【第三版】ファイル管理の決定版「Dropbox」を知っていますか ― RICHOの戦略商品「quanp」はなぜダメな商品なのか 2009年05月03日
外出先で使うノートパソコンと自宅や会社でのパソコンとのデータをどう管理するかはいつも悩みの種だ。
この場合の「管理」というのは、データの重複と更新を管理するということだ。直前まで手直しを続けたデータなどは、メインPCのデータの方が古くなって、出先のノートパソコンのデータの方が新しいということも多い(私はプレゼンの直前まで原稿を直し続けるから余計にそんなことが起こる)。そしてその元データ(会社内、自宅内)の更新を忘れる場合の方がほとんど。実は出先で使うノートパソコンの方に最新のデータが存在している。ファイルを〈作るパソコン〉と〈使うパソコン〉とは得てして違うものなのだ。結局2つのパソコンのHDDに一つの微妙な差異を有したデータを持つことが混乱の元になる。
最近では、大容量のUSBメモリが格安で手に入るから(16GBでも3000円前後で手に入る)、そこにデータを一元化して持ち歩くというのが物理的には最善の方法だろう。16GBもあれば、ワード、エクセル、パワポなど仕事で使うデータはほとんど全て持ち歩ける。この場合には、PCの(会社の、あるいは自宅の)HDD、ノートパソコンのHDDには絶対にデータを落とさないというルールを死守する必要がある。落とすのはかならず一つの同一のUSBメモリ。しかしそれさえ守れば、いつでもどこでもデータは最新の状態で保たれる。
しかし、この方法だといちいちUSBメモリを持ち歩くのが面倒くさい。持ち歩くのが面倒くさいばかりではなく、一々抜き差しするのが面倒だ。それにそもそもが二次記憶装置なので、データ容量に限界がある。容量の多い外部HDDを持ち歩くのも格好が悪い。しかもそのHDDがぶっとぶとすべてのデータが消えることになる。そんなことできるわけがない。
そこで次にやりたくなるのが、Gmailによるファイル管理だ。Gmailの添付ファイル機能を使って、自分に添付メールする。フォルダをそれ用に作って分類すれば、Gmail上にファイルエクスプローラーが存在するかのような使い方が出来る。最近のGmailは無料で15GB以上の容量が確保されているから、下手なストレージサービスよりも経済的。
Gmailをそのようなファイル管理で使っている人は多い。が、これにも問題がある。添付ファイルは、あくまでも添付ファイル。送った側のHDDにも送られた側のHDDにも、それらのデータはそれらのHDDに二重に残ることになる(自分に送った場合には送られたサーバーに)。ファイルを更新する度に、データにずれが生じる。毎回添付して以前のデータを消しつつ管理しなければ、データ管理できない。そんな面倒くさいことは長続きしない。Gmailでのファイル管理の最大の問題は、Gmailに直接データを書き込めないことだ。データを一元管理できない。
それならば、USBメモリ派の物理的な一元化の方がまだまし。絶対にデータは二重化しない。
後は、オンラインストレージサービスを使うかどうかだ。私はWEBPOCKET (http://www.ashida.info/blog/2003/09/hamaenco_3_99.html)というサービスを使っていたが、5年ほど前には使わなくなっていった。高速回線がまだ一般化していなかったし、それ専用のアプリケーションを立ち上げるのが面倒くさかったからである。かならずファイルのアップロードという過程が存在する。となれば、Gmailと変わらない。それゆえ、有料のWEBPOCKETサービスは昨年で終了している(http://www.webpocket.net/information.html)。今、この記事を書くためにリンクを張ろうとして初めて気付いた。さもあらん。
最近のオンラインストレージでは、RICHOのquanp(http://www.quanp.com/about/)が有名だ。このquanpの最大の特長は、ワード、エクセル、パワポの画面にVBAで作ったかのようなアイコンが付き、そのボタンをクリックすることでそのままファイルをUPすることが出来る。いちどHDDに保存する必要がない分、データの管理は容易になるが、UPしながら、そのファイルを保存しないというのも変な感覚だ。しかしHDDに保存したら、一元化にはならない。
しかしデータが手元に一切ないというのも不安だ。バックアップの問題が生じる。ストレージが破綻するかサービスがなくなったら終わりだからだ(そのことで本当にファイルがなくなるかどうかはほとんど心配する必要のないことだが)。したがって定期的にバックアップする必要がある。それも面倒くさい。
