっているということだ。

偏差値評価を脱却するには、入学後の学生評価を獲得することと、卒業時の成果が他の偏差値の高い大学と変わらないかそれ以上であること以外にはない。

入学後の学生評価は、この読売新聞レベルの指標では「退学率」以外には存在していない。進級率や卒業率は、専門学校のようにだれでも進級・卒業させる学校と同じような大学がいくつも出てきていることから、当てにならない(それに「退学率」は唯一教務現場以外の客観指標(納付金の納付状況という会計処理)で算出できる指標。悲しいかな教務現場の教育指標は就職率も含めて大学でも専門学校でも何一つ信じられるものがない)。

また工学系の一流大学は就職率よりも進学率の高さを誇っているのだから、就職率の高さはむしろ教育力の低さを意味している。進学者が多いところでは就職率は下がる。たしか東大の工学系の就職率は10%を切っていたと思う。

専門学校は「大学よりも就職率がいい」とわけのわからないことを言って学生を集めているが、進学者のほとんどいない専門学校の就職率と大学の就職率を比べること自体が問題。

読売新聞の「進学率」「就職率」は卒業生を分母にしているから、未履修者(留年者)が除外された数値になっているが、専門学校のような「就職希望者」分母ではない点は評価できる。

その意味でもこの読売の評価は少々厳しい評価になるが(専門学校もこの程度の評価には従うべきだ)、読者は、就職率+進学率を「卒業率」や「在籍率」の数値と併せて評価する眼を持つことが重要。この読売新聞のレベルでも卒業率を就職率や進学率とかけ算すれば、入学在籍比就職率や入学在籍比進学率が出てくる。

「在籍率(100%-退学率)」が一番甘い数値(休学者や留年者がこの概念に入っている。退学予備軍である場合が多い)。「退学率」は、大金を払って入学しているにもかかわらず、それを放棄するのが「退学」という事態なのだから、当該大学の存在そのものが否定されている度合いと考えてよい。

昨今では「経済上の理由」という退学が多いが、私の経験では、その退学学生よりも経済事情の悪い学生はいくらでも在籍し、卒業も立派にしている(苦笑)。要するに「退学」はどんな理由であっても学校に対する最もラディカルな否定評価だと思った方がいい。

「卒業率」は、単位修了したものの在籍比。「在籍」=「存在」しているだけでなく、卒業に必要な必修単位のすべてを履修した者の率を意味している。読売新聞は、卒業率を4年前の入学者を分母にして算出しているため、これも厳しい数値が出る。留年後(4年目以降)の卒業者は「卒業」分子にカウントされないからだ。これも各大学、専門学校は見倣うべきだ。その意味で「卒業率」は「在籍率」よりも当然低くなる。

したがって、「在籍率」→「卒業率」→在籍率×(就職率+進学率)という順で数値は小さくなる。この数値の減少度が少ない学校が(とりあえず)良い大学だと言える。もちろん在籍率が良いとしての話しだが。

たとえば、嘉悦大学は4年間退学率31.3%(在籍率68.7%)、卒業率57%(11.7%が留年者)、就職率67%、進学率3%となっている。就職率を入学在籍比で言えば、38.2%(57%×67%)。同じく入学在籍比進学率は1.7%(57%×3%)。

要するに入学した学生が就職できる可能性は38.2%しかない大学ということになる。入学して1年目で退学する学生が10.1%もいるから(たぶん他の大学へ再受験する学生も多いのだろう)、卒業率も在籍比就職率も落ちる。

この数値を出すには勇気のいることだが、それもあって、読売新聞はわざわざこの大学(学長は加藤寛)の教育改革への取組を紹介している。「うつ病や引きこもり」対策や「不本意入学」の「居場所作り」だ。出席率が「アップ」しているとのこと。

私はこういった取組を無意味だとは思わないが、「うつ病や引きこもり」が30%以上もいる学校などありはしないし、「不本意入学」などというのなら、偏差値50%以下の大学はほとんどの学生が「不本意入学」だろう。

30%の退学者の原因は、学生のパーソリナィや偏差値の低い学生が集まっているということが原因ではない。それはダメな大学のダメな教員達が言い出す典型的な言い訳。

要するに全ての原因を学生のせいにして、自分たちの授業や教育の問題に手を付けない言い訳に過ぎない。そもそも出席率がUPしたと言うが、いったいどんな出席率の取り方をしているのだろう。私は未だかつて正しい「出席率」の存在する大学や専門学校に出会ったことがない。加藤寛学長の奮闘を期待しているが。

同じように担任制の強化なども「82%」の大学が取り組んでいると、読売はトップ記事でおおきく取り上げているが、嘉悦大学の「うつ病や引きこもり」対策や「不本意入学」の「居場所作り」と同種の取組だ。何度も言うが私はこんな取組が大学の改革を加速するとは思えない。

そもそも「担任」はラインではない。カリキュラムや授業がくだらないことが、「居場所がない」ことの最大の理由なのに、「担任」はその相談には本質的に乗れない。担任はそのことを心理主義的に隠蔽するだけのこと。担任は苦情処理係に過ぎない。最も優秀な苦情処理係とは、商品(カリキュラムと授業)に手を付けないで顧客の苦情を収める者のことを言う。だから担任制の強化は大学でも専門学校でも教育改善と逆行するのである。

面白いデータがある。労働政策研究・研修機構の小杉礼子が文科省の「キャリア教育・職業教育特別部会」で報告した資料だ(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2009/04/17/1259019_7.pdf)。詳細の紹介はここでは省略するが、就職担当教員が多くキャリア支援の講義を行っている大学ほど未内定の学生や無活動の学生が多いという報告だ。

要するにメインのカリキュラムで人材育成に取り組もうとしない言い訳が「キャリア教育」という徒花なのである。学生との接触時間数が一番多い必修カリキュラムに手を付けずにどうやって「人材」を作るというのだ。

「うつ病や引きこもり」対策や「不本意入学」の「居場所作り」「担任制」も同じ徒花にすぎない。この調査で読売新聞が上げている「学習支援」の諸指標はほとんどがそうだ。ジャーナリズムが飛びつきそうなテーマに留まっているのである(http://www.ashida.info/blog/2009/06/post_350.html#more)。

偏差値の低い大学(や専門学校)ほどそういった取組に励んでいる。「偏差値が低い」「それ以前にうつ病だ」と学生を嘆く前に、自分たちの教育偏差値の低さを嘆くべきなのだ。(この項続く)→にほんブログ村

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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