リコーテクノシステムズ講演は楽しかった。 2005年03月01日
昨日は、台東区浅草橋にあるリコーテクノシステムズ(http://www.r-ts.co.jp/)本社に行ってきた。
全国の事業部長以上を集めて、経営会議を午前中に行った後、午後からは、私の講演研修。事業部長だけではなく取締役も参加。それに、メーカーのリコー(http://www.ricoh.co.jp/)、リコー販売(http://www.r-hanbai.ricoh.co.jp/)、要するにRICOHグループ他2社の事業部長も参加。総勢85名を超える上級幹部職のみなさんに、よりにもよって私が講演。
こんなことになったのもわけがある。
昨年の暮れ、私の学校の卒業生が欲しいと、リコーテクノ東京支社長の山下さんが直々に学校を訪問されたので、急遽私が対応し、「今の段階で就職していない学生は私としては推薦しづらい」「優秀な学生は早く就職が決まるし、今年も私の学校は8月末で80%以上の学生が就職しているから、余計に推薦しづらい」と正直に申しあげたのがことの始まり。そのとき、私は何を山下支社長に話したのか覚えていないのだが(しかし1時間くらいは話していた)、その後少し経って、同行していたマネージャーの木口さんから突然以下のようなメール。
「リコーテクノシステムズの木口でございます。実は当社の支社長山下が訪問した際に、お聞きしたお話の内容に大変感銘をうけたことを、社長川村に報告したところ是非とも校長先生にお会いしたいと申しております。お忙しいところ恐縮ですが、一度お会いいただけませんでしょうか」。
こんなメールが年明け早々の1月14日に飛び込んできた。何に「感銘」されたのかわからないままに、では、と言って1月27日を指定したら、本当に社長の川村収氏が、東中野くんだりの狭い校長室に直々にお出でになった。
ところがたいへん気さくな方で、しかも個性的。「芦田が個性的というのだから、かなり個性的なんでしょう」と、この間かなり言われたが、そうでなくても、支社長の偶然の言葉一つで、「よし学校へ行こう」と決断されること自体が“個性的”。
私は(大企業の社長をお迎えするには)かなり狭い校長室で恐縮しながら、現在の学内改革の話をご紹介したのだが、「いやー面白い、面白い」をただひたすら連発されるだけ。最初のうちは、この社長、私の話、真剣に聞いているのか? と思うくらいに「いやー面白い、面白い」ばかり。私は初対面でとまどうばかりだったが、「一度、私の会社の幹部たちに先生の今おやりになっている教員組織マネージメントの話をしてもらえないか」と持ち出された。また面食らってしまって「私でお役に立てるのなら、いつでも」と二つ返事。
嵐のように30分くらいで立ち去られたが、社長一流の“社交辞令”とタカをくくっていたら、また木口さんからメールが来た。
芦田校長先生
大変お世話になります。
先日、お話があった講演をお願いしたいのですが。
2月28日(月)に当社の経営者会議が行なわれるのでその際に講演を1時間〜2時間くらいお願いできないでしょうか。
開始時間は先生のご都合に合わせて何時からでも結構です。
このメールが2月7日。
本当の話になってしまった。
私はすぐに木口さんに電話をし(メールでやりとりをしている場合ではない)、「参加者の役職や人数が決まり次第教えてください」とお願いしたが、木口さん自身が本当のことになってとまどっている感じ。「大変だね」と言うと「大変ですよ」と素直な木口さん。
2週間ほど経って、「人数は全部で85名。事業部長以上が中心」と連絡が入った。「事業部長って、部長職?」ってバカな質問をしたら、「それ以上ですよ」と。「しかも全国の事業部長が集まります」「東京支社の、じゃないの」「それが全国なんですよ。私も驚いています。メーカーのリコーやリコー販売の事業部長も一部加わります」「あなたもますます大変だね」「そうなんですよ」。
そして昨日の講演会になった。
