家内の症状報告(91) ― 「MS/NMOの専門家」は一体日本に何人いるというのか? 2008年02月13日
先の記事、家内の症状報告(90)http://www.ashida.info/blog/2008/02/nmo_nmo.html#more に、おそらくは医療関係者と思われる方からご丁寧なコメントを頂きました。滅多にない勉強の機会ですので、公開したいと思います。家内の症状報告(90)のコメントを頂いたのがきっかけです。もともとはミクシィ(MIXI)の「多発性硬化症」のコミュニティでのやりとりになります。
ミクシィ(MIXI)日記よりの転載
>Pさん
横からすみません。
NMO抗体検査(現在日本で行われているのは厳密には抗AQP4抗体検査です)は保険適用を研究班が強く働きかけている最中ですが、現在は一切保 険適用がありません。また検査手法そのものが標準化されておらず、商業ベースでの検査をしてくれる検査機関もまだありません。現在は、多忙極まる特定の大 学病院(全国に3か所)の医師が、それぞれの研究機関の研究費を持ち出して、空いた時間を使って調べてくれているのみです。よって、特定疾患の認定や公費 助成とは無関係に、検査そのものは全くの無償で行われています。「病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる」というのは誤 解だと思います。そもそも診断の際に行う検査であり、病名特定された場合は検査をする必要が薄れます(ただ、将来的に抗体価が定量化できれば、発症後の病 勢をしらべるマーカーになってくるかも知れません)。
例え神経内科専門医でもNMO/MSの専門家でないと、国内のどの大学のどの先生に検査を依頼してよいか分からないのではないかと思います。また 現在はNMOの診断基準の補助項目のうちの1個になっているに過ぎず、必ずしも診断に必要なものではなく、よほど疑わないと他大学の先生に手間のかかる検 査(現在汎用されている抗AQP4抗体検査は特殊な細胞を培養して遺伝子を導入してAQP4を発現させ、それと反応する抗体を血清から探すという、かなり 手間のかかる検査です)をお願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません。ただ、NMO/MSの専門家であれば、検査をしてくれる先 生と顔なじみだったりして頼みやすいということはあると思います。
いずれ保険適用が成され商業ベースで検査ができるようになればどこでも検査をしてくれると思いますが、それまでは神経内科専門医ではなく、NMO/MSの専門家の外来を受診することを強くお勧めします。
●私の返信
私が言いたかったのは、そうではなくて、「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」という状況下で、MSかNMOか なんだかわからないままの診断状況が重なって、その上でNMO抗体検査(=抗AQP4抗体検査)を御願いすることは、なおさら難しいということです。依然 として、 NMO抗体検査は患者に開かれていないということですよね。
あなたの言われるとおり助成も何もないとすれば、そしてその意味で新潟大学、東北大学、九州大学の研究者達の善意(この善意も研究費という助成に のっかった善意であるわけですが)に頼っているとすれば、NMOかもしれない日本国内の「MS患者」の決して少なくはない人たちはどうすればいいのか(私 の家内の病院でもMS患者全被験者50名の内、7名が「陽性」と出ました)。一説には日本型MSの30%前後がNMOではないかとも言われている。NMO 治療にとってはこれは絶望的な状況だということですよね。
あなたの言う「よほど疑わないと」というのは、どんな感じなのでしょうか。
① 女性に多いか、年齢が比較的高齢
② 脳内炎症がほとんど見られない人(視神経か脊髄に炎症が比較的集中する人)
③ 一回の再発炎症の規模が大きい人
④ ベータフェロンの効果が見られない人(むしろ悪化する場合がある人)
この4つのすべてを充たすということでしょうか。私の家内の場合、このすべてを何年にも渡って充たしていましたが、それでもNMOと診察されたのは、抗体検査後のことです。
実際NMO抗体検査を受けたいと申し出ても、「そんな検査必要ないですよ」と根拠もなく突き返される場合がほとんどらしい。その理由はほとんどの 場合(薬剤会社の絡まない善意の反応の場合)「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」というものでしょう。でもこれは医学 的な問題ではない。
