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 “一見客”をいやがる散髪屋に出会った ― 特にかゆいところありませんか? 2006年08月11日

今日は、お盆休みの一日目。毎年、お盆休み一日目には、クルマの“サマーチェック”を行うことにしている。何のことはない。昔で言う「半年点検」のことだ。環八の三本杉陸橋のそばにあるサービス店(瀬田交差点から最近移転した)に持ち込んだ。

今、明細を見てみると「冷却水の濃度」「前後のブレーキパッド残量」「タイヤの残り溝量」「タイヤ空気圧」「バッテリー充電状態」「オイル交換」「オイルフィルター交換」など一般的なものだ。

オイルはいつも持ち込みで、私はいつもカストロールの0W―40(Formula RS Zero)を使っていたが(http://www.castrol.com/castrol/productdetailmin.do?categoryId=82927408&contentId=6500292)、最近その新しいバージョンEDGEというのが出たらしいので、それを使うことにした(http://www.castrol.com/castrol/productdetailmin.do?categoryId=9010772&contentId=7019721)。

もともと、私の車は、カストロールの0W―30を指定されているが、前のクルマは10W-60を使っていたこともあって、高温側が30では不安でしようがなかった。でも0Wオイルは、高温側に高いものは少ない。街中を走る限りは、40で充分だろう。もともと0Wオイルは、2000キロを超えると一気に性能が落ちると言われてもいるが、でもエンジン始動時の保護には最適なように思える。大概のクルマのエンジンは始動時でダメになっているからだ。少しは高いが、無理をしてでも0Wオイルを使った方がいい。

サマーチェックは予約しておいたが、2時間30分もかかるというので、そんな中途半端な時間をどう過ごすのか、考えてみた。店内で一時ノートパソコンを開いて仕事の続きをし始めたが、店内にいる顧客がいい年をしているくせに遊び人風情の顧客ばかりだったので、こんな連中と一緒にされたらたまったものではないと思い、おもむろに(パソコンの電源を切りスタンバイ状態で)店を出た。

そうは言っても、ここは駅から遠い。用賀駅(東横線)までは20分はかかる。千歳船橋(小田急線)までもそれくらいはかかる。だから本屋に行くわけにはいかない。

そう言えば、関東中央病院(http://www.kanto-ctr-hsp.com/)がそばにある。今日は、例の慈恵病院の鼻の手術後の検診日で(未だに月一回通っている)処方箋をもらったが、まだ薬を受けとっていなかった。診療直後の病院の傍の処方箋薬局はいつも混んでいるので(30分はかかる)、私は大概は職場の傍(そば)にある薬局で交換しているが、今日からお盆休み。ここなら関東中央病院があるので、その傍に処方箋薬局があるに違いない。

関東中央病院を通り過ぎて2分ほど歩くと世田ヶ谷通り沿いに、処方箋薬局(桜ヶ丘中央薬局)を見つけた。オノン、アレグラ、セレスタミン、リボスチン点鼻液など全部で9000円近く。毎月術後の薬代だけでこれくらいの出費がある。後、どれくらい通わなくてはならないのか。

1月の手術以来(http://www.ashida.info/blog/2006/01/post_113.html)、私の鼻の経過は順調で、ティッシュペーパーからも開放され、鼻をかむこと自体から開放されたが(快適そのもの)、やはりまだたまに鼻腔内にむくみ(ポリープの初期症状)が出る場合がある。セレスタミン(ステロイド)を隔日投与にするとむくみが出る。しかしいつまでもセレスタミンを投与するのもよくないし、難しいところだ。今日も主治医との打ち合わせで、隔日投与状態を続け、もしかさぶたが出来るようであれば、数日連続で投与するようにしましょう、ということになった。

さて、この薬局で薬を手に入れたのは良いが、しかし、まだクルマを預けて20分も経っていない。どうしよう、と思っていたら、いいことを思いついた。散髪屋に行こう。いつもの散髪屋(http://www.ashida.info/blog/2001/11/post_24.html)には遠すぎて行くわけにはいかないが、今日はお盆休みの初日。失敗してもお盆明けの頃には、いつもの髪型に戻っているはず。私は、ここ20年来散髪屋を変えていないが(というか、そういったことは、出来ないタイプの人間)、今日は休み初日で気が大きくなっていたのかもしれない(気持ちがハイになっていた)。なぜか、散髪屋に、どこでもいいから行きたくなっていた。

そもそも、こんな時間に散髪を済ませられるというのは最高のタイミングではないか。貴重なお盆休みにわざわざ散髪で時間を取られるのももったいないではないか。散髪というのは、気持ち的には半日がダメになる気分だから、このクルマ整備の時間待ちで散髪が済ませられれば、得なこと、この上ない。

