校長の仕事(22) ― 就職活動、出陣の言葉(できるだけ大きな企業を目指しなさい) 2007年11月05日
先々週の金曜日(就職プログラムの期間)は久しぶりにWEBプログラミング科の学生の前で話しをした。春のフレッシュマンキャンプ以来だ(http://www.ashida.info/blog/2007/04/post_201.html)。
内容は、就職活動を開始する君たちへ、というもの。専門学校は2年課程が多い。したがって、就職活動は学校へ入学して半年足らずで開始しなければならない。
特に大学生(特に一流大学の大学生)と本気で戦うには、大企業が採用活動を開始する10月は勝負時なのである。
それははるかにハンディを背負った活動開始である。大学生は3年生の10月。専門学校生は1年生の10月。一流大学に在籍してようが、三流大学に在籍してようが、この年代の2年間はどんな学生だって大きく成長する時期で、3年生は1年生に比べてはるかに大人の落ち着きがある。
だから、ほとんどの専門学校の就職活動は、この時期には開始しない。一流企業の、一流大学3年生の採用が一巡する春先が専門学校の就職活動が本格化する時期なのである。
1年生の10月の就職活動を開始する専門学校なんて、日本中どこを探しても存在しない。3年生の大学生に勝てないからだ。「専門学校は(大学に比べて)就職がいい」というのはウソだ。
それはそもそも大学生がもともと相手もしない企業の部門への就職率がいい、と言っているだけで同じ土俵で優劣を競っているわけではない。
こんな状況の中で、私は19日(金曜日)に次のような話しを学生諸君に行った。
●若い内はできるだけ大きな企業を狙いなさい。
まず、みなさん、できるだけ規模の大きな企業への就職を目指しなさい。それは中小企業はよくないという意味ではなくて、まずは大きな企業で学ぶべきことを学びなさい、という意味です。大きな企業があなたたちの終点や理想である訳ではありません。
理由は二つあります。
第1の理由。
大きな企業は、人材評価を複数の系列から汲み上げるノウハウを有しています。直属の上司と折り合いが悪くても必ず直属の上司共々評価の対象にする仕組みを有しています。したがって、人間関係で失敗する可能性が少ない。
小さな会社は、トップの顔が見え、動きも速くて快適なように見えますが、一度上司(あるいは社長)とうまくいかなくなったら評価を取り返すのに大変な努力が必要になる。これは若いあなたたち、人間関係にまだまだ経験の少ないあなたたちにとっては大変な負荷です。小さな会社への就職機会が多い専門学校生がキャリアを積みづらい理由がここにあるわけです。
第2の理由。
大きな組織は、大きいが故に人を動かすノウハウを有しています。見たこともない社長が、何千人、何万人という末端の(世界大の)従業員を組織している、というのはそういうことです。
このこと(=マネージング)を若いあなたがたはまず学ぶ必要がある。組織に入って、まずあなた方が目にするのは、(たとえば)目に見えないところで努力する先輩や同僚の姿です。(たとえば)上司や同僚の不正や怠惰です。そして真っ先に自分自身の。
そういった個々人の目立たない努力や不正や怠惰をその組織はどのように評価したり、見抜いたり、許さないのか、どの程度にそういったノウハウを有しているのか、それが大きな企業であればあるほど重要になってきます。「誰も見ていない」ことが多いのが大企業だからです。
「マネージング」「マネジメント」とは、見たこともない、会ったこともない人を動かす能力のことを言います。遠いものに影響を与えることが出来るからこそ、大企業は大企業であるわけです。
それは組織内の遠さ・近さだけではなく、マーケットの広さ、マーケットに対する影響力の大きさとしてもそうです。
目の前のお客様に受け入れられるだけではなく、会ったこともなければ、言語も違う、風習も違う、民族も違うお客様の要望にも応えられる商品やサービスも提供できること。これが大企業の生産・サービス活動の特質なわけです。
そのノウハウを若いあなた方はまず真っ先に社会人として学ばなくてはならない。
2年前ホリエモンのライブドア騒動がありました。もう2年も経ったのか、というくらいにあっという間の出来事でしたが、若い人たちがどんどん起業する、特にIT分野の青年達がどんどん起業する傾向がここ10年あります。
でもホリエモンのように長続きしない。なぜか。
答えは簡単です。IT産業は(農業や製造業と違って)あまりにも一気に売上げが増加し、会社規模(従業員数)も大きくなるために、「会ったこともない」従業員の管理ノウハウを身に付けるのが遅れてしまうからです。
最初は思想を同じくする優秀な人たちが集まって、少数精鋭の生産的な組織であったにもかかわらず、図体が大きくなることによって、ノイズや無駄が増えていくことに鈍感になっていく。急激な売上げののびが(売上げと共に発生している)リスクを隠してしまう。そうやって成長の速さと同じように没落が始まる。
これではマネジメントは学べない。
●人生の大逆転
さてしかし、大企業は専門学校の学生にとっては難関です。もちろん大多数の大学生にとっても難関です。
なんといっても、あなたたちが高校生時代遊んでいたときに一生懸命勉強をしていた東大や早稲田や慶應の学生達と戦わなければならない。