一方で、九州大学や宇多野病院など公開的にNMO抗体検査を受け付けるところも昨年来出てきている。こういった情報を「お願いするのはとても気が 引けることなのは理解できなくもありません」などと医師達の内輪話のように「横から」口出すのではなくて、もっともっと広めていくべきです。
厚労省の免疫調査班の報告でさえ、すでに昨年の4月16日に以下のような重要な警告を発しています。これはNMO抗体検査(「抗AQP4抗体の測 定」)を受けなさいというものです。しかも「よほど疑わないと」ではなくて、インターフェロンベータを「使用していても再発回数の減少がみられない場合」 という極めて広範な現象をカバーする事例に対して抗体検査をすすめています。大概の「MS」患者はベータフェロン治療を受けているのですから、先の私の4 兆候よりもはるかに緩やかな、それゆえ広範なMS患者に対する指導です。
「したがって、抗AQP4抗体陽性例とnon-responderの関連を考慮すると、LESCLを有する例や膠原病を合併する例で新規にイン ターフェロンベータを開始する場合や、これまで使用していても再発回数の減少がみられない場合は、抗AQP4抗体の測定が望ましいと考えられます.もし陽 性である場合は、抗AQP4抗体の意義が明らかになるまでは、新規例についてはインターフェロンベータの開始は慎重に検討する (あるいは見合わせる)、これまで使用して再発回数の減少がみられない例については継続を再検討するなどが必要と思われます」(http://nimmunol.umin.jp/official/med/20070416a.html )。
「よほど疑わないと」というのは、この厚労省の免疫調査班以前の判断です。そういった判断がこの21才の若い患者さんに対する治療法の選択を遅らせているのだと私は思います。
●Pさんの再コメント(文中「ジャイアン」とは、芦田のミクシィペンネーム)
>8)NMO抗体検査については、特定疾患認定が下りないと公費助成がないため、>病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。>この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない。
私のコメントはこの点についての誤解を解くべく書いたものです。「公費助成がないから病名特定以前に検査を行うことを病院は医師は嫌がる」のでは ないし、逆に「病名がMS(NMO)と特定されて(特定疾患の)公費助成が出たから(有料の)抗体検査をやってくれる」のでもないです。現時点で検査は無 償であり、患者本人が特定疾患に認定されているかどうかは関係のないことです。
そして、私の書き方が分かりにくかったのだと思いますが、「よほど疑わないと」というのは、その前文にある、”NMO/MSの専門家でない神経内科専門医”においてです。
NMO/MS専門家の中では抗AQP4抗体検査についてはもはや常識です。診断確定時には当然として、ベタフェロンの新規開始時や使っていて再発 した例においてはまずチェックするでしょうし、或いは「ステロイドを減らしていくと再発するMS」例においても大概チェックするでしょうし、例えベタフェ ロンが再発を抑えているように見えている症例でも、LESCLが経過中にあったのならば、今後のことを考えて大概チェックするでしょう。或いは脊髄炎と視 神経炎のどちらかしかない患者や、いずれにも病変がなくても第三脳室付近に原因不明の脳炎を生じている患者についても、調べるかも知れません。
しかしながら、神経内科専門医の中でNMO/MSの専門家は少ないのが現状です。専門として多いのは、アルツハイマー、パーキンソン、頭痛、脳血 管障害です。残念ながら1万人超のNMO/MS患者は神経内科の抱える患者全体からすれば少なく、その専門家もまた少ないのです。
このNMO/MSの専門家以外の神経内科専門医には、OSMSとCMSとNMOについての相互関係を知らない医師もかなり居ます(初診医でこれら の情報を正確に知っている先生は珍しいのでは?)。そんな医師に抗AQP4抗体検査をして欲しいと言ってやってくれるでしょうか。やってくれるとすれば、 悩んだ挙句に身体所見としてはNMOの診断基準を満たさないが、抗体価が陽性なら満たすかも、と「よほど疑った」場合で、それとて、特定の大学に依頼する 検査ですから、どうやって依頼するか分かりにくく(全血・血清・脳脊髄液?(ちなみに脳脊髄液検査だと思っている医師も多い)、量?、冷蔵・冷凍?、)、 誰先生?等)。商業ベースに乗っているなら、そこの会社の担当者を呼びつけて、検査しといてね、と言って後は採血室に指示をしておけば、勝手にやってくれ るようですが。
