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  阿久悠が死んだ ― 代表作は誰がなんと言おうと『ざんげの値打ちもない』(1970年) 2007年08月02日

阿久悠(http://www.oto.co.jp/otoakuyuu.html)が死んだ。「どんな友達に対してもいつでもいつまでもちょっとした悪友でいたい」とペンネームの由来を語っていた阿久悠が死んだ。

彼の代表作は1970年に発表された『ざんげの値打ちもない』に決まっている。北原ミレイも個性的だったが、その歌詞の迫力はぞっとするほど圧倒的で斬新だった。


あれは二月の 寒い夜
やっと十四に なった頃
窓にちらちら 雪が降り
部屋はひえびえ 暗かった
愛というのじゃ ないけれど
私は抱かれて みたかった

あれは五月の 雨の夜
今日で十五と 云う時に
安い指輪を 贈られて
花を一輪 かざられて
愛と云うのじゃ ないけれど
私は捧げて みたかった

あれは八月 暑い夜
すねて十九を 超えた頃
細いナイフを 光らせて
にくい男を 待っていた
愛と云うのじゃ ないけれど
私は捨てられ つらかった

そしてこうして 暗い夜
年も忘れた 今日のこと
街にゆらゆら 灯りつき
みんな祈りを するときに
ざんげの値打ちも ないけれど
私は話して みたかった

1970年、高度成長で熟し切ったこの時代。日本人すべてが戦後を忘れ去ろうとしていたこのときに、「すねて十九を  超えた頃」「細いナイフを 光らせてにくい男を 待っていた」女がいた。そんな馬鹿な。こんな女はもはや存在しない時代だった。

「やっと14になった頃(…)抱かれてみたかった」「今日で十五と 云う時に安い指輪を 贈られて 花を一輪 かざられて (…)私は捧げて みたかった」。こんな風景は戦後復興の時期、昭和20年代のものだ。

女性が最初から大人でなければならない暗い時代を阿久悠は1970年代の日本人に対置した。すでにこのときに、おニャン子クラブ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%83%8B%E3%83%A3%E3%83%B3%E5%AD%90%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96)やモーニング娘。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E5%A8%98%E3%80%82)なんてくそ食らえ、と阿久悠は叫んでいたのだ。

おニャン子クラブやモー娘。の「あいつらはかわいい顔して実は不良」なんていう知ったかぶりを粉々に砕くだけの感性を阿久悠はすでに1970年に獲得していた。

私は、そういった感性が好きではないが(基本的にはこの感性は体育会系だ)、経済成長で社会全体が無反省に幼児化しつつあるときには、充分なカウンターパンチだった。

この歌が流れてきたとき、私は16歳の高校一年生。彼のデビュー作である67年の『朝まで待てない』(ザ・モップス)、69年の『白いサンゴ礁』(ズーニーブー)には何も新しいものを感じなかったが(二曲ともよく口ずさんでいたが)、この『ざんげの値打ちもない』(70年)はぞっとするほどに新しい詞の誕生だった。歌手は顔ではないと素直に思える北原ミレイの歌唱もすごかった。

阿久悠は高度成長と共に成長できない自分に苛立っていたのだ。それがこの決定的に新しい詩と歌手を生み出した。学生運動の盛んな大学で北原ミレイが呼ばれて歌うのも理由のないことではなかった。

「あれは」と始まる旋律もよかった。こんなに上手に「あれは」と歌い始める歌もない。この感じは1973年『ジョニーへの伝言』(ペドロ&カプリシャス)の「そこのところ」というフレーズ(「友達ならそこのところうまく伝えて」の「そこのところ」)にも繋がっている。

「そこのところ」なんて言葉を歌(歌詞)にできるのは阿久悠しかいない。「そこのところ」という言葉が歌詞になるなんてかつて誰が想像しただろうか。

「あれは」と「そこのところ」を歌詞にできるそんな阿久悠が死んだ。合掌。

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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