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 専門学校4年制カリキュラムはどこまで可能か(専門学校情報系はなぜ衰退するのか) ― 「基本情報」病とオブジェクト指向プログラミングカリキュラム開発の試み 2009年02月01日

ここ一年、文部科学省の委託事業を受けて、4年制のオブジェクト指向プログラミングカリキュラムを作ってきた。科目編成のみならず、4年間の全ての科目のシラバス、シラバスのみならず90分単位のコマシラバスまでも書き下ろしで作り、やっと今週末完成に至る。おそらく(少なくとも)国内では最初の仕事になるだろう。専門学校はもちろん大学でもまだ存在していない、企業内教育としても存在していない、網羅的で体系的なカリキュラムが出来上がったと自負している。今日は一晩かけてその成果報告書の冒頭の「御挨拶」文を書き上げました。ここにこっそりと公開します。なお、この4年制カリキュラムの発表については、今月2月20日14:00より、市ヶ谷の私学会館で発表予定です。関心のある方はぜひご参加下さい。

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専門学校情報系の学生募集は、低迷している。世の中が「情報化社会」と騒がれ、インターネットなしには、企業活動はもちろんのこと、人々の暮らしさえ成り立たないほどに普及し、これからも拡大し続けるであろう分野にもかかわらず、である。

なぜ、ここまで追い風が吹いているにもかかわらず、低迷するのか。原因ははっきりしている。まともな「IT技術者」を作ってこなかったからだ。

なぜ、まともな「IT技術者」を作ってこなかったのか。その理由もはっきりしている。ほとんどの専門学校は、通産省時代にまで遡る今の「基本情報技術者」資格にとらわれているからだ。

取りたてて「基本情報」を前面化しない学校でも、カリキュラムを見ると科目構成は「基本情報」に色濃く染まっている。前面化しない割には、「目指す資格」は「基本情報」を真っ先に「学校案内パンフレット」などに謳っている。

なぜ、「基本情報」は「IT技術者」を作れないのか。「基本情報」は今となっては大学の文系人材をIT業界に引き入れるためのIT教養試験のようなものに成り下がっている(成り下がっている、というよりは、文系の取り込みこそが「基本情報」の目的)。したがって、この資格を有することと、一人のIT人材を作ることとは何の関係もない。依然として、大切なことは「企業に入ってから教えるから」という観点でできているのが「基本情報」。まさに大学的な教養主義試験なのである。

たしかに、ITの勉強を職業人材的な観点から勉強してこなかった大学生にはそれでよいのかもしれない。しかし専門学校のIT教育の成果が「基本情報」であるわけがない。専門学校のIT教育は、元からITの専門教育、IT人材教育なのだから、その教育目標は、「プログラマー」であったり、「ネットワーク技術者」であったり、そういった技術専門性から成長したシステムエンジニア教育でなければならない。

「基本情報」は基本的に「あれもこれも」型の基礎教養主義(悪く言えば、バラバラの網羅主義)からできているために、どんな専門性の教育目標にもならない。全てが中途半端な受験型の内容になっている。

企業の人事部が、口を開けば「『基本情報』くらいは取っておいて欲しい」というのは、「基本情報」を合格するくらいの努力はしておいて欲しいという意味である。それは専門性の評価と言うよりは、勉強の努力ができている、勉強の仕方はわかっているというある種のパーソナリティ評価なのである。

企業が、そういったパーソナリティ評価を前面化するのは、専門学校も含めた高等教育が職業的な人材を作ってこなかったことに起因している。それは高等教育への期待のあらわれではなくて、高等教育の人材教育へのあきらめの結果に過ぎない。「せめて勉強の仕方くらいは教えておいて欲しい」というものである。

しかし、パーソナリティ教育(しつけ教育も含めた)という意味でなら、大学の(無意識な)「キャンパスライフ」の方が専門学校よりは遙かに優れている。そもそも専門学校には「キャンパス」自体がないのだから。その上、「受験勉強」=抽象的な勉強の好きな大学生と「パーソナリティ」にしか関心がない人事部を相手にして専門学校生が勝てるわけがない。

専門学校生が苦手なフィールドに入り込んでその上結果が出せないままでいるのが、専門学校情報系教育の現状だったと言える。だから専門学校情報系は衰退しているのである。

致命的なのは、資格教育を「目指さない」と公言している学校でさえもそのカリキュラムの実体は「あれもこれも」型の科目配置になっているということだ。科目の80%はC言語もやり、JAVAもやり、OSの勉強も、ネットワークの勉強も、データベースの勉強もやり、それ以外のわずかな科目群の違いによって、「情報処理科」「ネットワーク科」…などの科が出来上がっている。資格は目指さないまでもこれらの「あれもこれも」型の科目配置も「基本情報」現象の一つである。