あと、診断は診断基準によります。現時点では抗AQP4抗体が陽性でも他を満たさないとNMOとは診断できません。何ら神経学的・画像的証左がなく、自覚症状のみであれば検査依頼は常識的に無理でしょう。陽性でも診断付かないのですから。
小生の文面を誤解されたように思えた部分に対する補足は以上です。
ちなみに、ジャイアンさんの仰るとおり、
>実際NMO抗体検査を受けたいと申し出ても、「そんな検査必要ないですよ」と根>拠もなく突き返される場合がほとんどらしい。
が現実だと思います。
>その理由はほとんどの場合(薬剤会社の絡まない善意の反応の場合)「お願い>するのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」というもの>でしょう。でもこれは医学的な問題ではない。
これは違うと思います。その医師がNMO/MSの専門家でなくそこまで検査の意義を知らないからでは?バイエルシェーリングも抗体検査をするように宣伝してるようですよ。損害賠償請求が怖い?からですかね。
>そういった判断がこの21才の若い患者さんに対する治療法の選択を遅らせて>いるのだと私は思います。
もしNMOを疑う根拠が事実あるならば全くそうだと思います。パルスをやったということは画像的根拠があったのかも知れません。抗AQP4抗体陽 性であればhigh-risk syndrome of NMOと考え、パルス後にプレドニンand/orアザチオプリンを使うのでしょうが。
なんでジャイアンさんが知っているようなことを、神経内科専門医が知らないのだ、おかしい、と思われるかも知れませんが、一般の神経内科専門医に とってはNMO/MSは日本の神経内科で遭遇する機会は少なく、寝る時間が足りないほど忙殺されている彼らにとっては、NMOの知識よりも脳梗塞に対する tPAを勉強するほうが優先されるでしょう。
よって、現時点の現実的な対応としては、NMO/MS専門家を受診するしかない、と思われるのです。
一応、NMOの改訂診断基準(2006年)を書いておきます。
1) 視神経炎があること
2)急性脊髄炎があること
3)次の3つの支持項目のうち最低2つを満たすもの
①MRI上、3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変がある
②MRI上、MSの診断基準に合致しない脳病変がある
③血清中NMO-IgGが陽性
この3つ【全て】を満たすものがNMOと診断されます。
当然ですが、1)2)も自覚症状ではなく他覚的検査所見で示すことになります。
ちなみに、東北大は【あくまで研究論文の中で】ですが、NMO疑いとも言うべき、high-risk syndrome of NMOを提示しています。
1) 脳病変を欠く、再発性の視神経炎
2) 3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変(脳病変の有無は問わない)
3) 視神経炎 and/or 3椎体以下の脊髄病変があり、NMOに矛盾しない脳病変(左右対称性の瀰漫性白質病変・左右対称性の間脳病変・左右対称性の脳室周囲病変)があるもの
この何れかに該当するとhigh-risk syndrome of NMO、としていますが、国際的な評価は得られていません(high-risk syndrome of NMOが実際にNMOになる確率はどの程度かは不明)。
但し、NMO-IgGの火付け役であるMayoからの小数例の追跡報告では、3椎体長以上に及ぶ横断性脊髄炎で原因不明のものにおいて、NMO- IgGが陽性であれば、その後1年のフォローアップで約44%が横断性脊髄炎を再発し、約11%が視神経炎を発症する(ここでNMO診断とされますね)と 指摘されています。大規模数での確認が待たれるところです。
小生の勝手な妄想として、high-risk syndrome of NMOでNMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性であれば、再発予防治療の開始に踏み込んでもいいのではないかと感じます。患者本人が、実はNMOではない という誤診リスクと投薬による副作用リスクを納得できれば、ですが。やることは免疫抑制ですから、実は病変が感染症や腫瘍であった、という場合にはかなり リスクを負うことになるかも知れません。
●Pさんへの再返信
この、多発性硬化症とNMOとの関係について、詳細で多少とも本格的な議論が出来ることを私は大変喜んでおります。そのことを私のお話の最初の前提にしたいと思っております。
そこで私も誤解を解いておきたいと思います。
