ガソリンスタンドの洗車実習 ― ENEOS新宿余丁町店にて 2005年03月12日
今日は、家内(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=124)の定期診断日。定期診断に長々と付き合うのも面白くないと思って、病院(東京女子医大)近くのガソリンスタンドで、クルマを洗ってもらうことにした。
ENEOS新宿余丁町店だ。ここは利用するのがはじめて。まともにクルマを洗ってくれる店員がいるか不安だった。クルマを寄せると若いお兄さんが近寄ってきた。ハイオク満タンと、それから洗車、手洗いでお願いします」「わかりました」。そこで、私はクルマを降り、ノートパソコンをクルマから持ち出して店内の休憩所で、昨日の校長会の私的議事録を書き始めた。
お兄さんがそこに来て、
「水抜き剤入れませんか」
「そんなに水溜まっている?」
「そういう場合もあります」
「場合だろ。エンジンの調子は3年目でサイコーだけど」「そうですか」
「撥水コーティングはどうですか」
「いくら?」
「1500円プラスです」
「洗車全体でいくら?」
「5500円です」「それは高すぎるよ」
「じゃ、1万円の洗車券はどうですか。一回3000円が2500円になります」
「それはいいかもしれない。でもこのあたりは月に一回しか来ないのよ。それに今日初めてだから、あなたがきれいにしてくれるかどうか見極めないと。それにあなたがきれいにしてくれても、担当者が違えば、どうなるかわからない。あなたもアルバイトでしょ」
「アルバイトです」
「だったら、判断が難しい。洗車は店の能力と言うより、担当者の能力差の方が大きい。そう思わない? あなたの店だって、人によってはいい加減な人いるでしょ」
「いますよね」
「でしょ。だからいきなり1万円券は買えないよ。でも君エライよね。こんなに一所懸命商売して。店長が見ていたら(店長は周りに見あたらなかった)、喜ぶと思うよ」
「ですか」
「よし。じゃあこうしよう。今から洗車して、その結果を私がそれなりに認めたら、買ってあげるよ。きれいにしてくれよ。特にシャンプーの泡は充分に泡立てて。汚れたクルマの表面はちいさな砂粒だらけだから、それをきれいに流してから拭かないときれいにしているつもりで、傷だらけのクルマになってしまうから。クルマは洗車するときが一番傷つくのよ。どんなにひどい雨だって、拭き圧力ほど強くはない。磨くというのは、傷を付ける(見えない傷で見える傷を隠す)ということなんだから、洗車やワックスがけは矛盾した行為なのよ。泡は大量に出してよ、頼んだぞ」
「わかりました。頑張ります」
校長会の私的議事録の作成に没頭していたら、30分くらい経って、
「できあがりました。見に来てください」
「早いね。よし見てやるか」
私の洗車チェック。
すぐさま、身をかがめて、車体下部をのぞき込んだ。水滴がバンパー下部も含めて残っているのが見える。
「ちょっと、来い。見てごらん、水滴が残って、しかも全く拭けていない。車体下部の回り込んだところは、こうやって拭くんだよ。すぐにきれいになる」と実践的解説。「このあたりは気配りの範囲内だよ。2000円、3000円くらいの洗車料でもやるべきだよ」
今度はドア周り。ドアを開けてみる。
「また(ドア受け部に)水滴が付いているよ」
「中からは拭いたんですけど」
「ここはドアをあけて、きちんと拭くべきだよ。案外目立つところなのよ。錆が出るのもここが一番多い。わざわざ雨でもないのに水をかけるのだから、かけた水はすべて拭き取るつもりでいないとダメだよ」
後ろに回ってトランクドアを開ける。
「ここも水滴が付いたまま。トランク開けていないでしょ」
「開けていません」
「ここは開けて拭かないと。さっきのドアと同じことが起こっている。お客様にはトランクを勝手に開けると怒る人もいるから、『トランク、開けていいですか?』と一言声をかければ“清掃上級”。中にはトランクに箱一杯のアダルトビデオを入れてたりする怪しげな人もいるからね。それでも開けて水滴を拭き取れば“中級”ってとこかな。それにドアを開けてエッジを拭けば、しめた時のエッジの部分が外からドアを閉めたままで拭いているときよりもはるかにきれいになるでしょ。こう拭くんだよ(実践付き)」
「なるほど」
「やっぱり、1万円券は買えないな」とレジ周りにまで戻る。
「あなた何歳?」
「20歳です」
「成人式この間だったのか。僕の息子と一つ違いだ。84年生まれか。僕の息子も洗車をさせればこの程度なのかな。ショックだね。学生?」
「そうですよ」
「何学部?」
「もうそこから先は言いませんよ」
「なんでだよ」
「大学は?」
「言いませんよ。ちょー有名ですけど」
「言えよ」
「言いませんよ」
そう言いながら、逃げていってしまった。洗車に実践付きで注意されたことがショックだったみたいだ。「ちょー有名ですけど」と言ったのが、せめてもの彼のプライドだったのか。ひょっとしたら、新宿余丁町のガソリンスタンド。私の遠い後輩だったのかもしれないし、息子の一つ先輩かもしれない。頑張れよ、お兄さん。洗車もその人間の知性と人生のすべてが表れますよ。世の中、何一つ手を抜いてはいけません。
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