CD収録するならWAVエンコードをおすすめします ― 160GB iPodの誕生とカーオーディオの現在、そして家内の退院 2007年09月08日
最近、久しぶりにクルマのオーディオをいじった。
もう6年も同じクルマに乗っているが、大概、私は買った途端にカーオーディオをいじる。純正の音では(私のような貧弱な耳でも)耐えられないからだ。
ところが、最近の純正カーオーディオは、簡単にはいじれない。
カーオーディ機器規格には、DIN規格(http://ja.wikipedia.org/wiki/DIN)というものがあって、少なくともプリアンプ部(音質やボリュームを制御する部分)の縦横の大きさが決まっており、ALPINE(http://www.alpinef1status.com/j/products/items/dvi-9990j.html)、PIONEER(http://pioneer.jp/carrozzeria/products/dex_p01_2/index.html)、NAKAMICHI(http://www.nakamichi.co.jp/ )といった高性能なプリアンプを後付でつけることができた。これらのプリアンプ自体がDIN規格(少なくとも大きさが同じ)で出来上がっていたからだ。
これがクルマを買うことのもう一つの楽しみの一つだった。
同じプリメインアンプ(音質やボリューム回路など信号の初期品質を決める装置)、パワーアンプ(プリメインアンプの信号をスピーカーを駆動するまでに増幅する装置)、スピーカーでも、クルマが違えば音も違う。音もクルマの印象と共にクルマの印象自体を決めている。その意味で、カーオーディオもクルマのパーツの一つだと言える。
ところが、最近のクルマのオーディオ操作部は、DINサイズの区画が存在していない。ダッシュボード部分は、クルマの操作系と一体化しており取り替えが効かない。というより、ナビゲーションなどの標準装備化が進み、ナビの操作系の中に渾然一体と入り込んでおり、DINサイズのかけらもない状態になっている。
HDDディスクナビの普及が、HDDで音楽を聴くということといつのまにか融合。そこにiPodが入り込んできたから(iPod対応ナビ、iPod対応カーオーディオ)、利便性が高性能化を凌いでしまった。
これでは音はよくならない。良くしようと思えば、かなりの手をかけて改造を行う必要があるが、そうなると機器自体にお金をかけた分と同じくらいの取り付け工賃を支払うことになる。いわゆる「ナカミチ&レカロショップ」という職人集団の店で頼むと大概そうなる。
この種の店では、(たとえば)10万円のプリメインアンプを取り付けるのに、(大げさに言えば)プラス10万円の工賃が必要。しかもアンプ類やスピーカーなど機器自体は定価販売が前提。ふざけるなよ、と言いたくなる(さらに、この連中は取り付けと接続はできるが、音楽や音は全くわからない。最後には「好きな音、いい音は人それぞれ」と言って逃げはじめる)。
それにいくら上手な業者に頼んでも、もとのデザインにはかなわない。綺麗に付いてはいるが、デザイン的に元の印象よりも良くなるということはありえない。
これはどう考えても不合理だ(私はそこまではやりたくない)。そういうことをやる連中を私は「成金のベンツおやじ達」と言うことにしている。
私の考えでは、純正オーディオのプリメイン部にカーメーカーがそれほどお金をかける気がないのなら、メーカーは少なくともDINエリアを残しておくべきだ。
最近は音楽については、自宅のホームオーディオで聞くと言うよりは、街中での移動中に聞くことの方が多い。これは70年代にSONYのウォークマンが創り出した文化だ。
イヤーレシーバーでさえ、最近はどんどん高性能化が進んでいるというのに(http://www.sony.jp/products/headphone/special/mdr-ex700sl/index.html)、クルマのオーディオが高性能化に背を向けているのは理解しがたい。
私の場合は、だから、とりあえず、パワーアンプとスピーカーを変える。純正のダッシュボードデザインを変えずに音を良くするにはこれしかない。
しかしパワーアンプもスピーカーも、プリアンプが最初に出した音を前提にしているわけだから、プリメイン部が粗悪だといくらお金を投資しても意味がない。悪い音を増幅しているだけのことだ。