>8)NMO抗体検査については、特定疾患認定が下りないと公費助成がないため、>病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。>この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない。
>私のコメントはこの点についての誤解を解くべく書いたものです。「公費助成がないから病名特定以前に検査を行うことを病院は医師は嫌がる」ので はないし、逆に「病名がMS(NMO)と特定されて(特定疾患の)公費助成が出たから(有料の)抗体検査をやってくれる」のでもないです。現時点で検査は 無償であり、患者本人が特定疾患に認定されているかどうかは関係のないことです。
(私)この説明はよくわかります。私も誤解していたと思います。あなたのコメントの直後に東北大学のNMO専門医に問い合わせたところ、「無償のはず」という返答が返ってきました。狭い意味での「公費助成」の有無は問題ではないとしても、あなたも正直に指摘されているように抗体検 査は病院や医師によって敷居が高いものであることは確かだと思います。
東北大学とのやりとり、そして何よりあなたとのやりとりから学んで、私はブログの方では私の趣旨がストレートに生きるように以下のように第8項を書き換えました。
「8)NMO抗体検査については、「MS」判定さえ出来ない(特定疾患認定が下りない)患者のNMO判定のために真っ先に抗体検査を行うことを病 院や医師は 嫌がる。それでなくても面倒くさいこの抗体検査を、新潟大学、九州大学、東北大学の研究者集団に(無料で)依頼するのは、なかなか気が引けることなのだ。 この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない」。
そうしたら、さきほどあなたから次のような心あるコメントをブログ上に頂きました。
「mixiのリンクから来ました(粘着質ですみません)。Ver.4.0のブログを拝見していますが、議論させて頂いた(8)について、なるほど そういうことなら確かに、と感じております。小生の勘違いというか早合点でした。リンクがあるのであればきちんと読んでからコメントすれば良かったのです が、失礼の段をどうぞお許し下さい」。
私こそ、不正確な情報を流したことについてお詫びします。
この箇所のこのやりとりに拘泥することは、せっかく見つけた信頼に足るNMO治療の会話のきっかけを殺ぐことになるでしょうから、もうやめましょう。
誠意あるあなたにいくつか質問があります。
1) あなたの言う「MS/NMOの専門家」というのは、全国にどれくらいいると思いますか。たぶんほとんどのMS/NMO患者は、あなたの言う「MS/NMOの専門家」にかかってはいないと思うのですが。
2) さらに「MS/NMOの専門家」であっても、抗体検査を優先させない場合はいくらでもあります。
まず今回のメールにあった21才の女性の場合、検査をせず、「心療内科」を薦めたのはあなたの言う「MS/NMOの専門家」です。
また私の家内の場合、抗体検査を受けたのは2007年の1月22日。結果は翌月の2月16日。陽性でした。
私の家内の症状は、あなたの言われるNMOの兆候をすべて(完全に)充たしているにもかかわらず、しかもベータフェロンによる体調悪化が明白であったにもかかわらず(2年間で10回以上の再発をくり返していました)、そんな状況でした。
検査を受けて「陽性」結果が出たと時に(昨年の2月に)はじめて「NMO」「デビック病」(の疑い)という言葉を聞かされました。この担当医も MSキャビン推奨の「MS/NMOの専門家」です(最初に断っておきますが、私は病院や担当医師を個別に批判する気は全くありません。今でもお付き合いと 指示を貴重なものだと思っております)。
この専門医にかかる前にお世話になっていたのは、広尾の日赤病院ですが(担当医は武田克彦神経内科部長)、この担当医はベータフェロンは一切使いませんでした。 むしろMSと判定しておきながら、炎症箇所が同じであることや炎症が長大であることについて疑いをもたれており、MSとは違う、血管の何らかの異常が脊髄を圧迫している病気ではないか(ヘルニアか)、と私に提案されました。
「造影剤を入れた検査をしたい」ということでしたが、それには「家族の了承がいる」とのことで、私も2、3日悩みましたが、申し出は断りました。手術の動機の傍証が弱いと判断したからです。2003年9月の話しです。※その間の経緯はこちら(http://www.ashida.info/blog/2003/09/hamaenco_3_94.html )に詳しい。
家内の発症は、2003年3月。日赤には12月まで入退院をくり返していましたが、「ここは救急病院だから」と最後には言われて追い出されてしまいました。