世の中の一流企業と言われている組織には必ずこういった大学の連中がいます。この連中を貴方達はまずやっつけなくてはならない。
あなたたちは、まだまだ学歴社会であるこの社会では出遅れた専門学校生ですが、しかしこの専門学校に入学して、彼らが受験勉強をした以上に十分に学んできた。彼らは大学では何一つ学んでいない。受験勉強で蓄えた勉強の余力で就職活動を(小器用に)こなしているに過ぎない。
専門学校で学ぶことは、その学校で良い成績を取ること、その学校を卒業することにあるのではありません。残念ながら、この学歴社会では「専門学校」はそのもっとも良質な部分ですら「ブランド」にはなっていない。
年内の10月から採用活動をはじめる多くの企業は、最初から「専門学校」生の「エントリー」を阻んでいます。悲しいかな「専門学校」という選択欄がない。
これは“差別”ですが、しかし「専門学校」というのが、早稲田や慶應に入る学生がやってきた受験勉強以上の勉強をさせてこなかった一つの結果でもあります。
だから、あなたたちの真の課題は学校の期末試験を突破すること、専門学校を「卒業」することではなくて、技術そのものを磨いて企業に入ってから彼らと戦える状態を作ることなのです。
あなたたちが、そういった彼らよりははるかに技術力があることは、私が一番よく知っています。あなた達が卒業する頃には、JAVA、Oracle、UML3つの高度資格をあなた達すべてが有することになる。専門学校生はもちろん、大学生や社会人のプログラマーでさえも持つのが難しい高度資格を3つとも有している。
またそういった資格に留まらず、あなたたちは、WEBアプリケーションを簡単に作ることが出来る。プログラマーを超えて、あなた達は20歳になるかならないかでプログラムアーキテクトであるわけです。このことにあなたたちは、もっと自信を持つべきです。
すでにあなたたちの今年の先輩達は、日本総研(http://www.jri.co.jp/)、日立ソフトウエア(http://hitachisoft.jp/)、リコーテクノシステムズ(http://www.r-ts.co.jp/)などかつて専門学校生が就職できなかった企業に(SEとして、総合職採用として)就職しはじめている。学歴差別の未だに残存している日本の大企業の風土の中であなたたちの先輩がはじめて切り開いた道です。
あなたたちの先輩は、たとえ専門学校生の総合職採用がない企業であっても、自分で学んだことの内容をPowerpointにスライド化し、「ぜひ一度私と会って、プレゼンを見て欲しい」と先生と共に懇願し、早くから採用活動をはじめる企業への道を切り開こうとしてきました。
こんなことをやっているのは、全国の専門学校で、私たちの専門学校だけです。
なぜ、専門学校は、10月採用活動開始に対応する就職活動の道を選ばなかったのか。
答えは簡単です。2年課程がほとんどの専門学校の現状で、10月から就職活動を開始するためには、たった5ヶ月で18歳の学生を仕上げなければならない。しかも大学生は3年生。2年間と半年もあなたたちよりも長く(一応)“勉強している”。
20歳前後の2年の差は大変大きい。どんなに勉強していない大学生でも二十歳(はたち)を超えると落ち着きが出てきたり、“コミュニケーション”能力も向上する。アルバイトやコンパばかり2年もやっていれば、“コミュニケーション”能力がつくのは当たり前のことです。少なくとも18歳の高校出たての10月の青年よりもはるかに。
大学生と専門学校生、どちらが優秀か、という問いは最初から不公平。だから逆に専門学校関係者も最初から大学生を相手にしない(あきらめている)。専門学校生はそれなりのところに就職させればいいと考えている。そんな専門学校にはいるのなら、大学に行った方がはるかにマシでしょう。
その意味で、我々の作るカリキュラムは、最初の5ヶ月~6ヶ月で、就職活動に耐える中味を持たせています。すでに夏休みあけにSUN JAVA資格(SJC-P)を取った、あなたたちの仲間の学生が2人もいる((社会人でさえも合格率平均は40%ですが、二人とも80点以上の高得点で合格しました)。3年前は、SUN JAVA資格のカリキュラム上の目標は2年生の秋学期でした。2年前からSUN JAVA資格カリキュラム目標は1年生の冬学期にまで縮まった。そのようにわれわれは、毎年カリキュラムの解像度をあげ(あるいは圧縮率をあげ)、そして今年はすでに2人。
10月採用活動開始に対応する就職活動で、あなたがたはすでに「オブジェクト指向プログラミング」とは何であるのかを、充分に語ることができるようになっている。
そういったみなさんの努力によって、早期に採用活動を行う(専門学校生は採用しない大企業)10社に一社くらいは、会ってくれるようになってきている。実力社会はその程度には日本に浸透しつつある。そのおかげであなた達の先輩、現在の2年生は今年の5月末で早くも100%の就職率を達成しました。これは全国の大学、専門学校の中でもトップの成績だと思います。
しかしこれらの成果は、残念ながら私どもの「専門学校」というブランドではなくて、あなた達が私の学校で身に付けた技術と能力そのものによっています。