そこで、薬局を出て、世田ヶ谷通り沿いを歩いている地元住民風の人に「このあたりに散髪屋はありませんかね」と聞いてみたら、一人目でピンポーン。「環八の方へ50メートルほど行けばありますよ」と教えてくれた。

その散髪屋は世田ヶ谷通り沿いの小さな角にあった。初めての散髪屋というのは、初夜を迎えるのと同じくらいの緊張感がある。意を決して入った。

誰も客はいない。2客の席しかない。10畳くらいの小さな店だ。真っ先に主人と目があった。お互い3秒くらい見つめ合ってしまった。主人といっても20代後半から30代前半。まったく理髪店の主人には見えない男。突然お父さんが死去して、学業半ばに挫折。不本意に家業を継いだ風の男だった。

その男にじろじろと見られる。私は思わず「やっていますか」と聞いてしまった。そう聞かざるを得ないほどにじろじろと見られてしまったからだ。八百屋だのに、散髪をお願いしているほどの勘違いをしたようにじろじろと見られたからだ。

「やっていますか」と言ってもすぐには口を開くふうでもなかったので「スミマセン。初めてなんですけどよろしいですか」としらける間を埋めるように続けた。「どうぞ」とやっと席を案内された。

すわって、開口一番、「お客さん、毎回店を変えているんですか」と聞かれた。私は、この言葉ですべてがわかったような気がした。この店はなじみの客しかとらない店なんだ。大失敗ではないか。まるで京都の「一見客」(イチゲンの客)はとらないお茶屋(http://www.studio892.com/gion/ochaya.html)に間違って入ったように思えてきた。じろじろ見られた意味が今頃わかってきた。

「いやいや。変えたりはしませんが、たまたまクルマの点検整備で時間ができたものだから、飛び込んでしまいました。スミマセン」。もう冷や冷やものだ。私は、無愛想な40、50歳のご主人なら、そんな散髪屋もいるだろうとあきらめられたが、若い将来のあるこの男が馴染み客しか取らないというのが不思議でならなかった。それに決してはやっているふうの店構えでもないのだ。

「髪の形、どうします?」

「この現在の髪の毛の一ヶ月前くらいの状態にして下さい」。そう言うのがいちばんわかるかな、と思ったら、そうでもないらしい。まだ不機嫌そうだ。

「刈り上げてますか。バリカンとか使っていましたか」とまだ聞いてくる。そんなことくらい散髪屋であればわかるだろ、と思ったが、ここはおとなしくしていなければならない。すぐにでも追い出されそうな感じだ。

「使っていますよ。そんなに深く刈り上げている、という感じでもないですが」と気を使いながら答えた。

でもまだ「ウーン」と唸りながら生え際を観察しまくっている。

「夏ですから、少しくらい短くなってもいいですよ。耳からもいつもは1センチくらいは離れていますよ」と必死になって若い主人のやる気を起こさせようとしていた。

おもむろにバリカンを当て始めたが、やはり、いつもの散髪屋とはやり方が違う。私も不思議な感じだ。今日は暑い日だったが、店に入ってからも緊張から汗が引かない。右目に大粒の汗が何滴も入ってきて痛い。いつもなら拭いてもらうが、今日はそうはいかない。我慢していたら、真っ赤に目が充血している。目の前の鏡ではっきりわかる。右目がウサギのような目になっている。なんとかしてよ、という気持ちは私にはまったく起こらなかった。それより、(右目を真っ赤にして)変な客だ、と思われる方がはるかに心配で、この目を隠したかったが、マントで被われているから“手が出せない”。最悪だ。

主人は、そんな私の内的な葛藤にお構いなしで、「一見客」の私の髪に没頭している。

そこへ、なじみの客がひとり入ってきた。私の方をちらっと見たが、主人は「40、50分はかかるよ」と蹴散らすふう。ところが「いいよ、待ってるよ」と高校野球を見はじめた。しかしなじみ客の割には、何も話そうとしない。静かに時間が流れる。それがまた異常。近所の散髪屋(地域の“コミュニティセンター”)、というわけでもないようだ。まずます父の急逝で不本意に引き継いだ仕事、という感じがしてきた。

ひょっとして、この主人理容免許持ってるのか? また不安になってきた。そもそも理容料金表が店内に貼ってない。組合(理容組合)にも非加入か。出るときにぼったくられたらどうしよう。

そう思っている内に、この客(40歳前の職人ふう)はいったん黙って外に出た。私はショルダーカバンに詰めた私の財布が気になってきた。よく考えると、散髪屋というのはカバンを髪を切る席にまでは持ち込めない。大概は、待合い席に置いたままだ。待っている客が待合い席の私のカバンに何もしてもどうしようもない状態に、私はある。この客と主人が組んで壮大な犯罪を繰り広げようとしていたら、私はどうなるのか?

