【第二版】コミュニケーション教育論超番外編(1) ― トヨタの新型プリウスに試乗してきた。 2009年06月07日
昨日(5日)は、世田谷のディーラーを出た後(http://www.ashida.info/blog/2009/06/post_353.html#more)、そのまま環状8号を自宅に向かって北上。「環8船橋」交差点を越えて、成城警察署を超えて、ユニクロを超えてと、自宅散歩圏内に入ってくると、トヨタの新型プリウスが展示してあるのが目にとまった。「試乗会実施中」と。成城警察署とユニクロの間にある「東京トヨペット成城店」(http://www.tokyo-toyopet.co.jp/shop/shop.html?shop=061)だ。
通り過ぎてから、ちょっと乗ってみるか、と成城警察の後ろ側をUターンして試乗することにした。全くの気まぐれ。
トヨタ系のディーラーはレクサスGS430に試乗して以来久しぶりだ(http://www.ashida.info/blog/2005/09/hamaenco_5_76.html)。
ここは、平日にもかかわらず、営業が歩道近くまで出てきて立っている。日本車ディーラーの面目躍如か。私が侵入しようとすると、直ちに誘導。停めた段階で車中から「プリウス乗れますか?」と聞くと「ええ、お乗りいただけます」との返事。若い。「実習生」と書いたプレートを胸に付けていた。
車を停め、エンジンを止めて出ようとしたら、「鍵はお付けになったままにして下さい」とくる。「わかりました」とその場は素直に従う(どこへ動かす気だよ、と心の中では動揺が走ったが)。
こちらへどうぞ、と同伴。ただいまから準備しますので、しばらくお待ち下さい。「しばらく」って何分だよ、と思いながらもここは我慢(苦笑)。「わかりました」と返答。しばらくして来たのは、プリウスではなくて、年齢不詳の女子受け付け。何をお飲みになりますか? と飲み物類を書いたB5サイズくらいの飲み物メニューを見せつけられる。10種類以上あったかな。手作りの紙メニューがあるのと種類が多いのがトヨタぽっい。私はいきなり見せつけられてびっくりしたが、「お茶でいい」と回答。
ところが、座って早速メニューを聞きに来た割には、そのお茶が出てくるのが遅かった。3分経っても出てこない。これじゃあ、試乗に出る前には飲めない。案の定、試乗担当の先の「実習生」と「お茶」が当時に登場した。
仕方がないから、私はその「実習生」に新型プリウスのグレードについて聞いておこうと思った。新聞チラシをいくら見ても、グレードの違いがわからなかったからだ。グレードは大分類で「L」(2050000円)、「S」(2200000円)、「G」(2450000円)とある。「L」は何も付いていない。最初からのナビ内蔵型(システム一体型)を買おうとしたら、なぜか3800000円にまで跳ね上がる。私の見積もり書にはそうなっている(後でわかる)。ところが、今回の景気対策で税金などの諸経費がほとんどいらなくなるから、車代の金額だけで買える感じだ。2年間この免除が続くらしい。クラウンなんてとんまなクルマ買うくらいだったら、このプリウスを3800000円出して買った方が楽しいかもしれない。特にインパネ周りは楽しそうだ。
さて、試乗だ。
「実習生」の中村君は私が乗り込んだ途端、色々と説明し始めた。特にインパネの液晶表示の画面切替には必ず触れるように言われているみたいだ。楽しそうだからだろう。
しかし中村君、初めての試乗のお客様がドライバー席に乗り込んだときには、お客様が何に関心をもつのかをまずじっくり観察しないと。私のような特殊なクルマに乗ってるユーザーがインパネ表示で驚くわけないでしょ。すでに来場した段階から客さだめをし、そんな客がプリウスの何に関心を持つのかを見定めてから話しをし始めないとダメよ。営業は、「説明」してはダメ。顧客の意見を引き出さないと。