これでは、どの科を卒業しても、まともなプログラミングはできない。ネットワークエンジニアにもなれない。

普通、プログラマー人材教育といえば、実装教育(実装文法教育)→実装パターン教育→設計→分析と4段階の行程を進むが、現在の専門学校教育ではやれても実装パターン(の一部)止まり。それ以上には進まない。情報系の全ての分野でこういったことが起こっている。普通、大学では実装系はほとんどやらない。まともな大学の工学部であれば、このレベルは学生が自分で勉強するレベルだからだ。大学ではほとんどの場合、分析(+設計の一部)ばかりをやる。できても実装しかできない専門学校生は、大学生人材にとってはマンパワーでしかない。

なぜ、こんなことが起こるのか。それは「基礎」教育という場合の「基礎」を「あれもこれも」の「基礎」と勘違いしているからである。プログラマーの基礎教育といえば、実装教育→実装パターン教育→設計→分析のヒエラルキーの全体(縦の全体)を学ばせるのが「基礎」教育である。

「職業教育」と言うからには、技術的なキャリアパスの全体を教えない限りは、「人材」教育にはならない。学生が「この仕事で一生やっていける」という自覚と自信を付けさせるのが「学校」教育としての職業教育。

「一生」という意味は、プログラマーの上級行程の仕事のイメージを持つということだ。人材教育としての「基礎」というのは、「応用」や「上級」や「高度」との対立概念ではなく、初級、中級、上級(こんな言い方が許されるとして)の基礎(初級の基礎、中級の基礎、上級の基礎)を意味しなければならない。そうでない「基礎」教育は、永遠に大学生に使われ続ける「下流」教育(あるいは「下層」教育)にすぎない。

なぜ専門学校の「基礎」教育は、「下流」「下層」教育にしかならないのか。そもそもが上流工程を教えられる専門教員がいないからである。設計や分析を本格的に担った教員がいない。だから、教員自身が一夜漬けでもやれるような「基礎」教育を「あれもこれも」と横膨張しながら、「人材」に収斂しない教育をやり続けている。

3年制、4年制課程の情報系カリキュラムも縦に(上に)積み重なるのではなくて、横膨張しているだけ。あげくのはてに「じっくり学ぶ」のが3年制、4年制課程だと言い始める。「じっくり学ぶ」というのは、3年制、4年制課程は高度技術を教える課程ではないと自ら宣言しているようなものだ。

4年制を出ても「下層」技術者しか作れないのである。しかもこの「下層」技術者に「基本情報」的な経営系の科目が水増しのように並び始めるのだから、何を教えたいのか全く見えないカリキュラムになっている。この場合、「基本情報」的な経営系の科目が並ぶのは、高度技術を教えられないことの表現にすぎない。だから、どの専門学校も4年制課程は2年課程にもまして募集に苦労している。

今回のわれわれの試みは、オブジェクト指向プログラミングに定位しつつ本格的なプログラマー教育の4年制カリキュラムを作るということ。実装教育→実装パターン教育→設計→分析の全行程を網羅的、体系的に辿り直している。SE=アーキテクト人材育成(エンタープライズシステムアーキテクト人材育成)のためのカリキュラムである。一コマ毎(90分単位)のコマシラバスまでを書き下ろしたカリキュラム提案は、おそらくは(少なくとも国内では)初めての仕事だと思う。〈分析〉しかない大学のプログラマー教育、〈実装〉しかない専門学校のプログラマー教育の欠陥をトータルに補うカリキュラムになっている。

これだけの提案は、現在の専門学校の内部では出来なかった。オブジェクト指向の〈分析〉分野では第一人者の鷲崎弘宜先生(早稲田大学)、オラクルのデータベースでは最先端の技術教育ノウハウを持つ(株)インサイトテクノロジー社の協力を仰いでいる。また東京工科専門学校WEBプログラミング科の学生をSE候補生採用として受け入れて下さり(http://www.ashida.info/blog/2007/11/post_227.html)、(かつての)わが校のプログラミング教育に高い評価を頂いている日立ソフトウエアエンジニアリング(株)の協力も得ている。カリキュラムの成果のみならず、産学の提携関係としても有機的で実質的な協力体制が出来上がり、実り多い1年になった。専門学校の情報系カリキュラムは、この仕事が出発点となるに違いない。

(Version 3.0)

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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