家内の症状報告(108) ― 「MS研究者」の実質大半は実は「EAEの研究者」ではないかと疑いたくなるほどです(MS=T細胞性自己免疫疾患という集団的錯誤の起源)。 2008年02月26日
早速、回答がありました。先の質問(http://www.ashida.info/blog/2008/02/post_270.html#more)共々ご報告します。
●私の先の質問
>1990年1月のAnnals of Neurology誌には同じくMayoのLennonらが、「脊髄を免疫してできた血清のうち、髄鞘再生に寄与したのは免疫グロブリンである」ことを報告しました。つまり、脊髄の何らかの蛋白に反応する抗体(=免疫グロブリン:液性免疫の主要な構成成分)が、「悪者」というより、「髄鞘再生に寄与する味方」であると報告した訳です。
ここはやはり気になりました。よくわからないのですが、1990年にすでに、免疫グロブリン「悪者」論=液性免疫「悪者」論が議論されていたにもかかわらず(この「悪者」論はパパさんの議論の流れそのものでないこと、むしろその反対であることは充分に理解した上で)、なぜ「MSはT細胞性自己免疫疾患である」という俗論が広がったのですか。
1990年と言えば、「海外でのベタフェロン大規模治験結果」(Neurology誌/1993 年4月)の発表のさらに以前です。MS=T細胞自己免疫説の起源はいったいどこにあるのですか? MayoのLennonは、1993年ベータフェロンの治験結果、あるいは2005年2月の日本人達の治験結果をどう考えていたのでしょうか?
●Pさんの回答(2008年02月25日 23:53)
文中で小生が時系列を無視した書き方をしたので混乱しますので、補足します。
=(現時点で争点となっている抗AQP4抗体やNMO-IgGというような)「悪者」というより、「髄鞘再生に寄与する味方」であると報告した訳です。 =
というのが本意です。ちなみに、MayoのLennonやRodriguezらが彼らの発表をしたころには、彼らもまた、MSはT細胞性自己免疫疾患なので、T細胞を殺しつつ、自己抗体等の免疫グロブリンを投与すれば最大の髄鞘再生化が得られると議論していました。
今やその自己抗体(NMO- IgG・抗AQP4抗体)がNMOの原因ではないかとMayoが一番騒いでいるわけで、現時点で彼らはある特定の抗体は髄鞘再生に寄与し、ある特定の抗体は脱髄に寄与すると考えているようです。
さて、MSはT細胞性自己免疫疾患である、という認識が広まり、証明されていないのに証明されたかのような集団錯覚現象に陥った根源は、小生の知る限り、実験的自己免疫的脳脊髄炎(EAE)動物の台頭にあります。
もともとはワクチン後脳炎(ADEM)に興味を持ったThomas Riversが1933年のJournal of Experimental Medicine誌に「ADEMのモデルとして」EAEを発表したのがきっかけです。
当初はサルにウサギの脳をすり潰して接種し免疫を励起していましたがなかなか発症率は高くなくあまり広まりませんでした。その後Freundが1942年に免疫賦活化剤(今現在でもComplete Freund's AdjuvantとしてEAEの発症に使われています)を開発し、1947年からはそれを用いてEAEが作られるようになり、発症率も高く簡便な動物も出るとしてあっという間に広まりました。
炎症と脱髄という病理像が多発性硬化症に類似するということで、「ADEMのモデル」だったのに、ADEMは発症率が低く、圧倒的にMSの研究者が多いからか、いつのまにか「MSに似ているモデル」としてのEAEが扱われるようになりました。極めつけは、日本では使えませんが、Copaxone(これはもともとEAEをベースに1971年に開発されたペプチド医薬)やMitoxantrone、最近ではTysabri といったEAEでの有効性を基礎にMSでの臨床応用に繋がった薬が台頭してからは、EAEを「MSのモデル」とする風潮が更に広がりました。
本当はEAE で開発された薬の「大半が」MSでの治験で失敗しているので、これら成功例は数少ない例外的存在であったのですが、以外と「大多数の失敗例」は見向きされないのでしょうか、或いはEAEを否定されると他にモデルがないので「自称MS研究者」たる「実はEAE研究者」が困るからか、ともあれ、実は今でも、 EAEをMSモデルと要旨に大々的に書いてある論文を世界中に認めます。
で、ここからが、本題です。EAEは脳やら脊髄やらをFreundの免疫賦活剤と一緒に接種して作っていました(現在は人工的に合成した髄鞘の蛋白とFreundの免疫賦活剤で作ります)。
1960年にpassive EAE(受動的EAE)というのが報告されました。これは1匹のEAEを作成したとして、その1匹の動物のリンパ球を、他の健康な1匹に移すとそいつも EAEになるというもの、つまり「病原性を持った」リンパ球だけで(脳やら脊髄やらを接種しなくても)EAEを発症することが示されました。1981年にはそのうち「病原性を持った」CD4陽性T細胞だけでこのpassive EAEが作れることが報告されました。
小生が知る限り行き着くところは、この辺りがMS=T細胞性自己免疫説、の根源のようです。
EAEを使って研究をやっているが、実はMSについてはよく知らない、という研究者(大概は医者でない)が結構居るようです。でもMSと名前を入れると研究費が取りやすいとか、論文のインパクトが増えるということなのか、今でもNature誌などを見ていても、「EAEはMSのモデル」と書いてある論文は多いようです。「MS研究者」の実質大半は実は「EAEの研究者」ではないかと疑いたくなるほどです。本当に、「EAEの治療薬」は無数に報告されています。
こういう歴史的背景を知っていて、ましてやMSの神経病理に精通している研究者はよく「MSはEAEのモデル」と揶揄します。そして「(EAEを専門とする自称)MS研究者にとって一番恐れるのは、MSが不治の病でなくなってしまうことなんだろう」、「EAEの治療は簡単だ、最初から接種しなければいい」と。
ちなみに、最近は「EAEはMSよりもNMOに近い」論があるようです。真偽は分かりませんが。
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