客は10分くらいして戻ってきたが、そんなことでは私は安心しない。盗んだカードの番号を転記している時間としては、充分な時間だ。そう思っている内に、もう一人同じ風采の客が入ってきた。この三人(主人、最初の客、次の客)何もしゃべらない。「一見客」を嫌う店にしては、会話がなさ過ぎる。余計にあやしくなってきた。この三人が一挙に私を襲ってきたら、もう私はおしまいだ。とんでもないお盆休み初日になってきた。

もはや髪を切っている場合ではない。主人はそんな私の内心にお構いなしに髪の毛を切り続けている。ほとんど切り終わり、携帯三面鏡を私の後ろ髪にあて、「こんな感じですけど」と言う。私はそんなこともうどうでもいい、という感じで「いいですよ。充分です」と思いっきり愛想良く答えた。「バリカンも1センチくらいしかあてていないし浅めにしか苅ってませんよ」と言う。「いいですよ」。

クビの生え際を剃り始めた。私は、髪を切られながら、今日は、髪の毛を切るだけで(洗髪せずに)追い出されるかもしれないと思っていたから、生え際の毛剃りから、どう展開するかも心配だったが、「髪の毛も洗いますか」と言われてほっと一安心。「お願いします」とせがむように答えた。

髪の毛を洗い始めたら、思ったことが一つある。やけに丁寧だ。かゆいところに手の届く洗髪だった。そう思っていたら、「特にかゆいところありませんか」とかつて一度も問いかけられたことのないような親切な声をかけられる(後で家内に聞いたら、この言葉は美容室では常識らしい)。「全然大丈夫ですよ」。ここだけを見れば、なかなか感じのいい光景だ。

顔ぞりも無事に終わり、最後のドライヤーを使った整髪も、「はねさえ抑えていただければ、丁寧に仕上げなくてもいいですよ」と早く店を出ることを考えていた。「わかりました。(整髪剤など)何も付けなくてもいいですか」「ええ、いいですよ」。

私は世界でいちばん優秀な散髪屋顧客であるように身体一つ動かさず、もちろん髪型についても何一つ注文を出さず素直な時間を過ごした。

いよいよ、終わりだ。席を離れようとしたら、「時間つぶしになりましたかね」と考えられもしない優しい言葉。顔に似合わず無理に言っているようにも聞こえたが、これにはまいった。「充分ですよ」と私。「また半年後に来るかもしれません。そのときはよろしく」などと思わず言ってしまった。

「おいくらですか」と最後にドキドキして聞いた(1万円までは覚悟していた)。「3700円です」。「安いな。いつものところより100円安いですよ」「そうですか。いろんな店がありますから」と主人は笑っていた。もっと早く愛想よくしろよ、と言いたかったが、最後はなんとかなった。たぶん、“一見客”だったので、この主人自体が真っ先に緊張していたのかもしれない。私が髪の毛や髪の形にうるさそうな客に見えたのかもしれない。そう思うと一連の流れが見えて来たような気がした。最後には、待っていた(あやしげな)職人ふうのお客さんにも「お先に」と声をかけて店を出てきた。

この主人の散髪といつもの散髪の違いは、もみあげの上から耳から上にかけてのふくらみを薄く(深めに)切ることだ。そうした方が顔全体が細くシャープに見える。こっちの方が格好いい、と私には思えた。1時間近くの緊張の成果があったというものだ。

たまに散髪屋を変えるのもいいかもしれないが、しかしそれはすべてが終わってから言えること。おそろしい出来事に変わりはない。店をでた途端、私はじっくり店の名を見た(店の名前など入ったときは私にはどうでも良かった)。「カワハラ」と書いてある。桜ヶ丘4丁目の1だ。覚えておこう。未だに最初店に入ったときのジロジロのまなざしを忘れはしない。一生忘れないような気がする。

この青年はお父さんが急逝。学業を不本意に中断。泣きつくお母さんのお願いで家業の散髪屋を継ぐ。未だにお嫁さんもいない。特に生き甲斐を感じて仕事をしているわけでもない。店を大きくする気もない。インテリふうで愛想も良くない。話をするのも得意ではない。でも親切でないわけでもない。私は彼と彼の家族を勝手にこう決め込むことにした(お父さん、息子さんは、それなりに頑張っていますよ)。この青年のこれからの仕事に幸あれ! いいお盆の日になりそうだ。

(Version 8.0)


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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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