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 電子辞書は、そろそろ買ってもいい頃 ― あの小学館の『日本国語大辞典』が電子化された(CASIOのXD-GP6900)。 2008年09月07日

長~い、人生の夏休み状態に入っている私は、最近、電子辞書に凝っている。久しぶりに海外文献を読みまくってやれ、と思い始めたからだ。

4年前「電子辞書は買わない方がいい」(http://www.ashida.info/blog/2004/08/hamaenco_4_73.html)という記事を書いて以来、私の電子辞書の認識はそのまま停滞していた。

当時はSONYのCLIE、PEG-TJ37(http://www.sony.jp/products/Consumer/PEG/PEG-TJ37/index.html)に、マイペディア(百科事典)/日立システムアンドサービス、CD-ROM版ジーニアス英和〔第3版〕・和英辞典 / 大修館書店、EPWING版 クラウン独和辞典 CD-ROM / 三省堂、 EPWING版クラウン仏和辞典 CD-ROM / 三省堂、それと学研辞スパ、『広辞苑』、『現代用語の基礎知識』を入れて使っていた。

幅75×高さ113×厚さ13.2mm、重さ145g の私のCLIE(PEG-TJ37)は最小、最軽量、最強の電子辞書だった。

その時私が既存の電子辞書にもっていた最大の不満は、英和、独話、仏和を一つの電子辞書で済ませることができないということだった。海外文献という意味では、英語はもちろんだが、ドイツ語、フランス語くらいは一冊の電子辞書で済ましたい。そう思うのは私だけではあるまい。

その当時もカードタイプで後から拡張できるものはあったが、それでも独話、仏和とそれぞれ別々に(その都度)差し替えなければならなかった。今でもシャープの電子辞書はそうだ。

しかし最近の電子辞書は、辞書の追加がスムーズにできる。私が最近買ったのはCASIOのXD-GP6900(http://casio.jp/exword/products/XD-GP6900/)は、基本的には日本語、英語、百科事典類、日本史・世界史を中心とした辞書だが(それでも100コンテンツもある)、最大2GBのマイクロSDカードに辞書を追加できる。

GP6900.jpg
はじめて買った電子辞書。CASIOのXD-GP6900。なかなかのものだ。

秀逸なのは、単に追加できるだけではなく追加した辞書にも串刺し検索(辞書を横断した検索)ができるということだ。

元から入っている辞書にも、このXD-GP6900には際だった特色がある。あのバカでも入れたがる『広辞苑』第六版は入っておらず、ついに小学館の国語大辞典=『精選版 日本国語大辞典』が電子辞書化されたということだ。私はこの小学館の国語大辞典の初版全20巻の1972年の初版時以来からの愛用者だった。

2001年に第2版全13巻本が出ており、今ではそれを自宅で愛用しているが、この13巻本でさえ1冊14000円もする。

今回の『精選版 日本国語大辞典全3巻』(http://www.nikkoku.net/introduction/seisen/index.html)はそれを文字通り精選したもの。今から2年前に出たが、事例用例の充実は『広辞苑』をはるかに凌いでいる(『広辞苑』第六版は24万項目、『精選版 日本国語大辞典』は30万項目、30万用例)。

kokugojitenn.jpg
ついに小学館の『日本国語大辞典』が電子化された。「精選」版全三巻だがそれでも充分だ。

母体となった2001年第2版全13巻本は、50万項目、100万用例と余人近づきがたいデータ量を誇るが、13巻本の価格は一冊14000円×全13巻=182000円。『精選版 日本国語大辞典』は各巻15750円。15750円×3巻でそれだけでも47250円。

私だけではなく、以前からこの小学館版日本国語大辞典の電子化は待ち望まれていたが、今回精選版がまずは電子化されて、一気に使い勝手は良くなった。この(とてつもなく大きな)国語辞典を日常的に使うにはなかなか勇気のいることだったからである。引いてみるとやっぱり引いて良かったと思うことばかりだが、引くまでが手間が先立ち心理的に障害が多い。電子辞書なら30万項目も30万用例も日常化できる。

一方CASIOのこの電子辞書XD-GP6900は9月7日現在「価格コム」で32799円(http://kakaku.com/item/20753010419/)。今から36年前なけなしのお金を払って初版全20巻を買ったときのことを思うとまさに隔世の感あり、だ。