問題は振り出しに戻る。純正プリメイン部のダッシュボードの造形をいじらないで、どうやって音を良くすればいいのか。
純正の音声出力をALPINE、PIONEER、NAKAMICHIなどの専用プリメインアンプのAUXに落とし込み、スピーカーやパワーアンプを専用プリメインアンプにつなぎ直すしかない。
問題は、このALPINE、PIONEER、NAKAMICHIなどの専用プリメインアンプをクルマのどこに置くかということだ。ボリューム操作、音質操作、セレクター操作を行うわけだから、ドライバーのそばに置かなくてはならい。
しかし、横180センチ近く、高さ50センチ、奥行きが170センチ近くあるDINサイズのプリメインアンプを置く場所などドライバーの操作を前提にすれば、ダッシュボード部にはない。
そこで最近は(今年の5月)、PIONEERのAXM-P01(http://pioneer.jp/carrozzeria/products/axm_p01/index.html)のような、プリメインアンプの操作部自体を分離したような製品が出てきた。縦横はDINサイズだが、奥行きは2センチもない。携帯電話よりも薄い。これなら、たとえば、センターコンソール、サンバイザー、ルームミラー付近の天井にでもつけることが出来る。本体自体は足下かどこかに隠せばよい。
しかしこれは高すぎる。136000円もする。昔のNAKAMICHIのデッキに比べれば安いが、今では高い。「成金ベンツおやじ達」の価格帯だ。
それにカーオーディオは高い、安いがなかなか音質の向上に反映しない。正確に言えば、安い方は反映しやすいが、高い方は反映しづらい。
PIONEERのAXM-P01には興味があったが、お金のない私は、手を出せないでいた。でも気になる…。どんな音がするのか、「そんなこと聞いてもあなたにはわからないよね」とすでにPIONEERお客様相談センター」のお姉さんに語りかけていた私。
そこでPIONEERショップを紹介してもらったが、その中の一つに杉並・早稲田通り沿いにある「サウンドファクトリー アルピット」(http://www.alpit.co.jp/)があった。
ここは、6年前、私が今のクルマにアンプとスピーカーを付け替えてもらったところだ。電話をしたら、その当時の私の担当、中村さんはすでに辞めていて、工場長の朝賀さん(http://www.alpit.co.jp/staff/index2.htm)が出てきた。「AXM-P01と同じことは,DEH-P910(http://pioneer.jp/carrozzeria/products/deh_p910/index.html)でもできるよ」と言い始めた。
「DEH-P910でも、操作部が本体と分離できるから、どこにでも設置できる」とのこと。の操作パネル部はもともと盗難防止のために分離できるようになっているのだが、分離すると操作はできない。「でも、うちは、分離パネル部と本体をつなぐ配線ができるから大丈夫ですよ」と朝賀さん。
DEH-P910は、AXM-P01のおよそ半額。それでもバーブラウン製の24bit アドバンストセグメントD/Aコンバーターを3基も独立搭載している。これは専用ホームオーディオ並のスペック。少しその気が起こってきた。しかもiPodも直接つなぐことが出来る。ますますその気が起こってきた。
そこで久しぶりにアルピットにクルマを持ち込んで、DEH-P910で、システムを再編してみた。私の場合は、操作パネル部はセンターコンソール(写真参照のこと)。厚さが2センチもないためこんなところにでもつけられる。コンソールはこのまま前後にスライドもする。驚異の取り付け位置だ(エライ!)。
本体は助手席足下。小さな無線操作リモコンはダッシュボードの純正ボリューム操作ボタンの隣につけてみた(写真参照のこと)。これなら余り気にならない。この位置でも見事にリモコン無線が繋がる(エライ!)。
朝10:00に持ち込んで夕方18:00には出来ていたが、早速(どきどきしながら)音を聞いてみた。最初に聞いたのは、iPodに収録した曲(MP3・192kbpsでエンコーディングしたファイル)。
