家内の症状報告(117) ― 免疫グロブリン=新しい治療を開始しました(一枚の写真付き) 2008年04月15日
報告が遅れたが、家内は先月3月25日に「再発」。2003年3月14日に発症して(http://www.ashida.info/blog/2003/03/hamaenco_3_24.html)、この5年間、3月に「再発」しなかったことはない。
季節の変わり目にはいつも弱い。2003年の3月も重い風邪を引いていて、鼻が完全に詰まるほどだった(家内にしては珍しいほどの風邪だった)。
今年の3月も案の定、「再発」。
家内の場合には、パルス(ステロイド)が良く効くので、一気に炎症が広がり症状が悪化するということはない(今のところ)。この病気は、どこそこお構いなく中枢神経の炎症が次々に起こり、最後は呼吸中枢がやられ、一気に死に至ることもあるらしいから怖いと言えば怖い。それにパルスが全く効かない人もいる。
家内の場合は、炎症は(幸いなことに?)脊髄に集中しており、パルスも良く効く。この5年間で20回近くも「再発」し、杖をついても10メートルくらいしか歩けなくなったが、20回も再発した割にはましなほうか。しかし特にましとかひどいとかの基準がこの「難病」にあるわけでもない。
2003年以来、MS(多発性硬化症 )と言われていたが、2007年2月に「NMO」(=DEVIC病)ではないかと疑われ(http://www.ashida.info/blog/2007/02/post_188.html)、今日に至っているが、それでもまだ何が何だかわからない。MS(CMS+OSMS)もNMOと同じように液性免疫疾患であり、両者は明確には区別できない(のではないか)という発表も今年の1月になされているくらいだ(Annals of Neurology誌)。
NMOも「ADEM(Acute Disseminating Encephalomyelitis:急性散在性脳脊髄炎)」という成人には稀な病気と症状が似ており、ハーバード大神経内科の医師らはNMOは(NMO-IgGが陽性であっても)chronic DEMの一型であると指摘しているらしい。
ADEMもまた原因不明の脱髄疾患。ADEMは単発性であることが多いが、家内の場合のように再発性のものもあり、recurrent ADEMとかchronic DEMと呼ばれ、NMO/MSとの鑑別が問題になることがあるとのこと。臨床病型やMRI画像所見はMSよりもNMOに近いものが多い。
このADEMは冬から春にかけて「再発」することが多く、上気道炎の原因となるウイルス感染がこの時期に多いことが、その理由ではないかと言われたりもしている。その点では家内の再発の経緯に似ている。
さて、今回も家内の症状には良く効く免疫吸着を4月上旬に行った。
免疫吸着も家内には副作用もなく効果もはっきりと体感できる。ただし免疫吸着は効果が持続しない。「予防」とまではいかない。月に一回くらいやれば「予防」効果があるのかも知れないが、そんな頻度でやると「カテーテル」の抜き差しの危険の方がはるかに高まる。難しいところだ。
家内の場合は、免疫抑制剤がダメ。イムラン、プログラフ、ネオーラル全てダメだった。イムランは体感上副作用は一切なく快適だったが、服用1ヶ月後肝機能の数値に異常がすぐに出て断念。プログラフ、ネオーラルはどちらも服用後4、5日で胃が重くなり吐き気が強くなり断念。
その後(昨年の9月以降)は経口ステロイドを1日20ミリ以上を維持して、一ヶ月ごとの定期検診時に(予防的な)パルスを行うという手しか残っていなかった。
しかし今回それでも「再発」。これでは寝たきりになるのは時間の問題。
最後の手は、たぶん3つ。
1)免疫グロブリン(IVIg)
2)リツキサン(Rituxan)
3)Campath-1H
免疫グロブリン(IVIg)は、ステロイド抵抗性の成人発症のRecurrent ADEM に対するIVIg(免疫グロブリン)に関する論文においてかなり良く効いている症例が報告されている。特筆すべきは、ステロイドパルスで進行は抑えられたが、その後の神経機能の回復が乏しかった例で(急性期を少し過ぎてから)IVIgを開始後、速やかに神経機能が改善した例が報告されている。免疫グロブリンは、特定の病原性の抗体(例えば抗AQP4抗体)を相対的に希釈する効果や、免疫反応に関わる受容体を飽和させ感受させなくする効果などが指摘されているが、まだよくわからない。