2003年と言えば、アメリカのLennonたち(メイヨー・クリニック)によって、視神経脊髄型MS(アメリカではDEVIC病)の患者の 73%の血清中に抗AQP4抗体(=NMO-IgG)が陽性であることが発見されたのが、2004年後半ですから、「MS/NMOの専門家」でもない武田先生がその疑いを持つのは、難しい状況だったのでしょう。
私のような素人レベルで、日本人の研究者の、Lennonの研究に言及した記事にたどり着いた最初期の日付は2006年4月です。その記事では、 2006年初頭San Diegoで開催された米国神経学会(AAN)におけるLennonの発表を活き活きとした筆致で以下のように報告しています。
「今年の米国神経学会(AAN)は、San Diegoで開催された.個人的にこの学会は大好きで、夕方になり、会場で振舞われるワインを飲みながら、ポスターの内容をdiscussionするのは 何とも楽しい。新しい知見や治療薬の話を聞くととってもワクワクする(同時に日本とのギャップを感じ、気分的に落ち込む学会でもある)。
今年の演題の内容 はNeurology誌のsupplementで確認することができるので入手可能ならご覧いただきたいが、今回は個人的に注目した演題として、NMO- IgGの標的抗原が発見されたことを紹介したい。
NMO-IgGは多発性硬化症の亜型と考えられてきたNeuromyelitis optica(NMO;いわゆるDevic病)、および本邦に多い視神経脊髄型MS(OS-MS)において高率に認められる自己抗体である(Lancet 364; 2106-2112、 2004;2004年12月17日の記事参照)。
NMO-IgG陽性例では、①classical MSは否定できること、② IFNのような免疫調節作用のある薬ではなく、免疫抑制剤(アザチオプリン、ステロイド)を治療に用いる必要があるという意味で、診断的にも治療的にも抗体測定の意義は大きい。
ではNMO-IgGは、NMOの病態にどう関与しているのだろうか? もしNMO-IgGが認識する「標的抗原」が判明すれば、病態解明に向けての大きなヒントとなる。
今回、Mayo clinicの神経免疫学教授Vanda Lennonは、AAN plenary sessionのなかで、NMO-IgGの「標的抗原」がアクアポリン4(AQP4)であることを講演した。
アクアポリンは水チャネルを構成する蛋白で、1988年、Peter Agreにより発見され、1992年に分子式が同定された(Agre は2003年ノーベル化学賞を受賞)。最初のアクアポリンは赤血球膜で明らかにされたが、その後、遺伝子ファミリーを形成していることが明らかになり、現 在、少なくとも13 の遺伝子とそのタンパクが知られ、全身に分布している。
細胞間の水移動には欠かせない分子であるため、さまざまな病気と関係すると推測されているが、現在 までに3つの疾患への関与が報告されていた(AQP2→腎性尿崩症、AQP0→先天性白内障、AQP5→シェーグレン症候群に伴うドライアイ)。
中枢神経においてはAQP4が存在する。AQP4ノックアウトマウスでは脳虚血後の脳浮腫がおこりにくく、脳虚血後の脳浮腫にAQP4が関与している可能 性が示唆されている。脳浮腫の治療に用いられるステロイドホルモンがAQP4の発現をおさえることも報告されていて興味深い。
そのAQP4がNMO-IgGの標的抗原であったことは2つの意味でインパクトがある。ひとつは「水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患がある」 というインパクトである。これまで水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患は報告されておらず、今後、同様の疾患(autoimmune water channelopathy)が報告される可能性もあり興味深い。
もうひとつのインパクトは、NMO-IgGの標的がミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったことである。AQP4は、アストロサイ トのfoot process膜に豊富に存在し、BBBにおける水のやりとりに重要な役目を果たしている。
すなわち、アストロサイトを主座とした免疫異常が、中枢神経脱 髄性疾患を引き起こす可能性があるわけで、今後の研究に従来とは全く異なる視点が必要であることを示唆する。今回の発見は脱髄性疾患の病態機序の解明に大 きく寄与する可能性があるように思われた」(2006/4/11)
― 以上引用終わり
私は、この研究者の報告を読んだときに、同じように興奮しました。2006年4月にすでにこのような立派な報告があるではないか、と。