たぶん、中村君は誰が乗っても言われたとおり同じ「説明」をしているのだろう。先輩も悪いのかもしれない。「これを見せれば客は喜ぶから」なんていう経験主義的な先輩がいるのかもしれない。でもそんな同じ説明を1日に何回もやるの、くだらない仕事じゃない。営業は、色んなお客様(色んな人間)に出会えるというのが、一番楽しいのよ。営業が得意という人は、商品に惚れ込むというよりは、何よりも「人間」好きなのよ。だからお客さんの一挙手一投足に配慮しないと。
営業の「説明」とは、聞かれたことに正しく応えるということであって、自分から「説明」することじゃない。自分の知っていることを説明するのは誰でもできる。でも聞かれたことに応えるというのは難しい。120%の能力を要求されるのだから。顧客はその超過した「20%」分の対応を見ようとしているのよ。20点減点。
私の試乗のポイントは、いつも営業所から大きな通りへ出るときの歩道と道路との段差。このわずか3センチから5センチ足らずの段差をその車のサスペンションとタイヤのセッティングがどんな感じで降りるかだ(時速3キロくらい)。
環状8号へガタンとゆっくり踏み出したときの感じが良くなかった。不要な震動があるしその収束が遅い。「なんだぁ。こりゃ」と一言。「どこですか、どこが悪いんですか、今の?」と新卒のフレッシュマン「実習生」中村君。「いやーたぶん言ってもわからないだろうから、後で」と私。
何となく新型プリウスが半分はわかったような気がした。環状8号を北上、千歳台交差点で左折してUターン。通行量の少ない千歳台の幅広の直線路が成城店の試乗コースらしい。
直線を走っていても、微妙な揺れがある。こう私が言うのは、自分の車(の趣味や傾向)に比較してと言うよりは、先代プリウス(二台目プリウス)に比較してのことだ。先代プリウスは足回りがしっかりしていた。ロール(左右の浮き沈み)もピッチング(前後の浮き沈み)も良く押さえていた。いい車だと思った。
それに比べると、この新型プリウス、足回りが良くない。そんなことを独り言のようにぶつぶつ言いつづけていたら、「実習生」の中村君、「アクセルを踏んで下さい。パワーはありますよ」と何度も言う。たぶん試乗客はやみくもにアクセルを踏んで「燃費がいいのに、よく走るねぇ」とか言いながら「満足度が高い」のかもしれない。中村君、甘いですよ。
でも「こんな車で、加速感を味わって何になるのよ」と私。「この車、低速で直進走行していても複雑な揺れがあるね。昔のトヨタ車に戻ったみたいだよ」。若い中村君は「そうですか」と言わずに「そうなんですか」なんて言い始めた。
「君、新卒?」
「そうです」。
「大学は?」
「K大学です。メーカー本社から送られてきて実習中です」
「なんでまた名門K大学出て、メーカーに? メーカーは給料安いよ」
「車の設計がしたいと思って。車が大好きなんです」
「でもトヨタって、ホンダと違って、車好きは採用しないでしょ。マーケティングの邪魔になるとか言って。確かに車好きは自分の趣向に合わせることばかりに走って、顧客重視にならないんだよ。
営業もクルマ好きの(クルマに詳しい)営業はあまり〈売る〉ことができない。『良い』クルマは売れるけど、『悪い』クルマを売ることができない。でも営業って、悪いクルマをいかに売るかでしょ。〈売る〉って知識が邪魔するときがあるのよ。」
「芦田さんはトヨタの車どう思いますか?」
「トヨタはさ、個々のパーツの精度や個々のテーマの精度は世界一だけど、その全体としての仕上がりは三流なのよ。乗ったとき、作り手が何を作りたかったのか、よくわからない。何を味わって欲しいのかわからない。解釈しづらい車が多い。
この車も余人近づきがたい精度とコストで作っているんだろうけれども、何にも面白くない。くねくねと曲がった世田谷の田舎道で、こんな足回りの車走らせて何が楽しいのよ。フロントの軽いポルシェの方が時速20キロ以下でも楽しいよ」。
「そうですか。僕はGT-Rが好きだったんですよ。あんな車が作りたかったんです」
「あっ、そう。いいよね。特に34GT-Rは最高だったよね。僕も2年間乗っていたけど、バカでも安心して飛ばせるいいクルマだった。中古になっても値段下がらないし。昨年出たGT-Rは最悪だけど。でもだったら、何でトヨタに入ったのよ。GT-Rなんて最高に反トヨタ的なクルマじゃない?」