しかし、RICHOのquanpの最大の問題はそこにはない。あれだけユーザーインターフェイスに凝っているのに、肝心のファイル転送管理に問題がある。フォルダ構造をそのままUPできないのだ。たとえば、ファイルをいくつか有した既存のフォルダをドラッグ&ドロップでアップロードする場合、一挙にフォルダ内のファイルをアップロードできるが、フォルダ構造そのものはアップできない。フォルダもフォルダ名もフォルダ構造もそこでは解体してしまう。
こんなバカな事はない。quanpには「レイヤー」と「プレイス」というファイルの構造化機能があるが、これはquanpの勝手なファイル構造であって、既存のファイルエクスプローラーとは何の関係もない。あらたにquanp用にファイル管理をし直さなければならない。
新規に作るデータをquanpで管理していくのにはいいのかもしれないが、従来のデータともどもquanpで一元化するのは難しい。そもそも何が新規で何が古いデータなのか、截然とした区別など出来ないだろう。古いデータを取り出して、新たに更新したデータをどう構造化すべきなのか、使い始めると次々と難問が出てくる。下手な検索機能を付ける前に、フォルダ構造をそのままUPする機能を付けるべきだったのだ。
※quanpが、フォルダ構造を再現できないのは、担当者からの確認済み。今月5月1日の私の質問メールについて、以下の返答があった。「お問い合わせいただき誠にありがとうございます。quanpデスク担当 王金紅(オウキンコウ)と申します。お問い合わせいただきました件につきましてご不便をお掛けいたしまして誠に申し訳ございませんがquanpではフォルダ構造は反映されませんためフォルダ構造が保持されるようなアップロードはできかねますこと何卒ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。quanpをご利用いただいております皆様にはより快適にお使いいただけますよう今後さらなる改善に努めてまいります。ご不便をお掛けいたしまして誠に申し訳ございませんが何卒よろしくお願い致します」。
そこで私は笑ってしまった。このquanpがRICHOの社内会議で「商品化」のゴーが出る過程が思わず見えてしまったからだ。たぶん、幹部たちは、オンラインストレージなんて使う気もない連中。インターフェイス中心の社内プレゼンに幹部たちも騙されてしまったのだろう。そもそもファイルをフォルダ管理していない人が今の世の中どこにいるというのだ。ありえもしない前提から、もっともそうな答えを見出す「認知主義的車輪」(http://www.ashida.info/blog/2009/05/post_345.html#more)と同じ結論を導き出したのが、このRICHOのquanpという商品。
事業室室長の生方秀直は、「quanpは、リコーの遺伝子を、現在の世界において、形にしたもの」と言っているが(http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2008/12/26/21972.html)、エクスプローラーのフォルダ構造が再現できないストレージが、どうリコーの「遺伝子」なのか。「リコーの遺伝子」というのは、これほどまでに劣化したものなのか。たぶん、Webpocketよりも寿命は短いに違いない。中途半端なユーザーが付く前に早く退却すべきだ。
そこで半年前から使い始めているのが、Dropbox(https://www.getdropbox.com/)。これは、たぶん究極のオンラインストレージだ。
このサービスの最大の特長は、ファイルエクスプローラのファイル管理のままにストレージサービスが受けられるということだ。
一度サーバーにアクセスしてアプリをダウンロードすると、フォルダが自分のコンピュータの中に出来上がる。このフォルダはどこにでも置くことが出来る。
※こんな感じでフォルダが出来る。このフォルダは、通常のエクスプローラフォルダと同じように扱うことが出来る。しかも仮想上のフォルダではなく、実際にHDD内に記録できるので、ネットに繋がらないところでも直前のデータを利用できる。
データを実際にUPするには、アカウントを設定する必要があるが、その場合も2GBまでは無料で使用できる。
データの「UP」と言ったが、実際にはそのような「操作」を行う必要はない。データを出来上がったフォルダに保存すればそれはストレージに保存したことを直ちに意味する。つまり通常のファイル管理のようにして、ファイルの作成、ファイルの更新、フォルダ構造化を、このDropboxで出来上がったフォルダ内で行えばいいだけのこと。
