家内の症状報告(89) ― 「病人の余命は短い」というのはウソ 2007年10月08日
家内(http://www.ashida.info/blog/cat8/)は、ただいま自宅療養中ですが、現在の症状は以下の通り。
①胸から下の強いしばり(全身を締め付けるような)
②膝から下のしびれが強い
③足の深部感覚が極めて弱い(筋肉と骨の接合部の感覚が弱いため歩けない)
④(付録)あまりにもしばりとしびれが強いため、口がへの字に曲がりがち
こんな状態だから、自宅にいてもほとんど寝たきり。普通に椅子に座っていても、足のしびれが強くなるため、ベッドへの回帰能力を最後の体力として残さなくてはならないことを考えると30分が限界。行き帰りの体力測定を自宅という小さな空間でやり続けている。
普通の人にとっては、自宅内での移動は単なる〈内部〉移動だが、家内にとっては大空間移動であって、小さな距離が絶えず外部化するように存在している。
私からすれば、1日2日で飽きてしまうような自宅内が家内にとっては〈世界〉である。家内は小刻みに人生を割り算しながら、〈生〉を延長させている。
病人は人生を割り算する。病人の方が余命が短そうに見えるが、それは病人の内的時間としては嘘。1日を1年のようにして生きているのが病人だ。 だからこそ病人は早死にすることもできる。人の人生に長短などないのだ。
家内の行き帰りの割り算は、洗濯と衣類干し、食器類の片づけ、自らの朝食、昼食、トイレ、入浴(浴槽には入れない)などであるが、これらを命がけでやっているのが家内の時間。
今度はいつベッドから立てるか、椅子からはいつまでには立たないとまずいことになるのか、忘れ物はないのか、これらの自問自答が続く。
歩く感覚は、先の③項目に関わっているが再発の度に深部感覚が弱まるため、ほとんどアクロバットのようなもの。足が自分の足という感覚ではない。歩き始めて数秒経たないと足が動いている、足を動かしているという感覚が生じてこない。
家内にとって歩くことは、筋肉感覚で歩くと言うよりは、極めて視覚的な出来事だ。目で見ていないと足がどちら(前、後ろ、右、左)を向いているのか全くわからないからだ。だから、暗いところでの歩行はできない。これは障害物に弱いから(それは健常者でもそうだろう)という理由ではなく、歩行そのものが視覚に依存しているからだ。
要するに、身体の下に足が伸びているというよりは、神経の走らない無機質化した足(=骨)の上に身体が乗っており、一歩、一歩身体をその上に(いちかばちかで)投げながら歩いているというのが、家内の歩行感覚のすべてだ。これでは歩けない。
そもそも脊髄がやられているため、体感温度もまばら。時々、「今熱い?」「今寒い?」と私に聞いてきたりもする。だから身体が冷えてきているのに、その対応を遅らせると血行の停滞で(いつのまにか)しびれが強くなり、一層歩けなくなってしまう。
今年は、すでに3回再発。入院している。
一回目:3月5日~3月30日入院 パルス2クール、免疫吸着2クール
二回目:6月5日~6月13日入院 パルス1クール、免疫吸着1クール
三回目:8月18日~9月7日入院 パルス1クール、免疫吸着1クール
免疫抑制剤は、アザニン、プログラフ、ネオラールと試してきたが、それぞれ、肝機能障害(アザニン)、胃腸障害(プログラフ、ネオラール)の副作用が強く、2週間から一ヶ月半で試用を止めた。
現在、主要な“治療”は、プレドニン(ステロイド)20㎎(/日)と免疫吸着のみである。なお、再発防止のため9月22日より、プレドニン(ステロイド)20㎎から25㎎(/日)へと増量している。免疫吸着も2ヶ月に一回はやった方がいいように思える。科学的には予防根拠はないようだが、体感的には「はっきりと効果がある」と家内は言いつづけている。
2003年に発症して以来、長らく「多発性硬化症」と診断されていたが、今年になってNMO抗体検査(最近になって日本で可能になった新しい抗体検査)が「陽性」と出て、「突発性横断性視神経脊髄炎」(=DEVIC病)と診断が更新。
視神経脊髄型MS(日本型MS)と長らくの間呼ばれてきたものの内、かなりの数の患者が「突発性横断性視神経脊髄炎」(=DEVIC病)であることが、この新しい抗体検査によって科学的に判断できるようになった。
これは長らくベータフェロン治療を続けてきた家内にとっては屈辱的な診断変更だった。多発性硬化症では唯一「効果のエビデンスがある」とされているベータフェロンが、「突発性横断性脊髄炎」(=DEVIC病)の場合には、むしろ症状を悪化させる報告が相次いでいたからだ。
ベータフェロンは多発性硬化症の抗体形成にかかわる細胞性免疫のバランスを整える働きがあるが、液性免疫に関わる「突発性横断性視神経脊髄炎」(=DEVIC病)の場合には、むしろ免疫力を活性化させ自己免疫的炎症の引き金になってしまう、という研究が進んできた。