何といっても社長の川村さんが音頭を取られているため、本社ビル(CSタワー)18階のエレベータを下りた途端、列をなしたかのようなたくさんの社員(しかも幹部社員)に出迎えられて面食らう。われわれは、理事長のお客様でもこんな丁寧な扱いをすることはない(まして校長の客なんて…)。学校というところは、なんといい加減なところか。
話の内容は、「コマシラバス」を中核に据えた、授業管理の仕組みについてのものだった。教育の中核は、90分の授業。学校教育の最小単位である“90分の授業(1時限毎の授業)”に評価の仕組み(それをわれわれは「AG評価」と呼んでいるが http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=297 )を組み込むとあとは、目標設定から達成評価の全指標が必要に応じて自由に取り出せる。
受講クラス単位、学年単位、科目単位、教員単位、科単位、期単位(コマ単位、日単位、週単位、月単位などなど)、年度単位、学校単位で目標を設定し、同時に達成評価や進捗管理も可能になる。学校組織の時間的、空間的文節のすべてで、変化(改善と停滞)を読み取ることができる。
組織管理で重要なのは、評価でもなく、目標でもなく、目標と評価。二つは同時に設定されないと意味がない。また形式的に設定されるだけではなく、日々の変化に対応する目標管理が重要。そのためには組織活動の実体的な最小単位(学校で言えば、毎時間毎の授業、企業で言えば、たとえば営業マンの顧客情報)に定位する目標と評価の体制を形作らないと実のある“システム”にはならない。
これからの学校間競争のテーマは、1にも2にも教育力。しかし教育力とは何かという問いに答えることほど難しいことはない。われわれの試みはその外堀を埋める作業の一環に過ぎないが、なんとか緒についたという感じだ。
などと1時間30分近く話したが、この講演の最初の10分で面白いことが起こった。研修ルームは横に長い部屋で、プロジェクター(PANASONIC製)が左右に二つ設置してある。正面向かって左に演台があり(私の演台の正面2メートル足らずのところに社長の川村さんが座られている!)、そこで私はパワーポイントを使いながら話し続けたのだが(パワーポイントというツールなしには私は人前で話せない)、私は、パワーポイントスライドの見出し文字を赤色にする癖がある。その上、私のスライドはいつも地の色が青。青地に赤文字はほとんどのプロジェクタで、その色が出ない。
昨日も表紙のスライドだけはその場で赤文字を白文字に即座に変えたが、スライドをめくっていくうちに、やはり小見出しが見えず、「配付資料で文字を補ってください」と言いながら話を続けた。そしてつい口が滑って、「ここはリコーテクノ、というくらいだから、この赤文字が出るプロジェクタが用意されていると思いましたが」と(社長の前で)冗談を言ったのが運の尽き。一瞬会場は笑いでどよめいたが、数分経つと会場でちょこちょこと動く人がいる。社長が何かを指示している。目障りで私も気になっていたが、どうやら、社長さんが小声で“なぜ赤が出ないんだ、出しなさい”と指示した模様。
最後には、“テクノ”マンがやってきて、「ちょっとディスプレイケーブル(RGBケーブル)を抜き差ししてもらえますか」と話している最中の私に打診。「いやー、そんなことでは赤は出ませんよ。赤は元々出ない色なんですよ。特に青地に赤はどこでも出ないんですよ。そんな色を使った私が悪いんですが」、とタイピンマイクを通してそのやりとりが会場に聞こえる。それを聞いた社長の川村さんが「でも、先生、とりあえずやってみてください」。そこで抜いて指し直したが、やはり赤色は出ない。「こういうのを“墓穴を掘る”と言います」と私が言うと会場は和んだが、社長も「だよね」とあきらめ顔。
私は、このとき、トップというのは、いつもここまで動く人のことを言うんだ、と心の中で感心していた。中間管理職程度なら、こんなことは分かり切った顔をして何もしようとしない。「別に赤が出なくても配布プリント見ればわかるし…」で終わりだ。