「やっぱり性能+エコ(環境)に惹かれたんですよ」
「それは堕落だなぁ(笑)。昔さ、西丸震也って言う農水省のお役人がいてさ、60年代後半から盛んに後30年で人間の寿命は50歳になるとか言って騒いでいたのよ。東大助手の宇井純も同類かな。そんなことにならなかったけど(苦笑)。でも彼らの立場からすれば、俺らが騒いだから何とかなったんだよ、と言うのでしょうね。まるで核抑止論みたいに。環境問題はその意味では環境問題現象なのよ」
「あなたクルマの将来をどう考えている?」
「(…)」
「クルマ(乗用車)の本質って、移動の手段じゃないと思わない? たぶんクルマ乗る連中って、言葉の本質的な意味でバカだと思う。車の移動って、自室、自宅の延長なのよ。だから移動なんかしていない。自室が拡大しただけ。〈内部〉が拡大しただけ。
それが証拠に会社で部長や社長にへこへこしている人も車に乗ると急に態度がでかくなって、世界中を敵に回したような言葉を(聞こえない)路上に向かってはき続けているでしょ。それは北海道行っても沖縄行っても同じ。
その上、高級カーオーディオなんか付けて、霧ヶ峰高原を走っても(ウインドウを閉め切って)ZARDなんか聞いたりしちゃって、自然の音や空気を味わおうとしない。霧ヶ峰高原の峠でタイヤなんか試しちゃっている。ZARDは論外として、バッハのバイオリン協奏曲より、高原の鳥のさえずりの方が美しいに決まってるじゃないか。エゴが拡大しているだけなのよ。クルマ好きは本当は〈外部〉に出たくない連中なのよ。だからこそ〈渋滞〉にも耐えられる。おかしいでしょ。これはどう考えても『バカ』。
でもこの種のエゴの拡大って近代性の本質でしょ。クルマの存在は近代バカの本質と一緒なのよ。知らない外国に行って、デニーズやマクドナルド見つけて安心するみたいな。
だからクルマ移動が、寝ていても行きたいところへ自分を運んでくれるという自動制御の固まりのようになるのは目に見えてるような気がする。
その意味で環境問題なんて、クルマの本質じゃないのよ。スポーツカーというのも実は高速走行での安定性(直進であれ、コーナリングであれ)が、自動制御技術の極点だから、重要なんですよ。GT-Rがそうでしょ。アクセルonでリアが滑り始めると、前輪にトルクがかかり始める。その瞬間ノーズがぐっとクルマを前に引っ張り出して、テールの滑りが収束する。楽しいよね。スポーツカー技術の極点は結局無人走行(ドライバーなしの走行)になる。逆説的だよね。あなたがトヨタに戻って数十年後に作り出すのはドライバー無人車だと思うよ」
「そんなものですかね」
「そうだと思う。でもこのクルマ、本当に信号で止まるとエンジンまで自動的に止まってるよね。すごいよね。無音だし。どこでエンジンが回ってどこで切れてんのか、さっぱりわからない。無音で動き始め、無音で止まる。これは朝帰りの浮気親父にちょうどいいかもしれない。でもその分、減速はほとんどブレーキ頼り、というのが気にくわないよなぁ」。
「というと」
「だって、車の運転が楽しいのは、アクセルでスピードをコントロールするところでしょ。アクセルonで加速する、offで減速する。しかも数ミリの足指先の加減でスピードをコントロールするというのが一番楽しいんですよ」
「ブレーキはよく効くようになったと言われるんですけどね」
「そうだよね。これは二代目よりも良くなっていると思う」
「でもね。私が言いたいのは、そんなことではない。日産のZ(やトヨタのスープラ)なんかが、市街地で飛ばして車間の狭いところ割り込んだりするよね。割り込んだ途端に急ブレーキをかけたら(たとえ追い越せても)負けなのよ」。
「何でですか?」
「急ブレーキをかけるというのはそのクルマがスポーツカーのエンジンのくせに回転落ちが悪いということ。エンブレが効かない。ローギアに落ちない。回りっきりのエンジン。つまり三流のエンジンなのよ。