もちろん、『精選版 日本国語大辞典』は、カシオの追加辞書リストにはない。この辞書は現在XD-GP6900を買う以外使えない。何でもかんでも追加辞書にして完全カスタマイズできるようにすると、CASIOの電子辞書商品構成自体が崩れるからだ。この辞書のためだけにでもXD-GP6900を書う人がいないと商売にならない、というのがCASIOの立場だろう。

英語で言えば、『ジーニアス英和辞典』(第四版)は当然のこと、『ランダムハウス英和大辞典』(第二版)が入っている。英英辞典も『オックスフォード現代英英辞典』(第7版)が入っているから及第点だ。『ジーニアス英和辞典』と『ランダムハウス英和大辞典』は良く同時に調べる辞書の典型だから、この両辞書を串刺しで同時に引けるだけでもありがたい。できることなら『ジーニアス』は「英和大辞典」に方にして欲しかったが…。

そのように、既存の国語系、英語系はまずは80点の及第点。ただし、このXD-GP6900でさえ、独和、仏和系は旅行用の辞書しか入っていない。だから全く役立たない。

そこで私が追加で足した辞書は、語学系では以下の通り。

1)『広辞苑』(第六版)。57.4MB とりあえず普及している広辞苑は入れておきました。「広辞苑では、…」という言い方が必要なときもありますから。
2)『リーダーズ英和辞典』(+「リーダーズ・プラス」)。35.1MB これなしには翻訳はできません。
3)『ロングマン現代英英辞典』(四訂新版)。68.7MB 英作文はロングマンでしょう。
4)『クラウン独和辞典+コンサイス和独』(第三版)。37.3MB 独和はクラウン+コンサイスしか出ていません。
5)『プチロワイヤル仏和辞典+和仏辞典』(第二版)。13.4MB 仏和はクラウンとプチロワイヤルの双方が出ていますが、クラウン版は最新版が出そうな気配なので保留しました。

その他の追加辞書・辞典
1)『現代用語の基礎知識2008年』 6.5MB
2)南山堂『医学大辞典』(第19版)+プラクティカル医学略語辞典(第五版)13.4MB

以上7つ足しましたが(つまり既存辞書100+追加辞書7)、これらすべての辞書を貫いて辞書検索ができるのが面白いところ。

最近引いた用例では、例の『ロレンツォのオイル/命の詩』(http://www.ashida.info/blog/2008/03/post_273.html)のロレンツォの息子さんが今年5月に亡くなったことを知らせるHPで(http://www.myelin.org/en/cms/?424)、ロレンツォの父親は以下のようなことを書いていました(「パパ」さんの紹介)。はっとする文章でした。

Scientists should never forget that their mission is to relieve human suffering rather than win the Nobel prize.

ここで言う human suffering の suffering をどう訳すか、です。『ランダムハウス』では「苦しみ、苦痛、苦悩、労苦」と出てきます。『ジーニアス』では「苦しむこと、苦痛、不幸(misery)」、『リーダーズ』では「苦しみ、苦労、受難、被害、災害、難儀、苦痛」です。これくらいは辞書を引かなくてもわかる。

どれもこれも、ロレンツォのお父さんのこのsufferingを訳せてない。ところが『オックスフォード』の現代英英辞典では「physical or mental pain」と端的に書いてあります。『ロングマン』ではさらに突っ込んで「serious physical or mental pain」とあります。『ロングマン』まで引けば、ロレンツォのお父さんが human suffering という言葉に込めた思いがよくわかってきます。ついでに『コウビルド英英辞典』を引きたかったが、手元にはない。

こういった勉強は、我々の学生時代にはよほどのことがないかぎりできなかった。私の高校時代は、あの悪名髙い研究社の英和中辞典(緑色の箱に入った)の時代です。絶大の人気があり良く売れたのですが、『ジーニアス英和』(1991年)の完成度に比べれば足元にも及ばない。私の高校時代に『ジーニアス英和』があれば、私は英文学をやっていたに違い(マジで)。それくらいに『ジーニアス英和』は衝撃的な辞書でした。特に語源説明が教育的に優れていました。

前置詞のonが「接触、付着、近接のon」だというのを明記したのは、この辞書が最初です。
机の「上」のon、壁に絵が「かかっている」のon、go onの「継続」のon、on youの「持ち合わせている」のon、文学についての「ついて」のonのそれぞれの意味がすべて統一的に理解できるというのを示した辞書の最初がこの辞書でした。バカな先生ほど、これらを別の意味として教えてしまう。しかし一語一義が言語教育の原則。専門性がない教員ほど学生に暗記を強いる。