わが学園でも時々思うのだが、廊下に落ちているゴミを科長(中間管理職)はなかなか拾おうとしない。曲がって傾いている館内表示板を直そうともしない。これは良心やマナーの問題ではない。中間管理職は、学校を“自分の”学校だと思っていない。だから拾おうとしないし、直しもしない。赤が出ないプロジェクタに心を砕く川村社長の気持ちが、学校の校長である私でもよくわかった。
質問は大きく分けて三つ出た。
1)研修トレーナー評価の担当者の質問。どうやって講師(トレーナー)を評価したらいいのかわからないというもの。まず、私は心理主義や相対評価に終わる講座アンケートに頼るのは良くないと答えた。大事なことは、何を教えたいのか、何を各部署から期待されているのかを充分に練り上げて、それを講師と受講者との間で充分に共有すること。講座の内容のイメージ(=コマシラバス)を管理者が持つことが重要だと答えた。それなしには、講座評価、講師評価などありえない。講座の目標がはっきりしていない、いつも講師任せ(講師の腕次第)という状態では講師評価を口にする資格はない、そう答えた。
2)こんな改革をやって、学内での反発は相当大きかったのではないか?、というのが第2の質問。これに私がどう答えたのかは、ここでは書けない。想像してください。
3)学校営業に関心のある担当者の質問。こんな学校がある、という案内を他の学校へ紹介してもいいか? またその結果、学校を訪問したいという関係者が出てきた場合、訪問してもいいのか? という質問。私は、紹介も訪問も大歓迎だが、紹介は私たちの学校の何を伝えるかによってはデリケートな部分があるので、できることなら私を呼んでください(笑い)、いくらでも協力しますので、と答えておいた。
まだまだ質問が出そうな気配だったが、時間が押していたので、これまで。あっという間の二時間だった。
講演が終わった後は、食事に招待されて、リコーテクノ本社近くの「初音寿司」という老舗の寿司屋に入った。
「後で、事業部長たちに感想を聞いたら、学校なんて永遠に変わらないと思っていたら、やっぱり変えようと思えば変わるんだという感想が一つ、もう一つは、AG評価などの数字の話ばかりをしているようで実は芦田校長の熱意が一番のキーポイント、というのが二つめの感想、三つ目は…」と矢継ぎ早に川村社長の事後談が続いた。もう講演の感想を聞いていらっしゃる、これもトップのスピード感。後で、ということがない。「芦田校長、私の会社も明日から『コマシラバス』事業計画を作りますよ」とのこと。となりで、マーケティング推進室長の追川さんが、困ったな、という顔をしている。「大変ですよ、追川さん」と励ましておいた。
これまでは、大学、専門学校、高校の先生たちなど教育関係者の前で話したことはあるが、企業人を前にしての話ははじめて。でもよく考えると。実務教育の歴史をもつ専門学校の関係者が企業人とこういった交流を持つのは当たり前と言えば当たり前。これができていなかったというのが、むしろわれわれの最大の反省でなければならない。久しぶりにエキサイティングで楽しい一日だった。
追伸(1):社長、リコーテクノシステムズのホームページ(http://www.r-ts.co.jp/)も、ライバルの一つの理想科学と同じように(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=404)、古いフレーム技術で作られていて、社長を紹介しようとしても直接の頁にリンクを張れません。「会社案内」の「ご挨拶」の階層のところに、川村社長は会長の顔写真とともに登場していますが、この頁のアドレスはトップページと同じになっているため、リンクが直接張れません。「ITソリューション」を提案する企業としては恥ずかしいホームページです。何とか直して下さい。
追伸(2):100年を超える老舗の「初音寿司」。おさしみはおいしかったのですが、肝心の最後に出てきたお寿司がもう一つの味でした。今度は私がおいしいお店を紹介します。
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