連載:高等教育・職業教育・生涯教育(2) 2001年01月07日
「芦田の毎日」129番からの連載:高等教育・職業教育・生涯教育(2)
〈教育評価〉を具体的に展開するためには、以下の四つの要素に注目しなければならない。
誰が=教員評価(教員の専門性評価など)、誰に=学生評価(学生の基礎学力評価など)、何を=カリキュラム評価、どこまで=履修評価、教えたかということ。
この評価4要素の中で何が鍵を握るかと言えば、最後の要素「どこまで」としての履修評価であるにちがいない。
たとえば、「何を」としてのカリキュラム評価は、最近のシラバス改革などで具体化、詳細化されつつある。
「シラバス」を具体化詳細化して、「何を」教えているのか内外に明示しようとする運動は最近の高等教育改革のはやりである。年々シラバスは分厚くなり、改革は着実に進んでいるかのようである。
しかし、「シラバス」自体は教育ではない。「シラバス」をいくら具体化詳細化しても、それが実際の教育内容を意味するわけではない。
「シラバス」は計画(これからそれがなされるだろうという)にすぎないからだ。
「シラバス」を具体化詳細化することと教育評価が充実することとは直接関係のないことなのである。
計画があれば、実績もまたあるはずである。計画が具体化詳細化されるのは、それを単なる計画で終わらせないためである。
シラバスを具体化詳細化することにもし意義があるとすれば、それが教育の実際としての出口の成果と対照されるときにだけである。
したがって、シラバスは、「どこまで」学んだか、という履修評価と結びつけられてこそ意味を持つ。履修評価と結びつかないようなシラバスの具体化詳細化は、単に結論のでない作文をながながと読まされているようなものでしかない。
履修評価の代表的なものは、試験である。
しかし高等教育における試験ほどいい加減なものはない。
専門性の壁に囲まれて、その試験が妥当か、その採点が妥当かを評価するすべを失っているからである。
中等教育までの試験(「中間試験」「期末試験」など)であれば、目標が大学受験で明確化されていたり、塾や予備校に日常的に包囲された中での試験であったり、あるいは相対評価の中での試験であるため、試験評価を共有化(=公開化)するある種の基準が存在しているが、大学や専門学校の試験にはそれに対応する評価軸が存在していない。
そのため、履修評価(=試験、及びその採点)が個人的・主観的になりやすい。どれほど入り口側のシラバスを明確化しても、出口に当たる履修評価が曖昧になると意味がなくなるのである。
履修評価(=試験、及びその採点)が個人的・主観的になりやすい理由は、大学と専門学校とでは事情が違っている。
大学の場合は、講座の独立性(他の科目との関連性が薄い)が高く、また選択科目数が多いため、出口評価としての試験を厳密に行う必要がないということがある。そのため、シラバス通りの授業達成が可能でない場合でも(赤点をたくさん輩出した授業であっても)、問題が深刻化しない。また次の年に再履修するか、他の科目を取り直せばよいからである。不合理で不適切な採点がなされても(あるいはシラバスの内容と違う授業や試験がなされても)〈評価〉問題が前面化しない“構造”があるのである。
専門学校の場合は、2年間全体で一つの技術を習得するという組織的なカリキュラムになっており時間割に余裕がなく、ほとんどの授業が必修であるため、安易に赤点採点できない事情がある。一科目でも落とすと再履修不可能なくらいに時間割が緊密に組まれているからである。赤点で落第させた学生は、ほとんどの場合、退学してしまう。教務的にというよりは、経営的に赤点を出せない事情にある。
短大の場合は、両者の傾向を同時に抱えている。評価を巡る破綻は短大が最も深刻な状況にあると言える。特に卒業学年の2年生になって就職が決まった学生の履修評価の厳密性などという課題は短大にはほとんどないと言ってよい。
就職が決まっているにもかかわらず、一科目の未履修(落第)でその学生を留年させる(就職を放棄させる)だけの内実ある授業を行っている短大などどこにもないからである。短期的に(2年で)集中した教育を行わなければならないという課題と“教授”の講座の独立性との最大の矛盾は就職評価と科目評価との対立で先鋭化するのである。
そして「せっかく就職できたのだから」ということで、学生側へのサービスを装いながら、自らの(教育主宰側の)教育評価の杜撰さを覆い隠す傾向が年々強化されつつあるというのが実状に近い。“教授”主導で四大のまねごとをしてきた短大に未来はないのである。
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