私立の超名門校の英語教員なら、そんなことくらいすぐにでも教えてくれたでしょうが、地方の公立中学校、高校の英語教員で、onをまともに教えてくれる教員などいなかったでしょうから、『ジーニアス英和』(初版は1991年)の果たした意義は大きかったのです。

私は、大学に入ってから、研究社の英文法シリーズ(全25巻・今は絶版)を一冊ずつむさぼるように読んでいた時期があり、前置詞onの先の意味などは大学に入ってはじめて自力で学びましたが(ただしこのシリーズの監修者は大塚高信、岩崎民平、中島文雄であり、日本の英文学研究の最右翼の(最悪の)研究者たちでした。研究社英和中辞典を作ったのも彼らであることを考えると何とも皮肉な学生時代を私も送ったものです)、『ジーニアス英和』はそこまでしなくても容易に歴史的アプローチができる辞書として何よりも教育的な意義が高い辞書でした。

いずれにしても、複数のしかも大部の辞書を串刺し検索できる電子辞書は、語学学習にとって極めて意義の高いものです。辞書というのは、研究者でもない限り「客観的で正しいもの」と思い込んでいる人が多いでしょうが、そんなことはありません。辞書・辞典こそ疑え、というのが原則です。

私のような年代になると、同期の研究者やよく知っている研究者が辞書や事典を執筆している場合が多々出てきますから、そんな場合は読む気もなくなります(苦笑)。そんなものです、辞書というものは。大量の辞書が比較できてはじめてだれにでも、辞書がそれ自体解釈だというのがよくわかるようになります。

さてCASIO XD-GP6900を約一ヶ月使った私の感想(特にダメなところを中心に)。

1)最悪なのは、液晶モニタ。5.5インチモニタが付いており、電子辞書では最大の大きさであるが、コントラストが良くない。よほど明るいところで反射させないと字が読めない。幸いバックライトが付いているので何とかなるが、それでも読みづらい。こんなモニタでどうやって使えというのか。携帯電話などのコントラスト性能に比べると電子辞書業界のモニタ偏差値は50点以下という感じがする。

特に、通常の紙の辞書を眼鏡なしでは読めない年齢になっている私のような50歳前後(45歳以降)の人間にとっては、電子辞書の文字サイズ可変出力はありがたいはず(それだけでも辞書の電子化は意義がある)。にもかかわらず、肝心のコントラストがよくない。大きさとしては充分な大きさになっているにもかかわらず、コントラストがないために字が読めない。最大にすると一文字1.5センチくらいになるが、それだと一行10文字しか表示されない。その大きさだと重度の糖尿病患者と間違われそうだ。

こんなに読みづらいものかと、買ったあとでもう一度新宿ヨドバシカメラの店頭で確認してみたが、ヨドバシカメラは店内のあかりが異様に明るいことに気付いた。あの異常に明るいライトの下では確かに気にならない。私はだまされたのだ(笑)。

どのメーカーのものも液晶は見づらい。わずかにシャープのカラー液晶タイプは見やすそうだったが、肝心の電池の持ちが心配だ。いずれにしても、これから電子辞書を買う人は、最低限バックライト付きを選ぶしかない(カシオでもバックライトのない電子辞書は多い)。そうでないと使い物にならない。

2)全体の重量バランスが悪い。このXD-GP6900は、不思議なことに上蓋の方が厚い。厚さは15.5ミリしかないが、上蓋(モニタ部)が約9ミリ、下部(操作部)が約6ミリというようなバランスになっている。その分、上蓋はかなり重い。机の上に置いて使う場合は気にならないが、手でもって使うときには、バランスが悪いし、操作もしづらくなる。

液晶部分の強度を保つための処置だろうが、気軽に使える、という感じからはほど遠い。これだけの辞書数やデータ量を携帯電話より薄いわずか15.5ミリに収めたことには感服するが、上蓋の厚さには苦労している。

3)パソコンとの親和性は後一歩。理想的には、パソコンにつなぎながら、ATOKやMS-IMEの右クリックメニューなどに入り込めばサイコーだが、そうはいかない。要するにデータ保護(著作権)の問題だろうが、辞書内のテキストを引用できないのが一番辛い。私はパソコンの辞書としてはLogoVista社のもの(http://www.logovista.co.jp/product/search/search_series_dic_lang.html)を愛用しているが(広辞苑、ジーニアス英和など)、いわゆる電子辞書と呼ばれている商品には、そういった使い方ができる辞書はない。LogoVista社も辞書の電子化では頑張っているが、市販の電子辞書ほどの点数ボリュームはない。今の段階では、両者の使い分けをするしかない状態だ。