ところが、全然良くない。「やせた音しか出てないね」「中域が細すぎる」と私は言ったが、朝賀さんはその音を聞かずに黙っている。
そこで一緒にその音を聞いていた浅賀さんのスタッフ小川さんが、店のCDを持ってきて、DEH-P910本体のCDプレイヤーでかけてみた。
これがすばらしい音だった。「そのCD、なんか細工してるんじゃないの?」と私が疑うくらいにいい音だった。「結局、またCDばかりを持ち歩くことになるのかな。不便だよね。iPodでは限界かな」。「AAC(http://ja.wikipedia.org/wiki/AAC)でエンコードした方が音はいいですよ」と小川さん。「そんなに違う?」「と思いますけど」。
なんだか複雑な気持ちでアルピットを後にしたが(実際の気分は暗かった)、よしこうなったらAACの高ビットレートですべてのCDをエンコードし直そう、と決意した。
私の今のiPod(60GB)には、MP3(http://ja.wikipedia.org/wiki/MP3)でエンコードした128kbps、160kbps、192kbpsのファイルが混在している。初期のiPodは20GBしかなかったから、すべて128kbpsでエンコードしている。その後40GB、60GBとHDD容量が多くなるにつれて、よく聞くアルバムを優先的に160kbps、192kbpsへとエンコードし直してきた。
iPodでは、128kbps「標準」音質、160kbps「良音質」、192kbps「高音質」となっているが、今回のDEH-P910では192kbpsでも「高音質」とはとても思えなかった。
128kbpsで聞いていた音と変わらない。悪い音を聞くにはもともとプアーな音響機器の方がいい場合がある。微細な音を再生できない分、力感があったり、音像に統一感があって、逆に音が良く聞こえるからだ。
そこで今回は、思い切って、AACの「カスタム」モードの最高音質320kbpsでエンコードすることにした。
同じ(お気に入りの)CDアルバムを、これで4回もエンコードし直している。何と退屈なことか。
最近、iPodを購入した人には、私は、いつでも最高音質でエンコードすべきだ、と言うことにしている。というのもHDDはどんどん高容量化し続けているのだから、容量を気にして音質を落とす意味はないからだ。結局私のようにiPodの新製品が出る度にエンコードし直すことになる。馬鹿らしいことだ。
ところが、AACの320kbpsもDEH-P910の再生には耐えられない。MP3の192kbpsとの違いが簡単にはわからない。
また暗くなってしまった。
そこで今度はWAV(http://ja.wikipedia.org/wiki/WAV)でエンコードすることにした。こうなったら非圧縮でエンコードするしかない。
たとえば、宇多田ヒカルの「AUTOMATIC」をWAVエンコードすると55.2MB必要になる。これがMP3の128kbpsだとたったの5.1MBで済む。実に10分の1まで圧縮されている。AACの320kbpsエンコードすると12.7MB。WAVファイルは1411kbpsだからいかに容量を食うかよくわかる。
要するに1GB使ってもCD2枚しか収録できない。
しかし、これが価値がある。DEH-P910は、iPodであってもWAVファイルで鳴らすと実にいい音を出す。
「いい音」とは何か。
一番わかり安いのは、同じ楽曲の同じ箇所だのに、これまで聞こえていなかった音が聞こえてくるということだ。ピアノの微少音はもちろんのこと、シンバルやトライアングル、カスタネットの微少音が聞こえてくる。これはなかなか快感です。
他にも「いい音」を表現するレトリックはいくらでもありますが(たとえば、音の立ち上がり感がいい、力感があるなど)、これが一番わかりやすい。
WAVファイルを再生して、はじめてDEH-P910を買った意味が出てきた。
そこで、(調子に乗って)お気に入りのアルバムをまず500曲近くWAVファイルにした。それだけで22GBも使っている。たった500曲でだ。
これまで私のiPodは、iTunesのライブラリすべてを収録してきたが、もはや無理。iTunesのライブラリには約5000曲あるが、MP3、AAC、WAVファイルすべて含めて85GBの容量を食っており、もはや私の60GBiPodには入らない。