免疫グロブリン(IVIg)に神経機能を改善させる力があるかどうかは分からないが、IVIgが髄鞘再生にプラスに働く可能性に期待できないこともない。ただ、血中投与であればさほど多くの量が脳脊髄に侵入するとは考え難く、また理論上はあまり多くのIgGでオリゴのFcRgを刺激しようとすると、ブレーキ役のFcgRIIbが出てきて効果を限定的にしまうのではないか、とも考えられている。
危険性は、血液製剤であることと若干の肝機能障害くらいで特に問題になることはない。NMO/MS患者(あるいはrecurrent ADEM)の場合は、少量で(=1日分で)充分なために副作用の危険性は少ない。
リツキサンは、2008年2月14日号の(世界一有名な医学誌である)New England Journal of Medicine誌に、MS患者を対象としたPhase2の治験結果(1年間の観察期間)がすでに出ている。2週間を空けてたった2回のリツキサン点滴をしただけで投与群での再発は半減していた(1年間の追跡)とのこと。リツキサンは、日本ではリンパ腫で既に使われているB細胞を殺す薬。つまり液性免疫を抑制し得る薬の典型がリツキサン。ベータフェロンが効かない場合の最右翼の薬かも知れない。
Campath-1Hは、RituxanがB細胞をターゲットとしているのとは対照的に、B細胞のみならず、T細胞、NK細胞、マクロファージ等を広くターゲットにしている。Campath-1HはB細胞性リンパ腫の化学療法として、Rituxanと共にFDAより認可されており、また、Rituxan抵抗性の自己抗体による溶血性貧血(AIHA)の治療に有効であることが報告されている。Campath-1Hもリツキサン以上にMS/NMOに対して有効と思われる。ただし日本での治験の話しは現在のところない。
そこで、今回は、免疫グロブリンに挑戦。NMOかrecurrent ADEMかというところで免疫グロブリンが効きそうな気がしたからだ。
家内は先週4月10日に免疫グロブリン点滴を5時間にわたって行った。
投与量は22.5グラム。(先ほども言った通り)大量投与は逆効果。これで充分。
電解水といっしょに点滴を行い、5時間かけて終わったが、途中で血流がよくなり全身が温かくなったとのこと。終わってすぐにベッドから起きて車椅子に移動するとき「体が軽く感じ動きやすくなっていた」と家内は言っています。
点滴中の「免疫グロブリン(IVIg)」。
「体が軽く感じ動きやすくなっていた」以外の感想は以下の通り。
「両足の筋力がアップして免疫吸着した後より両足に力が入るようになりました」
「お腹の上に強い圧迫感があるのがかなり取れ、さらにお尻と腰あたりの筋肉の緊張と抵抗が取れ、今回の再発前より座っていられる時間も立ったままでいられる時間も長くなりました」
「両足の痺れや麻痺による感覚障害が少し改善しました」
「膀胱障害のトイレの回数が減り、夜中のトイレに起きる回数がはっきり減って長い時間まとめて眠れるようになりました」
また免疫グロブリン点滴以後14日時点での血液検査では、肝機能もその他も全く異常なし。白血球の値もリンパ球の値もかつてないほどよくなっていた。身体中ステロイドだらけになっている家内のリンパ球はいつもは800程度、白血球も3500~5000程度。それが白血球5100、リンパ球1450。特にリンパ球が白血球の20%を超えるというのがすごい。
なかなかのものだ。特に両足に力を強く入れられること、トイレの回数減少などはこれまでの免疫吸着の改善(効果)には無かったものらしい。
今後1ヶ月に一回の外来検診で免疫グロブリン点滴を受けていくことになる。
さて、寝たきり寸前で、免疫グロブリンが救世主になるかどうか。その家内が、18日午後退院して自宅に戻ってくる。今度は私がじっくり観察することにしましょう。
(Version 1.0)
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