就職活動と採用面接に於ける「コンピテンシー(competency)」とは何か ― 「コンピテンシー」とは論理整合性ではない。 2007年05月14日
人材採用評価において「コンピテンシー」という言葉がある(ハーバード大学のDavid.C.McClelland教授グループの提案がその起源らしい)。
この間もオラクル社で人事担当だったSさんが学校訪問され、その言葉を連発していた。
「企業は採用するときに、その学生の何を見ていますか?」という私の問いかけに「コンピテンシーですね」と一言。「コンピテンシー(competency)だけを見てます」(Sさん)。
「コンピテンシー(competency)」という英語を聞いたとき、私の頭の中にはなぜか「反応対応能力」というイメージしかなかったので、「なるほど。面接の場面でのWHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)ですね」と応えたが、Sさんも「そうです」とのこと。
※「コンピテンシー(competency)」は、私の手元にある辞書では、
1.能力、力量、(適任者の)資格、適正
2.生活に不自由しない程度の資産
3.十分、十分な量(sufficiency)
4.《法律用語》(官庁・裁判所などの)権限、権能、管轄(管轄権)
5.《生物》(外部の変化に応じる肺胞細胞の)反応力(反応性)
6.《言語》言語能力(母国語を話し理解する能力) となっている。
「そうです。たとえば、大学生が『自分はクラブ活動を熱心にやってきて、主将も務め、人をまとめる能力がある』と言ったときに、「なぜ、人をまとめる能力があると思ったの?」と採用側が聞く。
いろいろと聞いていくうちに、結局「副主将が優秀だった」とか、伝統のあるクラブで「OBとの交流の深さ」がチームに統一感をもたらしていたとか、そういった話しが出てきた。結局「まとめる能力」は、「この学生自身の能力ではない」ということが明らかになっていく。「そういうことは面接の場ではよくあるんですよ」とSさん。
つまり、この学生の発言(『自分はクラブ活動を熱心にやってきて、主将も務め、人をまとめる能力がある』)には「『コンピテンシー(competency)』がない」(Sさん)。
WHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)をくり返していくうちに、その学生の言葉に矛盾があること(=一貫性がないこと)が暴露される。
しかし話を聞いていくうちに、私の中で思い付くことがあった。その学生の破綻は論理的な矛盾なのではない。面接試験におけるWHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)は論理的な問いかけなのではない。コンピテンシー(competency)は、rationality ではないのだ。
コンピテンシー(competency)におけるWHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)は、「人をまとめる能力がある」と学生が言ったときに、その当人が自分のどんな具体的な特性や行動を通して、そう認識しているのかを知るための WHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)なのである。
「コンピテンシー(competency)」を問うということは、単なる知識や能力の整合性を問うのではなくて、知識や能力の発現形態(=知識・能力と実際の行動との関係)を問うということだ。
「コンピテンシー(competency)」は論理性に関わっているのではなく、逆にリアリティに関わっている。論理的に説明できない、というのは、実際はそうではなかった、という判断根拠になっているのであって、論理能力の有無ではない。
それは言ってみれば、犯人を追い込む犯罪調査のようなものに似ている。犯行現場の再現性はまさに容疑者の発言の「コンピテンシー」に関わっている。そこでは整合性がないことは、論理性がないことではなくて、ウソ(=事実ではない)ということである。
だから、短い時間で正しい人材評価を行わなくてはならない面接官は、論理性ではなく、「コンピテンシー(competency)」を問う。それが実体評価だからだ。WHY(なぜ)-BECAUSE(なぜなら)をくり返す「コンピテンシー(competency)」は、あえて言えば、行動評価なのである。
学生を送り出す側の学校から見れば、(私の思うところ)就職指導課題は以下の2つ。
1)就職面接ノウハウ論は本来のコンピテンシー評価の前では通用しない。「コンピテンシー(competency)」評価は、そういった就職面接ノウハウを破壊するためにある。
2)実力をつけさせるだけではなく、その実力の形成過程に対するセンスや形成過程の再現能力を身に付けさせる必要がある
私には、色々とためになる「コンピテンシー(competency)」提案だった。
(Version 1.0)
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