ただし、CASIO XD-GP6900は、パソコンのテキストファイルを辞書内に転送できる機能がある。また転送したファイルのテキストを自由に辞書検索もできる。その調子で、「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)などのテキストを自由に落として読むこともできる。

出先でパソコンやネット上のテキストを読む場合には便利な機能だが、これも上記1)で指摘したモニタ性能が極端に悪いため読む気が起こらない。電子辞書にテキストを落とすくらいなら、携帯電話でメール化して読んだ方がはるかに快適な感じがする。

いずれにしても、辞書内のテキスト(辞書データ)を外に出すことは一切できない。それが困るのは、豊富で貴重な例文データを教材化することができないということだ。それをするならLogoVista社のものを使うしかない。

今回(今頃)、XD-GP6900を使ってみて思うのは、英語教員なら電子辞書を持たない教員は、教員不適格と言えるほどの辞書間検索、例文検索が充実しているということだ。これを取り出すには、いちいち辞書を見ながらパソコンに打ち直すしかない。しかも見づらいモニタをのぞきながら。電子辞書業界もインターネットやパソコンとの親和性をもっともっと高めていく必要がある。それに一番気付いているのはCASIOだとは思うが。

4)最後にCASIOに提案。これだけのモニタとキーボードを付けておいて、ワープロ機能がないのはもったいない。立派なノートパソコンを持ち歩いていてもワード(ワープロ)しか使わない利用者は多いのだから、充実した辞書機能と連動したワープロ機能を持たせてほしい。そのデータだけは辞書内から取り出せるようにしてほしい。電子辞書は、シャープのようにワンセグに走るのではなくて、辞書付きワープロへ走るべきだ。

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感想欄

お久しぶりです。

いつも楽しく拝見させて頂いております。

質問ですが、「長い人生の夏休み」状態とは?

いったいどのような状態でしょうか?

よろしければ、教えてください。

投稿者 まさとも : 2008年09月11日 09:58

最近、SONYさんは新しいノートが発表されたようです。

電子辞書より少し大きいポケットPCがこれから登場ですね。

投稿者 電子辞書大好き : 2009年01月11日 19:24

「Type P」のことですか。期待していましたけど、ショックだったことが、二つあります。

1)外部モニタ出力+LANコネクタが内蔵されていないということ。

2)横幅がパナソニックのレッツノート「R」よりも大きいということ。たぶん、タイプPを持ち歩く人なら、「R」で充分という人もいるかも知れない。もちろん電子手帳よりは二回り以上大きい。

結論、微妙なところです。

というより、セイコーインスツルからPCに接続して使える電子辞書が出ましたね(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/19/news071.html)。カシオの上級機もはやくこうして欲しいですね。

投稿者 ashida : 2009年01月11日 19:49

御邪魔します。

カシオの電子辞書、シフトキーを押して「削除」ボタンを押すと、設定ができて、コントラストも濃淡の調整ができます。おそらく店舗での設定が薄めだったのでしょう。

このままではもったいないと思いましたので、おせっかいながらお伝えします。

投稿者 とおりすがり : 2009年07月06日 01:25

それは単なる「おせっかい」です。

「コントラスト」も「濃淡」もそもそもの液晶性能が良くないため、いくら調整しても文字が読める状態になりません。そんなことは何度もやっています。バックライトをつけても苦しいくらいですから。

それにカシオの電子辞書の液晶画面が見えづらいというのは、有名な話しですよ。私はそれを再度自分で買って確認しただけです。

投稿者 ashida : 2009年07月06日 01:32

そうですか、カシオがというより、
どのメーカーも読みづらいというご感想なのですね。

液晶に関しての性能が向上し、芦田様はじめ
ご年配の方々のご不満が解消されるといいと思います。

投稿者 とおりすがり : 2009年07月06日 17:32

わからない人だなぁ(苦笑)。

「カシオがというより」ではなくて、カシオが特に、ということです。

液晶画面の見やすさという意味では、シャープやセイコーインスツルの方がはるかにきれいですよ。カシオは一歩も二歩も後れを取っています。

それに、この問題は「ご年配の方々」の問題に限りません。照度が充分でない場所は、どんな場所でもあります。コントラスト性能などは、ユニバーサルに問題なのです。バリアフリーの問題ではありません。

投稿者 ashida : 2009年07月06日 19:52
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