これらの一流企業は、あなたたちを1人の個人として人材として評価してくれたのです。「専門学校にもすごいのがいる」というように。これは校長としては複雑な思いです。「実力」とは基本的には個人の徴表であって、「学校」の徴表ではないからです。
日本の新卒採用の基準は、ほとんどの場合、高校卒業時(=大学入学時)の能力、つまり受験勉強の経験の有無で測られるのがほとんどです。
一流大学というのは、受験勉強をまともにした学生が多い大学ということを意味しているのであって、一流の教育を行う大学のことを意味しているのではありません。
しかし「受験勉強」というのは決して悪いものではありません。一流の大学へ入学するには、計画力や実行力、忍耐や我慢、継続性、自己の欠点や強みの認識、欠点の補正能力など社会人になっても要求される数々の心理モデルを有しています。
また、もう一つ受験勉強の特質があります。それは「遠い」ものへの意識を経験するということです。全国模擬試験や偏差値を通じて、クラスの級友(のライバル)を超えた関係を意識することになります。「遠い」もの、見えないものを制御する意識を受験勉強ではじめて経験し、それを乗り越えていくわけです。
スポーツのできる国体級の学生も全国のライバルの能力を測る実力、「遠い」ものを測る能力を備えています。「体育会」系も就職にはそれなりに強い。100メートルをコンマ何秒縮めるというのは偏差値よりも客観的な戦いを勝ち抜いていくわけですから。
そのように高等教育の入り口で日本の青年達は大企業マネジメントモデルをすでに経験しているわけです。
大概の大学生は就職活動時に、この心理モデルを反復して企業就職を可能にしています。
残念ながら、専門学校の入学生にはこの心理モデルが形成されていません。受験勉強経験がないからです。
だからこそ、大企業は「専門学校生」に関心がない。学歴差別の実際は、「東大」か「早稲田」かの差別なのではなくて受験勉強有無差別なのです。そしてその差別は充分根拠がある。
したがって、専門学校の課題は、この受験勉強モデルを凌ぐ勉強や勉強のモデルを見出すことです。そう思ってわれわれはこの学校のカリキュラムや教育体制を作ってきました。
みなさんは、コマシラバス、授業シート&授業カルテ、企業提携課題学習や役割認識型グループ学習、補習サークル、模擬試験サークルなどを通じて、受験勉強では得られない密度の高いそれでいて柔軟性の高い学習を経て、たった半年でWEBアプリケーションを作ることが出来るようになっている。すでに入学してたった5ヶ月でJAVA認定試験を合格している学生もいる。これらは18才の学生に与えられるプログラムとしては世界でもっとも優れたものだと、私は確信しています。
それでもなお、その成果は、あなた達が大学生より遅れて開始した勉強の分、遅れざるを得ない。つまりあなたたちの勉強の成果は、大学生のようにどんな「学校」に入れたかではなく、どんな「企業」に入れたかによってのみ表現できる。受験生のように学校が勉強の最終目標ではなく、企業就職が勉強の最終目標なのです。
受験勉強では負けたかもしれないけれども、企業活動の場ではじめて(あるいは再度)あなたたちは大学生と戦うことになる。
今年「日本総研」の内定を取った太田君は、内定式では7割の学生が大学院生、「日立ソフトウエア」の内定を勝ち取った広瀬君の内定式の列(7人席)では広瀬君以外のすべての学生は大学院生だったそうです。なんで専門学校生がここにいるの? という感じだったそうです。残りの連中は早稲田や東工大の学生達です。
ここであなたたちは、高校、あるいは中学、あるいは小学校の時代の連中と再度、並んだわけです。この戦いを避けてはいけない。私は教職員と共に、あなた達に「遠い」ものを見る力を育ててきた。学校の成績や試験の点数ではなく、実務の現場を見通す「遠い」もののための能力、「遠い」ものに耐えられる力です。学校の成績や勉強に安住してはいけない。今こそ試験問題を解くようにして企業選択の○×をつけるときです。そこからが競争です。
科の先生達とよく話し合って、まず1000名以上のIT企業(「開発」系IT企業)を目指しましょう。〈人材〉を本当に欲しがっているまともな企業であれば、たとえ、エントリー欄に「専門学校」がなくても必ず試験は受けさせてくれます。ここ2年間くらいの先輩達がその規模の企業に何人も行き始めています。次に続いてみなさんがもっと大きな道を切り開いてくれることを校長として切に期待しています。
これをもって“出陣”の言葉に代えます。
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「就職活動」についてメールします。
たしかに「大卒」の条件をはずさない大手企業が多い。「大卒」の条件があるから、みんな大学を目指す。
そんな中、東京工科専門学校は「大卒」を条件とする企業にアタックさせて、日本総研などに入社した学生がいる。
大学入試の敗者が「東大」や「早稲田」にリベンジさせる。そういう取り組みをほかの専門学校も取り組んで欲しいと思う。
いくら就職率が大学より高くても、名もない企業ばかり就職しても意味がない。
こんな就活をしているから高校生に見抜かれ、大学進学率は上昇し、専門学校進学率は下落する。これからも「大卒」を条件とする企業にチャレンジさせて、専門学校の模範になって欲しいと思う。