2台目以降のパソコン(ノートパソコンなど)にも同じように(同じアカウントで)アプリをダウンしてそのDropboxフォルダを作っておけば、すべての文書はそのフォルダの中で同期する。私の場合は、自宅のPCとモバイルパソコン双方ともデスクトップに、このDropboxフォルダを置いている。
これらのフォルダは、仮想上のフォルダではなく、HDD内に実際に記録されるので、ネットに接続していなくても直前のデータはいつも手元に存在していることになる。
要するに、Dropboxフォルダに文書を集約するだけで、バックアップも含めたファイルの一元管理が出来る。
もちろん従来のフォルダ構造も同期する。従来作ったフォルダとフォルダ内ファイルもそのままドラッグ&ドロップすれば、ただちに同期する。つまり一つのサーバー(ストレージ)によって同時に二つ以上のパソコン=HDDにたえずファイルが同期される。ネットに繋がったところであれば(今やネットに繋がらないところはほとんどないだろう)、USBメモリの物理的な一元化を超えた便利さを享受できる。
Dropboxがファイルエクスプローラと完全に対応してデータを一元化できるメリットは他にもある。それはデータの二重のバックアップの利便性にも寄与している。
私は、バックアップは、RealSync(http://www.takenet.or.jp/~ryuuji/realsync/)というフリーウエアを使っているが、Dropboxで出来上がったフォルダを、このRealSyncによってパソコンの主記憶装置以外のたとえば、SDカード内のフォルダに同期させておけば、たえず、そのDropboxフォルダと同じ文書をさらにバックアップすることになる。
つまり同期を取っているパソコン内のHDDと同じデータ(同じフォルダ構造)が存在し続けることになる。少なくとも最重要なデータとか最新データ部分は二重にバックアップ化できる。Dropboxのサービス+PCのHDDが同時に破綻しても、いつでも安心してデータを扱うことが出来る。
Dropboxを使えば、一元化の根本思想は分散管理でもある、というのを地でいく文書管理が出来る。2GBまでは無料だが、しかし50GBまで使っても年間約1万円。携帯電話一ヶ月分にも満たないコストだ。複数のパソコンにまたがるデータ管理の決定版のようなサービスがDropbox。ぜひ、一度試して下さい。
(Version 9.0)
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ああ、やっぱりとっくにご存じだったのですね!
DropBox、本当に便利ですよね。バックグラウンドで勝手にオンライン上にバックアップをとってくれるし、複数のコンピュータを使っていても、勝手に同期してくれるし、ネットにつながっていなくても、もちろん自分の手元のHDDにデータが保存されているし、そして、自分のコンピュータ以外のコンピュータから、オンライン上のフォルダにアクセスすることもできるし。
私は3ヶ月前から使っていますが、本当に楽ちんです。まさしく究極のオンラインストレージ、芦田さんの言うとおり。
私は今、自宅のデスクトップ、いつも職場で使っているノート、妻のノート、そしてほとんど使っていないもう一台のノートにMy DropBoxを作って、同期しています(もちろん、芦田さんの書いているように同期をとるためには何も特別な操作はいりません。コンピュータを立ち上げるだけのことです)。もういつHDがクラッシュしてもいいや~。
これよりも便利なサービスって考えられるかな? しかも無料。私は1万円払って容量を50GBまで増やしています。
で、質問なんですが、Dropboxで出来上がったフォルダをRealSyncによってパソコンのHDD内のどこかのフォルダに同期させておくって言うのは、どういうメリットがあるのでしょうか。同じHDDの中に複製ができるってことだと思うけど。コンピュータのこと、分かっているようで分かっていないので教えて下さい。
そうですね。少し誤解を与える書き方をしてしまいました。Reaksyncで私がバックアップを取っているのは、HDD内というよりも、外部記憶装置にです。
現在、私は自宅内のPCも、ノートパソコンも別々の8GBのSDカードに、同期を取っています。これならバックアップとしてはほぼ完璧でしょう。そういう意味です。誤解を与えないように本文を書き換えておきます。ゴメンナサイ。
お返事ありがとうございました。
理解しました。
完璧なやり方ですね。
私も早速やります。RealSyncですね!
ハードディスクは必ず壊れます。こんな大切なことに気づくのに、私は2度、痛い思いをしました。
芦田さん、ありがとう!