この報告と前後して、Lennonの研究は、厚労省の免疫調査班の研究報告書でも、2006年版から大々的に取り上げられています(http://nimmunol.umin.jp/official/2006/report2006.html )。
2003年の段階で、NMOの疑いを一般的に推測するのは難しかったでしょうが、それでも、MSの通常タイプとは異なる(“日本型MS”でもない)という程度には私の家内の症状が疑われていたのは確かです。
しかしその後、今の病院に変わって「MS/NMOの専門家」によって、日赤段階の嫌疑はいつの間にか晴れて、ベータフェロン投与が始まります。この投与が完全に止まったのは、2006年の8月。これもNMOの疑いあり、ではなくて、家内がベータフェロンの継続投与に耐えられなくなったのが理由です。
私がここで疑問に思うのは、ベータフェロン投与は、NMO検査なしには中断できなかったものなのかどうかということです。
そもそも、私がNMOやデビック病のことを調べるようになったのは、2007年の2月、家内が「陽性」結果が出て以来のことです。先ほどあげた2006年の4月の記事も、2007年2月以降に知った記事の内容です。
素人の私でも30分もしないうちにインターネットでアプローチできる知見に、「MS/NMOの専門家」が近づけないはずがありません。私も「寝る時間が足りないほど忙殺されている彼ら」と同様毎日忙しくしていますが、それでもあの記事にいたり付くのは簡単なことです。
先端の知見があるであろう「MS/NMOの専門家」であっても、2004年のアメリカの初見から2006年代の日本では、やはり落差が大きかったと言えるのではないでしょうか。
何が言いたいのか。
結局、ベータフェロン全盛とも言える2004年~2006年の間でも多様な診断と治療の選択肢があったにもかかわらず、NMO抗体検査を待つまではベータフェロンを完全にはあきらめきれなかった医師や病院が、あなたの言う「MS/NMOの専門家」の中にも少なからずいたということです。
この点が「NMO/MS専門家の中では抗AQP4抗体検査についてはもはや常識です」という今さらながらのあなたの言葉が私にはうつろに響く点です。
3)そこであなたに最後の質問です。あなたが「もはや常識です」という場合の「もはや」とは、具体的にいつからの「もはや」ですか。それと関連して、「MS/NMOの専門家」とあなたが言う人たちは、2004年~2005年の初頭のLennonたち(メイヨー・クリニック)の発見をいったいいつから知っていた、と考えますか。さらには、この発見とベータフェロン治療の可否の問題はいったいいつから日本の「MS/NMOの専門家」たちに知られていた とお考えですか。
(Version 1.0)
※このブログの今現在のブログランキングを知りたい方は上記「教育ブログ」アイコンをクリック、開いて「専門学校教育」を選択していただければ今現在のランキングがわかります。
この記事へのトラックバックURL:
http://www.ashida.info/blog/mt-tb.cgi/875
私も主婦でMS患者です。19年前に発症、2年前再発しました。
初発の治療は何とか、歩けるようになり片目助かりましたが、今回良いほうの目をやられました。pcの字は何とか読めます。パルスも効きません、脚も重くなってきました。
薬はプレドニン少々です。殆ど引きこもり状態です。
芦田さんの記事はずっと読んでます。出来ればMIXIで拝見したいのでそのサイトを教えてください。私はそのために会員になりました。それから奥様のほうも、お願いします。
私の医師もこの病気にそれほど詳しく無いようです。教科書どおりのことをして、言うことを聞かないと、精神科も受診しろといいます。両目悪くなってパニくってる患者にですよ、、、
先日JTD大のY先生の特別外来の初診を受けたらすぐ、血液検査をして東北大に回すから1月先に来なさいとおっしゃいました。でも病気がよくなる望みはありません。時間が経っていますし、初診は限られてますが、200人くらいの患者がいて再診はとても混み合うそうです。
住居が都内でないので主人が休んで1日がかりです。再生医療に期待するという患者もいますがそれまで生きていられるかな、、ちょっと無理そうと考えたりしています。
大変そうですね。私も他人の相談にのっている場合ではないのですが(家内は、後一歩で寝たきりになります)、お互い大変なことに変わりはありません。
私のミクシィ(MIXI)サイトですが、私の場合は「芦田宏直」、家内の場合は「芦田智美」で、ミクシィ(MIXI)内で検索して下さい。すぐに見つかります。見つからない場合は、もう一度メール下さい。