東京工科専門学校の教育改革(最終回) 2002年08月04日
『日本教育新聞』(http://www.kyoiku-press.co.jp/)の企画も、今回で最後となりました。最初4回で予定されていたこの連載も(諸般の事情で)6回まで延長されましたが、まだまだわれわれの改革の全体をお伝えするところまでは言っていません。詳細は、2年前のものですが、「高等教育における授業改革とは何か ― 教育における目標と評価」(東京都専修学校各種学校協会 平成13年度紀要論文http://www.tera-house.ac.jp/profile/ashida01.htm)をご参照下さい。
東京工科専門学校の教育改革(1:シラバス改革の幻想)http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=9
東京工科専門学校の教育改革(2:授業評価という課題)http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=15
東京工科専門学校の教育改革(3:補習・追再試、担任制の諸問題)http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=19
東京工科専門学校の教育改革(4:作品評価、実習評価の諸問題)http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=20
東京工科専門学校の教育改革(5:「コマシラバス」改革)http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=26
●東京工科専門学校の教育改革(最終回:実行評価のある授業評価)
授業計画は、シラバス・コマシラバス・履修判定試験の三つがそろって、はじめて計画になる。この三つが揃うと、その科目が何(シラバス)をどう(コマシラバス)教えようとしているのか、また教えたことをどう評価しようとしているのか(履修判定試験)がわかる。しかし、これらはそれでも計画(プログラム)にすぎない。シラバスと実際の授業とは必ずしも同じではない。同じくコマシラバスがあるからといって、そのコマシラバス通りの授業が行われているとは限らない。
計画上の尺度と実行上の尺度とは、必ずしも一致しない。そこでわれわれは、コマ単位で、広い意味での教材の一つとして〈授業シート〉を学生に配布することにした。このシートは三つでワンセットになっていて、一つは、各授業の冒頭で配布する、そのコマの全体を概観するための「今日の授業」シート、二つ目は、授業の最後で配布・実施する、そのコマ目標の達成度を学生に問う小テスト「授業カルテ」シート、その授業カルテの模範解答シート(間違った場合にはどうすればよいかまでを記してある)の三つである。A4用紙各一枚で、計3枚。これがコマ毎に全授業で配布される。実行上の評価は、この三枚があれば可能になる。
この中で一番重要なシートは、「今日の授業」シートだ。これまで教員は〈授業概観〉を行うことをしなかった(復習を授業冒頭に行う教員はいても)。理由は簡単。今日、何をやるかは、教員自身が一番よく知っているからである。しかしその授業を受ける学生からすれば、授業の意味は、授業の最後になってやっと露呈することになる。受講過程の一つにでも躓くことがあれば、緊張を維持したり、理解の連鎖を追うことができなくなる。したがって、どの授業でも理解の基盤作り(理解のレフェランス)として、その授業の全体をまず概観することが肝要になる。「今日の授業」シートはそのためのものだ。
「今日の授業」シートは、科目全体の授業目標である「シラバス欄」、当該コマの授業目標である「コマシラバス欄」、10項目の学習「主題欄」(90分の内容を10ポイントに“目次化”したもの)、10項目に分節した学習主題の理解の鍵となる「キーポイント欄」、同じく学習主題のテキスト教材上の参照箇所を示した「参照文献欄」、そして当該コマについての注意すべき全体的なコメント(200字程度)。以上の6項目のインデックスからなっている。
このシートの学習「主題欄」を特に利用して、そのコマで習う概要を必ず授業冒頭5分から10分は入れる。これは、いわば、コマ目標の学生への宣言、しかも計画上の宣言ではなくて、実行上の宣言だ。従来の授業評価に根本的に欠けていたのは、この実行上の宣言の評価だった。
計画上の目標、実行上の目標(計画上の目標へ向かっての日々の実行上の目標)がそろってはじめて日常的な〈授業評価〉が可能になる。
こういった評価は、あれこれの“授業法”改善や授業“管理”のためというよりも、?授業改善の契機(計画、実行上の不備)を早期に見出し、学生や社会の教育的な負託に確実に応えるためのものであること ?改善後の次課題を早期に見出し、目標そのものの高次化に備えることが、主要な動機になっている。
少子化による基礎学力の相対的な低下とグローバル化による高度人材要求に対する答えは、教育力の向上以外にないと、この連載の冒頭に書いた。教育力の向上のためには、〈授業評価〉の力を付けることだ。これがわれわれの解答である。
なるほど、教育改革には多様な試みがありうるだろう。教員改革、教材(教育設備)投資、カリキュラム改革、マーケティング主義など、これらは、どの一つをとっても継続性や発展性を欠いた改革でしかなかった。なぜかといえば、そういった諸契機が集約される授業現場を看過し続けた改革だったからである。〈授業評価〉のないところでは、教員、教材、カリキュラムは空回りし、腐敗するばかりだ。そして〈授業評価〉のないところに、学生募集が継続的に向上することはありえない。
東京工科専門学校グループの教育改革に是非注目していただきたい。(了)
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