さすがにポルシェやフェラーリは街中で飛ばしても、そんなことはない。ブレーキランプが付かないままきれいに割り込んでくる(苦笑)。敵ながらあっぱれ、という感じ。出来の悪いエンジンだと回転数が下がらないからローギアに入るのにも時間がかかり、結局慌ててブレーキを踏まざるを得なくなる。格好悪い。無理矢理割り込んで赤ランプ。私は追突しそうになっても絶対にブレーキは踏まない(笑)。
私にはそのブレーキランプが『助けてー(私バカでーす)』という悲鳴にしか聞こえない。良いエンジンは回転が上がる音も官能的だけど、回転が下がるときの音の方が私は好き。クーンというようにエンジン音が下がっていく感じがまた最高なんですよ。ハイブリッドは、ブレーキに頼る分、運転は楽しくないよね。それは、同乗者にも不快なはず。ブレーキに頼る制動は安全運転という意味でも良くないよ。いくらプリウスがブレーキの熱で電力を稼いでも」。
「芦田さん、クルマ好きそうですね」
「そうなのよ。私自身が『近代バカ』なのよ(苦笑)」
てな感じで、15分前後の短い試乗は終わった。結論はプリウスの足回りは、先代プリウスよりもよくないというものだった。先代の方がはるかにきびきびしていた。WebCG(http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/i0000021303.html)で絶賛されていたが、そんなことはない。私のインプレッションの方が正しい(笑)。
戻ってきたら、見積書を用意して課長代理の田中さんがお待ちになっていた。その田中さんに、早速「足回りが先代より悪い。無用な揺れが前後左右にある。低速時でもひどい」と言うと、さすがに年季の入った課長代理。「そうお感じですか。先代よりも柔らかくなってるんですよ」とのこと。「やっぱりそうですか。乗り心地を重視とか言うんでしょうけど、乗り心地って、柔らかくすればいいというものでもないでしょ」「そうですねぇ」「でもあの不快感は動体剛性が悪いのかもしれない。どうなんですかね」。「うーん。いずれにしても、足回りが柔らかくなっているのは確かです」「これだと私の家内は酔っちゃいますね」
田中さんによれば、ミシュランのタイヤ(215/45)のせいかもしれないとも言われていたが、真偽はわからない。
足回りはTRDのダンパー+コイルセットを99750円で売っているようだ(ディーラーオプション)。車高も1センチ落ちる。買うなら、99750円の出費を覚悟するしかない。
この課長代理さん、あっさりしているところが好印象。変に営業、営業していない。それに顧客の言うことを否定するな、という「営業の原則」を守っている(苦笑)。買うんだったら、この田中さんから買いましょう。だって「実習生の中村君はいつ居なくなるかわからないものね」と言ったら、中村君は笑っていた。でも今、頼んでも納車は11月になるらしい。
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※先ほど(6月7日お昼の12:10頃)、その田中さんから電話(私の携帯に)がありました。一瞬、ブログ読まれたかとどきっとしましたが、「いかがですか」とのこと。あれー、私の来店を冷やかしとは思わず、本気なんだ、と私も驚きました。さすがにトヨタの営業マン。また1日おいて、2日後にかけてくるというのが憎い。でも日曜日のお昼時、というのは10点減点かな(苦笑)。「またじっくり試乗させてよ」と言っておきました。クルマのような部品点数の多い工業品を試乗もせず、自動車雑誌だけを読んで買う人の気がしれない。現に昨年出たGT-Rを予約して買った人は散々でしょ。「バカ」の中にも更にバカがいるんですよ、世の中には。でもそれが「人間」。中村君、しっかり勉強して素敵なクルマを作ってください。次回行くときは、もうトヨタに戻ってるかな。
(Version 12.1)
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いつもながら、大変勉強になります。
ちなみに、トヨタのヴィッツRSってのはどうなのでしょうか?
また、お会いしましょう。