症状報告(78) ― 「人間は思想だけでは死ねない」が「病気だけでも死ねない」 2006年06月22日
家内がまた入院だ。前回の再発(http://www.ashida.info/blog/2006/04/post_137.html#more)と退院から、一日の“活動時間”はほぼ一時間前後だったが、ここ数日は30分あるかないかか。
後はベッドの中だが、かといって眠れない。クビから下全体に縛りが強く、深呼吸さえできない。笑えないし、声も小さくなりがち。サッカー観戦も盛り上がり方に違いがあるため、別々の部屋で観戦するしかない(家内は寝室、私はリビング)。その上、梅雨の季節だから改善のきっかけをつかめない。梅雨、低気圧、暑さ、寒さ、全てに弱いのがこの病気の特徴。日本では快適に過ごせない。
もともと経口ステロイドを一切止め、ベータフェロンだけの治療に専念する、というのが前回の入院=退院の“成果”だったわけだが、今回の自宅療養は、3年間続けてきた経口ステロイドを止めたリバウンドなのか(安定状態への過渡的な症状なのか)、それとも(どんな薬も効かない)病気の進行なのかが見定めづらかった。
そんな超低迷状態が続いていたところに、いよいよ今日(21日)の夕方には頼りにしていた右足の脱力感が出てきたらしい。これまで自力歩行できたのは、この右足のおかげ。ここをやられると自立歩行はあきらめなければならない。
「もう病院へは絶対に行きたくない」と(症状が微妙に悪くなる度に)日々決意を新たにしていたが、右足がぐらつき始めて、さすがにこの決意も挫かれた。
「今病院に連絡している」と本人から連絡があったのは、私が校長室で仕事の真っ最中の19:00前後。そんなこと急に言われたって、帰れるわけがない。友人に身支度の準備を頼むことくらいが精一杯。
やっと22:30に自宅に帰ったときには、息子の太郎がすでに病院に同伴していた(タクシーを呼んだらしい)。自宅には誰もいない。伝言のメモもない。冷たいものだ。「行ってきます」くらいの一言がなぜ書けないのか(冗談ですが)。
家内の病気、「多発性硬化症」(Multiple Sclerosis)というのは、脊髄の神経の束を守っているミエリンというタンパク質(脂肪層)を、免疫機能が自己攻撃し始める病気。攻撃されるとむき出しになった神経がショートし始め“信号不良”が起こり始める。そうして(家内の場合は)足が動かなくなる。
「多発性硬化症」は、免疫が異物の他者ではなく、自己自身を攻撃し始める自己免疫疾患の一つだ。家内の場合は脊髄だが、視神経を攻撃する場合もある。しかし、(免疫の自己攻撃は)どこに起こってもおかしくないし、何度攻撃してもおかしくはない。だから「多発性」硬化症と言う。「硬化」というのは、そのように攻撃された神経部位が硬化する(正確に言うと神経の脱髄現象によって多くの瘢痕(硬化)が生じる)ことから来ている。
現在、この病気の治療は矛盾している(矛盾せざるを得ない)。免疫機能を低下させ、免疫の攻撃力を弱めるしかない、というのが唯一の“治療”法。それがステロイド治療だ。
当然免疫機能はバランスを失い、他の病気にかかって、そちらの方に体力を殺がれることもある。臓器移植がもつ矛盾に似ている。
新しい治療薬がベータフェロンに続いて今年の末にも認可されるらしいが、そこまで家内の足がもつかどうか、いよいよ深刻な事態になってきた。
太宰治は「人間は思想だけでは死ねない」とどこかでそんなことを書いていたが、もしそうだとすれば「人間は病気だけでも死ねない」と私は付け加えたい。どんな場合でも、何を受け入れるにしても〈受容〉には長い、長い時間がかかる。いちばんつらいことは、その時間を受容するということなのかもしれない。
(Version 1.0)
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