家内の場合には2年半以上ベータフェロンを打ち続け、その間も再発をくり返し症状は悪化するばかりだったが、しかしベータフェロンを止めたからと言って、症状が好転したわけではない。あと一歩で寝たきりだ。
どちらにしても「難病」であることには変わりがないし、症状も進行も「突発性横断性視神経脊髄炎」(=DEVIC病)の方が多発性硬化症よりもはるかに深刻だ。
「難病」になると医者選びや病院選びに神経質になる人が多いが、しかし「難病」に名医などいるはずがない。治せない病気に「名医」がいるとしたら、それは「難病」ではないではないか。
(version 2.0)
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私も同じ抗APQ4抗体陽性のDEVIC病であると診断されました。
ベタフェロン使用中、視神経炎を起こし、セカンドオピニオンで病院を変えたところ、そんな検査があったことを始めて知りました。ベタ開始前に抗体検査をしていれば、こんな視界にはなっていなかったのでは、と思うと、悔やまれてなりません。
現在は視力は回復したものの、視界は砂嵐のような感じです。
最近は脊髄に炎症を起こし、胴回りの締め付けと痛みと戦っております。パルスである程度は回復しますが、症状は積み重なって残っている感じです。
再発予防として、イムランを使用中です。最近耳にしたのですが、FTY720という薬をご存知ですか?冬虫夏草から作られたそうなのですが、かなり再発抑制効果があるのこと。まだ海外での治験の段階らしいのですが、日本ではどうなのでしょう。
そしてDEVIC病でも効けばいいのですが・・。何か情報はありますか?
奥様の一日の行動に対する割り算。良くわかります。朝起きて今日何が出来るか、どこまで出来るか。考えないと行動できなくなってしまった体が情けなくて、何度も普通に戻りたいと泣きましたが、もう適応していくしかないんですよね・・
私だけではないんだと、頑張りたいと思います。
長々すみませんでした。
>君は魚さん
「FTY720」は知っていますが、副作用がきついとも聞いています。まだ試してはいません。最近、私に「NMO陽性」の方から連絡があり、「免疫グロブリン」が「良く効いて再発も止まっている」と連絡がありました。ただしこの薬は諸条件が整わないと(少なくとも)一回10万円以上かかります。
DEVIC病とMSとの診断間違いは、特にベータフェロンを処方されていた場合にはきついですよね。私の家内は2年以上ベータフェロンをいやいや打っていました。
NMO抗体検査は、最近のことで、二つの病気の差異がその検査で科学的にわかるようになったとはいえ、MSとDEVIC病の病変の出方はあきらかに違うのですから(高年齢の女性に多い、病変が大きい、空間的多発性がない、一回の再発での障害が大きいなどなど)、それを疑う眼を医師や病院はもっていても良かったと今さらながら思います。
お互いこれからも苦労(と悩み)は多いと思いますが、頑張りましょう。
芦田様
先日六本木ヒルズで開催されたMSセミナーに行ってまいりました。自宅から少々距離があるので、(いや普通の方なら何てこと無い距離ですが)午後の部から参加いたしました。
全国の神経内科のMS専門?の良く聞く名前の先生方が多数居られてびっくりしました。
結局自分なり得た事と言えば、MSとNMOは違う病気と考えましょうとハッキリとおっしゃられていた事だけで、「そんなの考えりゃわかるよ!」「ではどうしたらいいの?」「新薬はいつ?」など逆に頭を悩ますセミナーでした。
芦田様のHPを拝見してる方がよっぽど為になるなあ・・・なんて、必死に研究されている先生方に失礼ですよね。
毎年行われているようですが、次の開催の前に何か動きがあればよいと思います。1年は長すぎます。私は35歳です。家庭もあり、やらなければいけない事がたくさんあります。その間にまた再発再発でどんどん悪くなり、何も出来ない自分になってしまいそうで本当に怖いのです。
今日も元旦からパルス1日目でした。脊髄の炎症です。痛くてたまりません。
愚痴ばかりですみません。本当にごめんなさい。でも誰にも分かって貰えないのです・・・。奥様はいかがですか?
>君は魚さん
家内の調子は最悪ですよ。後一歩で寝たきり、という感じかな。
昨日の紅白も、椅子に座って最後まで見られるか、心配でしたが、なんとか付き合っていました。足の硬直が強くて曲がらないみたいです。
最近は、1日に20時間以上はベッドの中にいます。ベッドの中にいても全身が痛いようで、なかなか眠れないみたいです。他人からはなかなか分かりづらい病気で、こちらも気にするときりがないので、ただいま、家内との付き合い方を“研究”中です。