コミュニケーション教育論超番外編(3)― マイレージ制はアテンダントの「接遇」能力を退化させている。 2009年06月12日
空港アテンダント「コミュニケーション」問題続編(この記事は、前編http://www.ashida.info/blog/2009/06/post_357.html#moreに続いている)。
私が飛行機の最後尾席を好む理由は、空き席が多いというだけではなく、その他にもある。
スーツの上着が空き席の隣席の背もたれにかけることができるからだ。飛行機内の収納ボックスに入れたり、座席にたたんで置くよりははるかにしわになりづらい。
この間も(いつものように)そうしていたら、キャビンアテンダントが、にこやかに寄ってきて、「お客様、上着を座席の方にお移し願えませんか?」と言われた。
「何で、この路線は月に二回同じ便に乗っているけれども、そんなこと言われたの初めてだよ。スーツに皺作りたくないのよ、駄目かな。ルールでそうなの? マニュアルはどうなっている? マニュアルにあるとしたら、他の便のアテンダントは守ってないで、あなたがきちんと仕事をしてるってこと、どちらが正しいの?」
「しばらくお待ちください」。
後ろにさがって、先輩のアテンダントに聞きに行ったようだ。緊張の瞬間だった。
4,5分はかかった(たぶん、この時間のかかり方は私がVIP客かどうかのデータ参照している時間が入っている)。戻ってきた。
「お客様、ここは最後尾席でもございますので、どうぞこのままお使いください。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」。
「あっ、そう。ありがとうございます。勝手なことしてごめんなさいね」で終わった。
このアテンダントの対応問題は2点ある。
背もたれには上着を掛けさせないようにすること。後部座席の人が迷惑するからだ(もちろん、アクシデントが起こった場合、飛散しやすいということもあるかもしれないが、それなら空き席の臨席に服をたたんで置いている場合の方がもっと飛散しやすい)。
その教え(マニュアル)を守ってそのまま後部座席のない座席に座っている私を注意したこと。安易だ。
もう一つは、四方周りがほとんど空席だらけのロック状態の最後部座席に座っている客なのだから、「素人客ではない」という判断ができていない。
しかも座席にはTUMIの10万円以上もするキャリーバック(キャビンアテンダントが好きなRIMOWA http://www.rakuten.ne.jp/gold/ee-shopping/brand/rimowa.htmlよりも高い!)を通路側の座席に置いてしかも礼儀正しくシートベルトまでバッグに巻いているお客を、どう判断するかの能力がない。キャリーバッグのような大きなものでもどうしても座席に置きたい場合は、シートベルトをすればなんとかなるというのは、別の搭乗時の同じ便のキャビンアテンダントによるアドバイスだ。
その上、私が通路側の背もたれにかけていたスーツはロロピアーナのスーツ。ロロピアーナくらい、生地の肌合いと折り目の柄で見分けろよ、と言いたくもなる。
このキャビンアテンダントは、顧客をトータルに判断できない。一つ一つのマニュアルに沿って動いているだけだ。
「接遇」仕事の代表格の航空会社キャビンアテンダントサービスがこんなにもダメになったのは理由がある。それは航空会社のマイレージプレミアム会員制。顧客をリピータ度において差別的に扱う制度だ。年間利用度が50回、100回を超えれば、かなり優待的な扱いを受ける(わがままができる)。隣席を空けておけ(他の人を座らせるな)とかいうように。
アテンダントは、顧客=座席データベースに基づいて、どこにプレミアム会員が座っているかを心得ている。このリピータ主義がいけない。
どんな問題が起こるか。たとえば出張が多いのは(大概の場合)トップの社長よりも専務や部長などの中間管理職。プレミアムポイントは中間管理職の方が利用度が高いため、「社長」と「部長」が飛行機に同乗した場合、リピータ主義で行くとアテンダントは「部長」に先に挨拶してしまうことになる。とんまなアテンダントだと必ず侵してしまう失敗だ。銀座のママさんであれば、そんな失敗は絶対しない。
よほど有名な(顔の知れた)「社長」や芸能人、政治家などであれば、プレミアムポイントと関係なくVIP扱いされるが、中途半端なトップだと「リピータ」部長の方が優遇されることになる。データベース情報が逆に仇になるわけだ。「社長」の前で「部長」が優遇されたりしたら、「部長」は立場がない。
この問題は、データベースの情報を拡大するだけでは解決しない。それは人の記憶やデータベースの情報量に限界があるからではない。データベース(や記憶力)を拡大すればするほど、アテンダントはデータベースに頼るようになり、顧客に直接に向かう態度を失ってしまう。私が、予約が大半ロックされている後部座席に陸の孤島の住民のように座っている意味を自分で解釈する能力を失ってしまう。
一方でリピータ度が高くても「成り金」のようなリピータには「愛想良く」振る舞いながらも心の底ではバカ扱いしている。あるいは溜まったマイルだけで「ビジネスクラス」席に乗る顧客をバカにしている。
結局、顧客指標が形式化しているために、形式的に過剰なサービスか、形式的なアンチサービス(=差別)が横行しているだけなのだ。
もともとは顧客の利用喚起の仕組みであった「マイレージ」制も含めた「プレミア」会員制が、いつのまにか顧客へのサービスの形式的な階層化に繋がっている。これではサービスの先兵であるキャビンアテンダントの「接遇」能力は退化するばかり。
搭乗手続前カウンタのアルバイトアテンダントなどは、いちいちカード(のプレミアム度マーク)を見ながら顧客対応する始末。本末転倒のリピータ主義が現在の航空会社の「接遇」偏差値の低さを形作っている。「おいおい」と若い娘さんたちに言いたくもなる。
その意味でも「7 A」席を確保してくれた、かのアテンダント(http://www.ashida.info/blog/2009/06/post_357.html#more)は、マイレージ制と無縁な、本来のサービスを私に提供してくれたと言える。「顧客」とはどんな場合にでも無条件に「顧客である」ことをよくわきまえているのだ。
(Version 1.0)
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