悲しいことに、WAVファイル化した楽曲だけにチェックマークを付けて同期を取る状態。私のiPodは、今ではWAVファイル専用機になっている。要するにCDと同じ音質の500楽曲(約40枚のCD)をiPodで持ち歩いているということだ。しかしあれだけ高容量に見えた60GBiPodもCD100枚前後しか入らないということだ。これでは面白くない(※)。
※ところが、9月5日 iPod classic(http://www.apple.com/jp/ipodclassic/)が発売された。なんと160BGの容量がある。これでもWAVファイルだとCDは300枚しか入らないが、正常進化ではある。SONYは何しているのか。
しかし、DEH-P910とiPod=WAVファイルとの相性は抜群で毎日車に乗るのが楽しい。何度も聞いていたお気に入りの曲に毎日新しい音を見つけて楽しんでいる。
※WAVファイルで聞いているのだから、音がいいのは当たり前、などと言うなかれ。純正オーディオのプリメインアンプではMP3の128kbpsとWAVの1411kbpsの音の違いは(なさけないくらいに)出ない。
そこで、今日(7日)は、家内の退院の日。持病の再発(これで今年だけでも3回の再発)。夏休みの終わり8月18日に入院して(これは例の天然記念物ヤマネを殺したたたりだ…)、今日退院となったが、驚かせてやろうと、今回のDEH-P910の入院中の購入・取り付けは(我慢に我慢をして)黙っていた。
最初は、センターコンソールの操作パネルを見つけられたら元も子もないと思い、スーツの上着を何気なく被せておいたが、それだとリモコンが(受光部が被われているために)機能しない。一瞬焦ったが、車が走り出して、家内が前を見るようになってからさりげなくスーツを取り去った。
病院のある新宿・河田町で家内を乗せて外苑東通り→外苑西通り→首都高「外苑」と10分くらい走るが、家内は気づかない。病院の出来事を話し続けている。私はそんな話しには上の空だが、聞くふりはしないといけない。下手な気付かれ方はされたくないからだ。
首都高に乗って初台を超えてもダメ。音の良さがよくわかる曲を探し出すために、どんどんチャプター送りをするが(ほとんど30秒前後で早送りしていたが)、バッハのチェンバロ協奏曲が出てきてもダメ。
そうこうするうちに、もう高井戸。家に着いてしまう。このまま八王子まで走ってやろうか、と思ったが、退院の当日にそんなわけにもいかない。いっそのこと、「音良くなったと思わない?」と言おうかと迷ったが、そんなこと意地でも言わない。
そもそも退院したてで、外へ出ることなど、この入退院の機会しかない家内にとって、音楽はどうでもいいことだが。いつも自分が元気で歩いていた風景を見ることばかりに関心を向けている。時には風景を見るだけで勝手に泣いていたりもする。今日もそうだった。
そんな家内に打ち勝つ音を出すのは大変だ。もともと「クラッシックに音質は関係ないわよ」と豪語する家内だから余計に厄介。
結局、首都高を降りて環八に合流。甲州街道に入る手前(自宅まで後5分)で、私が我慢しきれず「音、変わったと思わない?」と言ってしまった。もはや半分敗北した気分だった。
「そう言えば」と言い始める家内の言葉を私は遮った。「言われてみれば、じゃね」と私はふてくされていた。「ゴメン」と家内。余計に惨めになる。
「そう言えば松任谷正隆が新車に(黙って)乗り換えて、ユーミンをそのクルマにはじめてのせたとき、『クルマ変わったと思わない?』と言わざるをえないほどユーミンがクルマに鈍感だった、という話しがあるよね」と私は笑うしかなかった。
本当なら、「あれっ、音が違わない? また何かしたでしょ」「えっ、そう思う」「何か違うよ」「これ、見てよ」とか言いながらセンターコンソールをさりげなく指さすのが私のストーリーだった。それもこれも今となっては見果てぬ夢。
こんな家内に予告なくいい音を感じさせるためには、100万円以上かけなくてはならない。そう言ったら「それだけで、また私は病気が再発するわよ」と言われてしまった。何だかわけのわからない退院の日だった。
(Version 5.2)
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